転移する理由が見つからない 088
記憶が一部飛んでしまった大慈が、状況を確認するようです。
転移する理由が見つからない 088
「結局、ここはまたトレード用の場所とか休憩所とか、そんなところか?」
ついこの間トレードに出されたのに、またか。
元の世界に帰るには、観察者に会わなきゃいけないんだよな…あれ? 前ってどうやって帰ったんだっけ?
「そこにいる観察者の占有場所ダネー」
プライベートエリア、ということか。
しかし殺風景な上に汚いところだな。
動かない所為で埃とかヒドイし。
よく病気にならないな。
あ、逆か。病気にならないから清潔に保つ必要が無いのか。
「そして、二人の世界の観察者ダヨー」
「あ?」
「ひぃっ!!」
…何だろう。目を向けるだけで怯えられると、ちょっと傷つくな。
しかし、俺の世界の観察者か。
つまりあれだよな? 俺がこれまで生きて来た情景を見ていた、ってことになるよな?
「…そうか。お前にはどうしても聞いておかなきゃいけないことがあるんだよなぁ」
「ひぃぃぃぃッッ!!」
俺の人生が、いつになったら報われるのか。
全く報われることが無い人生が続くと、答えが欲しくなる。
ただ質問をしているだけだと言うのに、この脂肪は殺されるような悲鳴をあげて、少しでも俺から離れようとしている。
こんな世界に一人でいるから、マトモに会話も出来なくなっているんじゃないか?
そう思って一歩近付こうとしたら、右手が包まれた。
何故か無意識に拳を握り振りかぶっていたらしい。
身体が勝手に殴ろうとした様な、そんな動きだ。
不思議だなぁ。
「ダメ」
俺の右手を両手で包み込んだ立花は、とても悲しそうに見えた。
怯えている奴を殴る。
それは見ていて心が痛むのだろう。
いや、当然俺もやる気は無い。
他人を痛めつけて喜ぶ様な趣味は無いからな。
「か、カラカナ…いや、カラカナ様。【捧げる】。【崇める】。だから…だから、助けてくれっ!」
余程、見慣れない相手が嫌なようだ。
確かに俺でも、見知らぬ相手が拳を握って近づいてきたら、考える。
若い頃ならわざと一撃を受けてから、動かなくなるまで殴ったりしてたけど、俺も結構な年になったからな。
ちゃんと通報して刑事と民事で訴えるように心がけを改めた。
だが、脂肪の様子からはそうした感じが無いな。
本当に逃げることしか考えていない様だ。
そのためにはなんでもするくらいの勢いで、カラカナにお願いしている。
…うん、なんでもって言ってるな。
脂肪が多すぎて動けない様だが、土下座してでも逃げたいらしい。
…俺ってそんなに怖いかな…ちょっとムカついてきた。
「そこまで言うなら仕方ないナー」
カラカナがそう言うと、脂肪が消えた。
赤い観察者の様に、違う世界とか本来の場所とか、なんかそんな所に行ったのだろう。
カラカナは笑顔を浮かべていたが、いつもよりも嬉しそうに見えた。
脂肪から良いものでも貰えたのか。
…まさか、カラカナの巨悪が更に成長をするとか?
………痛い痛いぃ! 立花! 手ェ潰れる!
エンドレスでボコボコにされた相手が近寄り、拳を振り上げ、同じ質問をしてきたので、脂肪は必死になって逃げることを選びました。
そのためにカラカナに【捧げ】【崇める】ことを誓約したようです。
トラウマを与えた当人は、何故そんなに怖がられているのか全くわかっていません。記憶が飛んでいるので。
なお、巨悪は育ちません。




