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転移する理由が見つからない 078

2人で生還するため、避難経路を探すことにしましたが、果たしてそんなルートがあるのでしょうか?


転移する理由が見つからない 078





窓にたどり着くと、ベランダでバランスボールが待っていた。

さっき転がって行った時よりも、大分汚れているような気がした。

ベランダの床にできたヒビから煙が滲み出ているのが見えて、相当危険な状況だと思い知る。

割れた窓の外をのぞき込み、足場を確かめる。

ベランダが崩れた瞬間に地上まで落ちる危険なルートしかないが、ルートが一つも無いよりはマシだろう。

そう思ったのがいけなかったのか。


急速に視界が流れた。


最初に見えたのは、宙に浮いたバランスボール。

重力がおかしくなったように、俺たちの身体が天井へと叩きつけられて、下敷きになった俺の腰が悲鳴をあげた。

肺から空気が押し出されて、一瞬意識が途絶える。


自分では動くことも出来ない、振り回される感覚。

バカでかいブランコのオバケみたいな遊園地のアトラクションを思い出す。

隣の家のベランダにあった、蹴破り壁を塞いでいた植木。

それが跳ね回るバランスボールを吹き飛ばし、割れた窓を飛び越してきた。

植木がぶつかった衝撃は身体に伝わってきたが、直撃はしなかった。

俺を抱き締めるようにした彼女に当たったのだと気付いたが、動くことも出来ない。


眩暈のような感覚が止まり、壁だったはずの場所に横たわったまま彼女を抱き締めていることを確かめる。

ぐったりと力が抜けた身体の感触を味わう余裕も無い。

部屋にあった家具が、床から離れて落下している。

冷蔵庫は床を破って何処かへ消えた。


椅子や机が壁を叩き、照明は砕けて破片を撒き散らす。

その一部は俺たちがいた近くにばらまかれ、隣の部屋が坂道に並ぶように向きを変えたのだという理解が意識にねじ込まれる。

正面にある棚は地震対策で固定されていたが、中身は開き戸へとぶつかって飛び出す準備をしていた。

辛うじて地震対策用のフックロックにより止まっているが、時間の問題だろう。

いや、中身の心配をしている場合じゃない。

棚そのものが、倒れて滑り落ちて来そうな気がする。

固定されている箇所が、いつまで保つか。

あの棚が落ちて来たら、確実に壁が抜ける。

そうなれば、もうどうにもならない。

窓の外を見ると、普段ベランダから見えている建物が見えた。


自分が、この家がどうなっているのか、否応なしに理解させられる。

トレーラーが土砂を降ろすように窓を下にして傾いていた家は、トレーラーが横倒しになったように、その向きを変えていた。

今では俺が背にしている壁が、最も下にある。

炎と煙が吹き出したマンションのベランダの傍。

崩落してぶら下がっているような状態で。


そして右脚が動かず、腰を痛め、気を失った女を抱き締めて。


目の前では、壁を突き抜けるだけの重さがありそうな棚が。

「救われたいだろう? 【祈れ】」


それが落ちて来ないとしても、中身が飛んで来れば、更に身体は痛めつけられる。

「助かりたいだろう? 【崇めよ】」


仮に立ち上がれたとしても、横になった家から隣の家へと登り、落下する危険が無い場所まで行く必要がある。

気絶した女1人を担いでだ。

「命が惜しいだろう? 【讚えよ】」


それ以前に、今こうして倒れている間にも、壁が軋みをあげている。

崩れてしまえば、どうすることも出来ない。

「恐ろしいだろう? 逃れるために、全てを【捧げよ】」


恐怖のためか、幻聴が聞こえる。

助けてくれるのか?

両腕に感じる温もりを強く抱き締めても、震えが止まらない。

そして、俺は震えながら口を開き……。




状況はどんどん悪化し、避難経路もあるようには思えません。

そんな大慈の耳には幻聴という形で、観察者からの声が聞こえているようです。

この絶望的な状況で、大慈は何を思うのでしょう。


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