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第39話 選別される世界と埋もれる名品、あるいはユニークアイテム・ロンダリング

 ダンジョンゲートが世界に出現してから、半年と少しが経過した。

 日本のダンジョン攻略史において、この時期は後に「大選別時代」あるいは「第二の眼の開眼」と呼ばれることになる、転換点だった。


 きっかけは、日本政府による『アナライズ・レンズ(鑑定レンズ)』の一般販売開始だ。

 当初は5000個限定で上位層にのみ配られていた、この魔法のデバイスが、生産体制の安定により、ついに一般のC級、D級探索者たちの手にも届くようになったのだ。


 港区ミッドタウン・タワー。

 ギルド「アルカディア」のマスターオフィスにて、俺、八代匠は、モニターに映し出されるダンジョン内部のライブ映像を眺めながら、満足げに頷いていた。


「……変わったな、劇的に」


 映像の中では、中堅クラスの探索者パーティーが、オークの集落を攻略している。

 以前なら彼らは、ドロップしたアイテムを片っ端からリュックに詰め込んでいただろう。

 錆びた剣も、ボロボロの盾も、全てが金になると信じて。


 だが、今の彼らは違う。


 リーダー格の男が装着した『メガネ型鑑定レンズ』越しに、ドロップ品を一瞥し、次々と指示を出している。


『これはノーマル品だな、MOD(追加効果)なし。ゴミだ、捨てろ』

『こっちは……おっ、マジック品だ。「筋力+5」が付いてる、キープだ』

『これは当たりだ! レア(黄色)反応! 絶対に持って帰るぞ!』


 選別。

 彼らは「選ぶ」ことができるようになったのだ。

 無駄な荷物を背負わずに探索を続けることで、一回の探索における収益率(利益密度)は飛躍的に向上した。


 結果、市場に流通する装備の「平均品質」が底上げされた。

 オークションサイトからはゴミ出品が消え、実用的なマジックアイテムやレアアイテムが、ずらりと並ぶようになった。


「いい傾向だ。

 これでF級~C級探索者の懐も、潤い始めた」


 俺はコーヒーを啜った。

 これまでは魔石やオーブの売却益が主な収入源だったが、これからは「良質なドロップ装備の売却」が大きな柱になる。

 100万円、500万円といった金額が日常的に動くようになり、彼らはその金でさらに良い装備――俺たちが供給するハイエンド品を買う。

 そして使い終わった「お古」を高値で売り、それを新人が買う。

 黄金のサイクル(エコシステム)の完成だ。


          ◇


 そんな好景気に沸く市場の中で、俺が特に注目し、そして手ぐすね引いて待っていたのが、「低級ユニークアイテム」の動向だ。

 鑑定レンズの普及と、300万人に膨れ上がった探索者人口による「数の暴力」は、これまで都市伝説扱いされていたユニークアイテムのドロップ報告を激増させた。


 俺はオークションの検索フィルタを「レアリティ:ユニーク」に設定し、一覧を表示させた。


『疾風のブーツ(ユニーク)』 現在価格:350万円

『ゴブリンスレイヤーの小手ユニーク』 現在価格:280万円

『血塗られた吸血鬼の指輪ユニーク』 現在価格:400万円


「……300万前後で、収束してきたか」


 供給過多による値崩れだ。

 一般の探索者にとっては「頑張れば手が届く憧れの装備」となり、トップ層にとっては「通過点の装備」という認識になりつつある。


 だが、ここに落とし穴がある。

 彼らはレンズのおかげで「名前」と「数値」は見えているが、そのアイテムの「真の価値シナジー」までは理解していない。

 一見すると弱そうに見える効果が、特定のスキルやビルドと組み合わせることで、爆発的な性能を発揮することを知らないのだ。


「リン。

 買い占めの状況は、どうだ?」


 俺が声をかけると、隣のデスクで複数のタブレットを操作していたリンが、ニヤリと笑って親指を立てた。


「順調です、マスター!

 指定された『安値で放置されているユニーク』、事務員さんたち総動員で片っ端から落札してますよ。

 『腐った根の杖』とか、『重すぎる鉄下駄』とか……倉庫がガラクタ……いえ、お宝で埋まりそうです」


「よし。

 今はゴミに見えるかもしれないが、それらは全て化ける」


 例えば『腐った根の杖』。

 効果は「魔法ダメージ-20%」という強烈なデメリットが付いているため、誰も見向きもしない。

 現在価格50万円。捨て値だ。

 だが、この杖には隠された効果がある。

 「毒属性スキルの持続時間+100%」。

 これを毒魔法特化ビルドで使えば、総ダメージ量は通常の杖の比ではない。


「50万で仕入れて、ブログで『毒ビルド最強説』を解説して、500万で売る。

 ボロい商売だ」


 俺は悪徳商人の顔で笑った。

 これを俺は『ユニークアイテム・ロンダリング』と呼んでいる。

 価値の定まっていない原石を買い叩き、知識という付加価値をつけて、高値で売り抜ける。

 鑑定スキルと攻略知識を持つ俺にしかできない錬金術だ。


「在庫が50個ほど溜まったら、記事を投下するぞ。

 タイトルは『【悲報】お前らがゴミだと思って捨ててるその杖、実は環境トップメタ装備です』……とかでいいか」


「うわぁ、煽りますねぇ……。

 また掲示板が荒れそう」


 リンが楽しそうに笑う。

 市場を操作し、トレンドを作り出し、利益を吸い上げる。

 この資金が、また次のギルド運営費へと変わるのだ。


          ◇


 さて、金稼ぎの話はこれくらいにしておこう。

 俺たち「アルカディア」の本業、ダンジョン攻略の方も次のステージへと突入していた。


 場所はB級ダンジョン『紅蓮の火山』。

 俺が以前警告した「全耐性-30%のデバフ地獄」が支配する灼熱のフィールドだ。

 だが今の俺たちにとって、そこはただの「熱めのサウナ」程度の場所でしかない。


「アイスストーム!」


 ドガガガガッ!

 雫の杖から放たれた氷の嵐が、溶岩の中から現れた『マグマ・ゴーレム』を一瞬で冷却し、粉砕する。

 飛び散る破片。


 通常なら即死級の熱波が襲ってくるエリアだが、俺たちは涼しい顔で歩いている。


「ふぅ……。

 やっぱり耐性105%あると違いますね。

 マグマに足突っ込んでも、『ちょっと熱いお風呂』くらいにしか感じません」


 田中がタワーシールドを構えながら、呑気なことを言う。

 彼の全身を覆う重装鎧は、俺が「火炎耐性」を理論値限界まで詰め込んだ特注品だ。

 デバフで30%引かれてもなお75%(キャップ)を維持している。

 実質、炎ダメージを4分の1に軽減している状態だ。


「油断するなよ。

 そろそろ下層だ。敵の密度が上がるぞ」


 俺は二刀流の剣を構え、周囲を警戒した。

 レベルはすでに40。

 B級ダンジョンの適正レベル帯(40~50)だ。

 しかし理論値装備でステータスも装備も仕上がっている。

 今の俺たちなら、B級下層のボスすら余裕で周回ファーミングできる。


「マスター。

 後続の『第二班』と『第三班』からも、C級ダンジョンでの素材回収完了の報告が来ています」


 戦闘の合間に、乃愛ウィズがインカムからの報告を伝えてくる。

 現在アルカディアには、俺たちトップチーム以外にも数十名のギルドメンバーが所属している。

 彼らは俺たちが切り開いたルートでレベリングを行い、必要な素材(オーブや魔石)を回収する役割を担っている。


「よし。

 彼らも順調に育っているようだな。

 B級の攻略が安定したら、彼らにも『耐性装備』を配布して、ここでパワーレベリングさせるか」


 組織としての厚みが増してきた。

 だが、これから挑むスタンピードやA級ダンジョンを想定すると、まだまだ手数が足りない。

 特に特殊な役割ロールをこなせるスペシャリストが欲しい。


「……そろそろ『あれ』が本格化する頃だな」


 俺は溶岩の海を見つめながら呟いた。

 鑑定レンズの普及。

 数値の可視化。

 それがもたらす副作用――効率至上主義による「無能」の烙印を押された者たちの大量追放。


「あれって……『追放ブーム』ですか?」


 リンが嫌そうな顔をする。


「ああ。

 レンズで見える数値だけを信じて、パーティーメンバーを切り捨てるリーダーが増えているらしい。


 『攻撃力が低いからクビ』

 『回復量が足りないからクビ』


 ……短絡的な馬鹿どもだ」


 だが、その馬鹿どもが捨てた人材の中にこそ、俺たちが必要とする「隠れた才能」が眠っている可能性がある。

 数値には表れない特殊スキル、晩成型のユニークスキル、あるいは生産・物流に特化した異能。


「帰ったら人事部とミーティングだ。

 『中途採用枠』を拡大する。


 ただし、誰でも彼でも拾うわけじゃない。

 俺の【鑑定】基準を満たした『ワケありの逸材』だけを一本釣りするシステムを作る」


 俺は剣を振るい、襲いかかってきたフレイム・リザードを両断した。


「ブラックギルドから放り出された人間は心に傷を負っているが、同時にハングリーだ。

 正当に評価してやれば、最強の戦力になる。

 アルカディアの『第二期拡張計画』始動だ」


 俺たちはB級ダンジョンの深部へと進む。

 市場を支配し、ダンジョンを攻略し、そして人材を飲み込む。

 俺の描くシナリオに、死角はない。



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― 新着の感想 ―
タカシに隠しステあるかなぁ・・あってほしいなぁ・・(そもそもあいつソロなの?)
アルカディアのメンバー一覧欲しい
アルカディア本部と下部組織で何人ぐらい人居るんやろ
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