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第63話 祭りの後の狂騒・レベル10詐欺の真実と崩れ落ちる砂上の楼閣

 横浜での「オーガキング防衛戦」から、一夜が明けた。

 瓦礫の山と化した赤レンガ倉庫周辺は、自衛隊と建設業者による急ピッチの復旧作業が進められている。

 だが、物理的な復旧とは裏腹に、電子の海――インターネットの世界は、昨日以上の熱量で沸騰し続けていた。


 話題の中心は、たった一人。

 世界を救った「レベル10」の英雄、結城旭と、彼が率いる「アルカディア・サード」だ。


          ◇


【SNSアプリ『X』のトレンド(日本)】


#結城旭

#レベル10詐欺

#アルカディアサード

#暁の牙(炎上中)

#身ぐるみ

#屑鉄の王

#理想の上司

#八代の眼力

#手のひらクルー

#A級モンスターワンパン


【大手掲示板『世界探索者フォーラム』:総合スレッド】


スレタイ:【検証】結城旭の強さについて語るスレ Part58


1 名無しの考察班

 昨日の録画を100回見直したが、結論が出た。

 あいつは「バグ」だ。

 レベル10という表示自体が、何らかの偽装か、測定不能オーバーフローの結果としか思えない。

 A級モンスターの攻撃を、ノーガード(に見える盾防御)で無効化し、錆びた剣で吹き飛ばす。

 物理法則が仕事をしていない。


2 名無しの探索者

 あの盾、ベニヤ板に見えたけど、実は「世界樹の皮」とかなんじゃね?

 八代がこっそり持たせた「神話級装備」説を推すわ。


3 名無しの古参

 いや、旭くん本人が言ってたじゃん。

 「部下のスキルです」って。

 あれが比喩じゃなくてガチだとしたら、あいつは「500人分の能力を一人で使える」ってことだぞ?

 そりゃ、レベル10でも最強だわ。


4 名無しのファン

 インタビュー見た?

 「僕は弱いです。みんなが支えてくれたから立てていただけです」って。

 謙虚すぎるだろ……(泣)。

 オーガキングをボコボコにしておいて、「弱い」はないわ。

 あの言葉は、「(オーガキング程度には苦戦しないから、僕にとっては)弱いです」っていう意味に聞こえて怖い。


5 名無しの企業勢

 アルカディアは、下部組織ですら化け物揃いかよ。

 八代は何を育ててるんだ?

 「サード」であれなら、トップチーム(八代・リン・雫・田中)の実力はどうなってるんだ?

 想像するだけで震える。


6 名無しの元アンチ

 ごめんなさい。

 登場した時、「捨て駒www」とか書き込んでごめんなさい。

 あれは捨て駒じゃなくて、「王の行進」でした。

 全力で謝罪します。


          ◇


 テレビのニュース番組も、朝から晩までこの話題一色だった。

 特に注目を集めたのは、戦闘直後に行われた旭への突撃インタビュー映像だ。


『――結城さん! 素晴らしい戦いでした!

 あの巨大なオーガを吹き飛ばした剣技、あれはどのような修行で身につけたのですか!?』


 興奮気味のマイクを向けられ、旭は困ったように眉を下げ、カメラに向かっておどおどと答えている。


『いいえ、あれは……僕の力じゃなくて……。

 部下のアタッカー、田中さんが普段から頑張って素振りしている成果というか……。

 僕はただ、みんなの力を借りて振っただけで……』


 スタジオのコメンテーター(元プロ野球選手)が、感極まったように叫ぶ。


『なんと!

 「個の力」ではなく、「組織の力」だと仰るのですか!

 自分が目立つ場面で、真っ先に部下の手柄を立てる。

 これぞリーダーの鑑! 謙虚かつ、組織の本質を突いた言葉だ!』


 メインキャスターも深く頷く。


『そうですね。

 「屑鉄の王」という二つ名は、彼が社会から見捨てられた人々を束ね、黄金のような輝きに変えたことを象徴しているのかもしれません。

 現代日本が忘れていた「絆」の強さを、彼は教えてくれました』


 お茶の間は感動に包まれていた。

 だが、港区のオフィスでその放送を見ていた八代匠だけは、コーヒーを吹き出しそうになっていた。


「……くくっ。

 あいつ、天然でカリスマムーブかましてやがる。

 本人はガチで『俺の力じゃないんです(スキル仕様的に)』って言ってるだけなのに、勝手に深読みされて英雄扱いか。

 面白いから、放っておこう」


 八代はニヤリと笑った。

 旭の謙虚さが、世間の「理想の英雄像」と化学反応を起こしている。

 これで、アルカディア・サードの求心力は盤石だ。

 放っておいても、優秀な「追放者」たちが、彼の下に集まってくるだろう。


「さて……。

 光が強くなれば、影もまた濃くなる。

 光の当たる場所で旭が輝けば輝くほど、あいつを捨てた馬鹿どもは地獄の底まで落ちていくわけだが」


 八代はモニターのチャンネルを切り替えた。

 そこには、ネットの特定班によって晒し上げられている、あるギルドの末路が映し出されていた。


          ◇


 新宿歌舞伎町の裏通りにある、安居酒屋。

 昼間からアルコールの臭いが充満する店内で、一人の男が管を巻いていた。


「クソッ……! クソがッ!!

 なんでだよ! なんで、あいつなんだよ!」


 中堅ギルド「暁の牙」のリーダー、カイト。

 かつてはランキング上位に名を連ね、1億円の魔剣を腰に差して肩で風を切っていた男。

 だが今の彼は、見る影もなくやつれていた。

 自慢の魔剣は、オーガキングにへし折られ、今はただの折れた鉄屑がテーブルの上に転がっている。


「あいつは俺が育てたんだぞ……!

 俺が拾ってやって、荷物持ちの仕事を教えてやったんだ!

 今のあいつがあるのは、俺のおかげだろ!?

 なのになんで、俺がこんな惨めな思いをしなきゃなんねえんだよ!」


 カイトはジョッキをテーブルに叩きつけた。

 周囲の客――仕事あがりの探索者たちが、冷ややかな視線を向ける。

 ヒソヒソと囁く声が聞こえる。


「おい、あれ『暁の牙』のカイトじゃね?」

「ああ、旭さんを追放した馬鹿なリーダーだろ?」

「よく外歩けるな。俺なら恥ずかしくて引退するわ」

「A級モンスターにビビって、逃げようとした腰抜けが、どの面下げて酒飲んでんだか」


 視線が痛い。

 言葉が突き刺さる。

 だが、カイトは認められなかった。

 自分が無能だったこと。

 自分が「本物」を見抜けなかったこと。

 それを認めてしまえば、彼のプライドは崩壊してしまうからだ。


 その時、店のドアが開いた。

 入ってきたのは、カイトのギルドに残っていた数少ないメンバーたちだった。


「お、お前ら! 来てくれたか!

 見ろよ、世間を! みんな狂ってやがる!

 あんなポッと出の雑魚を持て囃して……。

 だが俺たちは違うよな? 再起するぞ!

 俺にはまだ人脈がある! スポンサーだって……」


 カイトが縋るように声をかけると、メンバーの一人が無言で一枚の紙をテーブルに置いた。


 『退団届』。


「……は?」


「辞めさせていただきます、カイトさん」


 メンバーの声は冷たかった。


「お前についていったら死ぬ。

 横浜で痛感しましたよ。

 俺たちの剣が折れた時、お前は何て言いました?

 『俺を守れ』って言いましたよね?

 旭さんは……アルカディアの、あの人は、たった一人で前に出たのに」


「そ、それは作戦上の……!」


「言い訳はいいです。

 それに、もうネットでバレてるんですよ。

 お前が旭さんを追放した時のこと」


 メンバーがスマホの画面を突きつける。

 そこには、元ギルドメンバーによる内部告発の投稿が表示されていた。


【拡散希望】『暁の牙』の真実。結城旭氏への仕打ちについて


 私は当時、現場に居合わせました。

 カイトは旭さんをクビにする際、ただ追放しただけじゃありません。

 『今まで俺たちのおかげで飯が食えてたんだから、その迷惑料を払え』と言いがかりをつけ、旭さんがコツコツ貯めた金で買った装備や生活費まで巻き上げたんです。

 『身ぐるみ剥がして放り出す』。

 文字通りのことをしました。

 旭さんが昨日着ていた、あのボロボロの装備……あれはゴミ捨て場から拾ったものを修理して使っていたものです。

 カイトが奪ったからです。

 あんな外道がリーダーをしているギルドに未来はありません。


「な……ッ!?」


 カイトの顔色が土気色になる。

 その投稿は数百万回リポストされ、炎上していた。


『うわぁ……クズすぎる』

『追放は百歩譲って方針の違いだとしても、追い剥ぎは犯罪だろ』

『旭くん、あんな錆びた剣で戦ってたの、そういう理由かよ……泣ける』

『カイト、人間の屑だな。二度と探索者名乗るな』


 ネットの怒りは頂点に達していた。

 旭の謙虚さと健気さが評価されればされるほど、対比としてのカイトの悪辣さが際立つ。


「俺たちも、これ以上お前と一緒にいると、後ろ指を指されて歩けなくなるんです。

 さようなら」


 メンバーたちは背を向け、店を出ていった。

 彼らの行き先は、聞かなくても分かる。

 今朝発表された「アルカディア・サード追加メンバー募集」の会場だ。


「ま、待てよ……! 俺を一人にするな!

 俺は『暁の牙』のリーダーだぞ!?」


 カイトの叫びは、誰にも届かない。

 残されたのは、折れた剣と、空っぽのジョッキだけ。


 だが、地獄はこれで終わりではなかった。

 カイトのスマホが鳴った。

 画面に表示されたのは、ギルドのメインスポンサーである大手企業の部長の名前だ。


「あ、ああっ! 部長!

 い、今から説明に……!」


『説明など不要だ! カイト君!』


 電話の向こうから、鼓膜が破れそうな怒鳴り声が響いた。


『ネットの告発を見たぞ!

 君、退団するメンバーから違法な金銭徴収や、強盗まがいの行為をしていたそうじゃないか!

 事実なのか!?』


「そ、それは……契約上の違約金として……」


『ふざけるな!

 ただの追放なら、「見る目がなかった」で済む話だ!

 だが、これはコンプライアンス違反どころか犯罪だ!

 我が社のブランドイメージは地に落ちた!

 「強盗ギルドのスポンサー」などと言われて、株価も下がっているんだぞ!』


 スポンサーの激怒はもっともだった。

 企業にとって、イメージダウンは死活問題だ。

 特に今は、「ホワイトな運営」が求められる時代。

 旭という英雄を虐待していた過去は、致命的なスキャンダルとなる。


『契約は即刻解除する!

 そして契約違反による損害賠償を請求させてもらう!

 貸与していた装備の弁済、ブランド毀損による慰謝料、未来で出るはずだった利益、諸々含めて……ざっと50億円だ!』


「ご、50億……!?」


 カイトは椅子から転げ落ちた。

 50億円。

 トップランカーだった頃なら、1年かければ返せたかもしれない。

 だが今は違う。

 武器もない。

 仲間もいない。

 信用もない。

 そんな状態で、どうやって50億もの大金を?


『弁護士を通じて、正式な書類を送る。

 逃げられると思うなよ。

 君がダンジョンで稼ぐ魔石一つに至るまで、全て差し押さえさせてもらうからな!』


 ガチャン! と通話が切れた。

 ツーツーという無機質な音が、カイトの終わった人生を告げるレクイエムのように響く。


「あああ……あぁ……」


 カイトは震えながら、店のテレビを見上げた。

 そこにはニュース番組の特番に出演している、結城旭の姿があった。

 清潔な服に着替え、少し照れくさそうに笑いながら、アナウンサーの質問に答えている。

 そのテロップには『現代の英雄』『慈愛のリーダー』の文字。


 そして、その番組の隅には、スポンサー企業のロゴが並んでいる。

 カイトを切った、あの企業のロゴも、そこにあった。


「なんでだよ……。

 俺の荷物持ちだったくせに……。

 俺が……俺が主役だったはずなのに……!」


 カイトは崩れ落ち、床に拳を叩きつけた。

 誰も彼に同情する者はいなかった。

 因果応報。

 彼が積み上げてきた砂上の楼閣は、時代の波に洗われて跡形もなく消え去ったのだ。


          ◇


 港区ミッドタウン・タワー。

 八代匠はモニターに映る、カイトの破滅に関するネットニュースを見ながら、冷ややかに呟いた。


「再起の芽はないな。

 俺の【鑑定】では……あいつは一生、借金を返すためだけに、ソロでF級ダンジョンを這いずり回る未来しか見えない」


 50億円の借金。

 装備も仲間もない状態で、それを返すには、死ぬまで魔石を拾い続けるしかない。

 まさに「ダンジョンの奴隷」だ。


「ま、自業自得だ。

 旭から奪った装備の代金だと思えば、安いもんだろう」


 八代はカップを置き、興味を失ったように画面を消した。

 カイトのことは、もうどうでもいい。

 彼は完全に「過去の人間」になった。


 八代の視線は、すでに次の計画へと向いている。

 旭の覚醒により、アルカディア・サードは軌道に乗った。

 防衛戦力は整った。

 ならば次は――。


「そろそろ来る頃だな。

 俺の胃痛の種にして、最強のジョーカーが」


 約束のレベル46に到達した、あのお嬢様からのDMが来ている。時間が合えば会ってやると言ってはみたがどうなることやら…



最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
1番怖い存在が爆誕したような、全てを失った無敵の人だからね、ダンジョンよりモンスターより「狡猾」な人間の増悪怨念怨みはさすがの主人公も未来予測は無理だし人の感情は鑑定出来なそうだから、今までの栄光を理…
ガレージのお嬢様キターーーーーー!!
胃薬に、ちょっとビックリ。 八代さんも胃痛あるんですね。と、思いましたが、 ギルドメンバーに対するフォローや、権力者相手の立ち回りの深謀遠慮を考えると納得しました。
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