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厄介


 とりあえず自己紹介をしてもらったところで、俺達はアマゾネスの集落へと案内してもらえることになった。


 親睦を深めようとあちらから言ってくれたのだので、ありがたくお言葉に甘えさせてもらうことにした形である。


「ヴァル様ヴァル様、アマゾネスってどんな種族なんですか?」


 王国では亜人や魔人は人より一等低い扱いを受けているが、自身がハーフという立場で差別を受けてきたこともあるララはそのあたりにはまったく頓着がない。


 好奇心から目をキラキラと輝かせながら、こちらを先導するカーミラの背をジッと見つめていた。


 思わず唸りたくなるほど見事な広背筋だ。

 筋トレで作っているものとはまた違う、実用的な力強さを感じさせる。



カーミラ 忠誠度 51



 ちなみに忠誠度も平均よりやや好ましい程度。

 獣人の時のようにマイナススタートから始める必要はないようで、こちらとしては一安心である。


「ララはそもそも魔人についてどれくらい知ってるんだ?」


「亜人より強いってことくらいですね」


「それならまず人と魔人の歴史について、ある程度知っておく必要があるだろうな」


 人間は亜人同様、魔人のことも下に見ることが多い。

 そしてこの原因は魔人側の生物学的な特徴に起因している。


 魔人は人間にはないような変わった特徴や生態を持つ者が多い。


 たとえばそれはあまりにも人間離れしている容姿であったり、人間側からすれば受け入れられないような習性だったり……そんな風に人間から見ると異常にしか思えない魔人達も多くおり、そのため人と魔人は生まれてから常に争い続けてきた。


 ちなみにその結果は、こうして人が我が物顔で世界中を歩き回っていることを見ればわかるだろう。

 強くとも数に劣る魔人達亜人同様、本来の場所を追われることになった。


 そして彼らは現在、人間であれば生存ができないような厳しい場所で細々と暮らしている。


 カーミラが率いているというアマゾネスも、そんな魔人達の種族の一つというわけだ。


「こうして見ていると、至って普通の女性にしか見えませんけどね……たしかに腹筋がバッキバキだったり、背筋が鬼のようになっていたりする気はしますが」


「ああ、たしかに見た目だけならそうだろうな」


「見た目だけなら?」


 ただもちろん、魔人であるからには彼女達にもまた人とは大きく違った特徴を持つ。


 生まれたその瞬間から強力なことはもちろんだが、やはりアマゾネスの一番の特徴と言えば……。


「我々アマゾネスには、性別が一つしかないんじゃよ」


 俺達のひそひそ声は、やはりカーミラには聞こえていたらしい。

 彼女はララの質問に答えながら、手に持っている槍で軽く肩を叩いてみせた。


「えっと、それは一体、どういう……?」


「ん、そのままの意味じゃけど? アマゾネスという種族には女性しかいない。なので当然子供を産んでも、個体は全て女性になるのじゃ」


「……」


 ララが絶句している。たしかに見た目は人間そのものなのに実質まったく別の生き物だからな。


 『スペル・シンフォニア』をやってそういうものだと納得している俺からすればさほど違和感もないのだが。


「えっと……それはつまり、子作りが一人で完結している的なことでしょうか……?」


「いや、そうではない。男がいなければ子はできないので、余所から連れてくるのじゃ」


「……」


 ララ、再びの絶句。だがたしかにその生態を聞くと、言葉を失うのも無理はない。

 アマゾネスとは生まれる個体が全て雌になる珍しい種族だ。


 だが彼女達はプラナリアよろしく単一生殖を行ったり、自らのクローンを生み出すわけではない。


 アマゾネスは人や亜人、魔人の一部と生殖を行うことで子を為す。

 そして相手がどんな種族であったとしても、生まれてくる子は必ずアマゾネスとなるのだ。


 そのような特殊な生態で種族を維持するためには、彼女の言の通り余所から男を引っ張ってこなければならない。


「妾もババ様達から聞いているだけなので直接は知らないのだが、昔はそれはもう相当色々と好き放題やっていたらしい。彼女達はいつも、昔は良かったとババ臭いことを言っていたのじゃ」


 元から強力な力を持つアマゾネス達は、各地で男狩りを行った。

 近くの人里から男を浚ってきたり、紛争をけしかけて男を強奪したりと、そりゃあもう激しく暴れ回っていたらしい。


 王国の伝承においては、アマゾネスは男を浚っていく山姥のような扱いを受けている。

 以前は色々あったんだろうなぁと思わざるを得ない。


 ただそんなことを続けていれば、人間からは当然疎まれるようになるのに時間はかからない。


 これ以上男手を減らさないよう徒党を組んだ人間達によって逆に狩られるようになったと、カーミラは自嘲する。

 儚げに笑うその横顔は、ハリウッド俳優のようにキマっていた。


「といっても、男がいないことには我々は種を存続できない。なのでここ最近は、以前のような無法はしていないぞぇ?」


「ほっ、それは良かったです……」


 隣人から男狩りをされて男手が一人も残らなくなる未来を想像していたらしいララが、安堵のため息をこぼす。


 ちなみに俺はゲーム知識でここ最近のアマゾネスの事情をある程度知っているので、特に驚いたりすることもない。


 あと一つカーミラが言っていないことを挙げるとすれば、アマゾネスは完全に女王を頂としたピラミッド型の社会を作っている。

 女王である彼女を説得できればアマゾネス全体を味方につけることができるだろう。


「まあ詳しいことは集落を見ればわかるじゃろう。ほら、見えてきたぞ。ようこそ我らアマゾネスの集落へ」


 カーミラが指し示す先には、こちらに向けて槍の穂先を向ける二人の戦士の姿がある。

 魔人は姿形もある程度共通項が多い。


 そのため彼女達もまた赤髪赤目の女戦士で、それを見たララが驚いていたのが妙に印象に残った。



「うわぁ……女の方がいっぱい、ですねぇ……」


 まるでお上りさんか何かのようにきょろきょろと辺りを見渡すララ。


 正直なところ、その気持ちはわからんでもない。

 何せ俺達の視界には……赤毛の美女達が大量に存在しているのだから。


 アマゾネスの集落には、当然ながらたくさんのアマゾネス達がいる。


 皆が筋肉質な身体をした、美しい女性達だ。

 そんな女戦士達が至る所にいるというのは、なんだか壮観である。


「あ、カーミラ様! もしかしてその男の子って……」


「……ああ、いや違う。彼らは純粋なお客さんじゃよ」


「なぁんだ、つまらないの。……ねぇ坊や、もしアレだったら今夜うちに来てね。私のうちはあそこの赤い屋根の家だから」


「は、はぁ……」


 いきなりやってきたアマゾネスは怒濤の勢いで喋ったかと思うと、すぐにその場を去ってしまった。


 帰り際はこちらに投げキッスをしていたが……あれは一体なんだったのか。

 圧倒されている俺を見たカーミラが笑いながら事情を教えてくれる。


「うちの集落には定期的に男を入れるようにしているからな、恐らくはそれと勘違いしたんじゃろう。……ん、なんだ? そんな顔をしなくても、当然非合法な行いなどしていないぞ」


「あ、えっと……いえ、そういうわけではないのですが……」


 ララが彼女にしては珍しく、あわてふためいている。


 恐らく彼女が妙な顔をしていたのは今のアマゾネスの言葉が原因だと思うのだが……やはりあれは言葉通り、夜這いの誘いだったのだろうか?


 あまりにも文化が違いすぎて、言われてた俺も今になってようやく理解が追いついてきたぞ。


「男はどうやって集めているんだ?」


「色々だな。人里に行き奴隷を仕入れてきたり、北の海で難波した船から融通してもらったりしていたことが多かったが……最近ではたまに、自分からアマゾネスの集落に来たいという男までやってくるようになっていたりするのぅ」


 北の海……となるとアマゾネス達は既に、そちらにいる何者かと密な関係性を築いているということか。


 であれば彼女達をこちら側に引き入れることができれば、そのまま時間をかけずに北の勢力を味方にすることもできるかもしれないな。


「なんというか……パワフルなお方もいるのですね」


「妾が言うと手前味噌になるが、アマゾネスは皆美人が多いからの。そしてどうしても需要が供給を超えているため、男からすれば女をよりどりみどりにできる。それにそもそも我々は男に子種以外のものを求めないから、彼らは働かずともただ生殖行為に励むだけで暮らしていける。そういった認識が一部の人間の間で広まり、アマゾネスの下で専業主夫になりたいという男の数が徐々に増えているのじゃ」


「なるほど……多様性だな」


「先ほどのワリッシュの誘いも真剣なものだ。もしアマゾネスの身体に少しでも興味があるのなら、ぜひ味見をしていくといい」


 ……なるほど、女王であるカーミラがこういったことを平気で言っていることから考えても、アマゾネス社会はわりと性に奔放らしいな。


 無理矢理従えるような旧来のやり方をやめ人間に合わせるようになったことで、そんな社会の在り方が一部の男性の琴線に触れたのだろう。


 美人な女性達に囲まれながら、専業主夫生活……なるほどたしかに、悪くない。


 もし俺が貴族家の生まれでもなんでもなく、ただ毎日ゆったりとスローライフを過ごしたいと思っていたら、これ以上に素晴らしい選択肢もない気がする。


「む、今ヴァル様がエッチな顔をしていました」


「ララよ、言いがかりはやめてくれ」


 俺が考えていたのはもっと真面目な話だ。


 ――このアマゾネスの里を、どうにかして傘下にしておきたい。

 というのも、現状の俺達は未だダート大森林の西部を支配下に置いているだけだ。


 そして一丸となって当たらなければ、大量の魔物を使役するタリバーディンには叶わない。

 兵力を効率良く運用するためには、やはり俺の管理下にある事が望ましい。


 今後この森を利用した侵攻が考えられる以上、最悪でも共闘態勢が取れるくらいの関係性は築いておきたいところだった。


「そんなこと言って、夜になったらあの方のおうちに行かれるつもりなのでは?」


「なぜそういう話になる……今の俺に、そういった浮ついたことを考えている暇があると思うか?」


「たしかにそれはそうかもしれませんが……」


 あの女戦士に誘われてから、なぜかララの機嫌が妙に悪い。

 ひょっとすると俺のことを、好色な男だとでも思っているのかもしれない。


 まったくもって心外である。

 行こうかなとか思っていなかったぞ……ほんのちょっとだけしか。


「カーミラ様、大変です!」


「どうしたのじゃ、ワルツ」


「トロルの群れが、こちらに接近中とのこと!」


「あやつら……また性懲りもなく来おったか。ヴァルとララよ、すまぬがそちらは適当に待機しておってくれ」


「いや、トロルが相手なら俺達も戦える。できればこちらの腕を見て欲しいのだが」


「ふむ……そういうことなら同行を許可しても構わぬ」


 俺の記憶が正しければ、アマゾネスにもまた、獣人と同様強さを正義とする価値観があったはずだ。

 今後のことを考えれば俺達の力を見せておいて損はない。

 それにしてもトロルの群れか……トロルは通常単独で行動することの多い魔物だ。

 となると……少々厄介なことになるかもしれないな。

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