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魔人


 ダート大森林を東に進んでいくことしばし。

 徐々に植生が変わり亜熱帯雨林のようになっていた森の中で俺達が見たのは、一人の女性の姿だった。


 その髪は燃えるような赤。

 陽光を受けキラリと光るルビーの瞳に、グラマーと称して差し支えないほどに凹凸に富んだボディライン。

 彼女の目は、視線の先にあるトロルに固定されている。


「……なるほどな」


「ご存じなのですか、ヴァル様?」


「ああ、まさかここで見ることになるとは思わなかったがな」


 身につけているのはヒョウか何かの皮をなめして作ったのであろう胸当てと腰蓑。


 服飾が非常に原始的な作りにもかかわらずそれが野暮ったく見えないのは、その下にある素材がいいからだろう。

 日に焼け褐色をした女性は、その手に骨を削って作った穂先をつけた槍を持っている。


「――シッ!」


 彼女は駆け出しながら、腰に差していた短槍を投擲した。


 右手に持っている得物と比べれば小ぶりな槍はトロルの眼球を貫通し、そのまま反対方向に突き抜けていく。

 確度的に、間違いなく脳を貫いていたであろう一撃だ。


「――速いッ!」


 シュウシュウと音を鳴らしながら、瞳とその奥にあるであろう脳が回復し始める。

 けれどその女性は脳が破壊された瞬間にできた隙を使い、再度槍を投擲。


 二投目は見事逆の左目を貫いてみせた。

 そして再生を終えた右目でトロルが敵を見据えようとした時には、既に彼女は大きく右に跳び視界の範囲外に逃れてみせた。


「GU……A?」


 そしてわけもわからずトロルが右往左往し始めたタイミングで、槍の間合いへと接近。

 横から放たれた彼女の突きが、一撃でトロルの脳を吹き飛ばしてみせる。


 頭が再生されようとするが、何度も再生を繰り返しているためかその速度は遅い。

 女性が連続して放った突きによってみるみるうちに刻まれていき、トロルはあっという間にその動きを止めた。


 惚れ惚れするほどに見事な手際だ。

 剣だと届かない間合いも、槍であれば届く。


 たしかにああやって何度も頭を破壊すれば、一方的に攻撃を続けることができる。

 それはもはや戦闘ではなく、一方的な狩猟であった。


「それで……そろそろ出てきたらどうだ?」


 それほどまでに見事な腕前を持っているからには、やはり感知能力も高いらしい。

 くるりと背後を振り返るその女性は、俺達が隠れている岩をしっかりと見据えていた。


「俺達に敵意はない。だから手投げ槍に手をかけるのをやめてくれると助かるんだが」


 両手を挙げながら岩を出ると、ララも俺に続いた。その後ろでとことこと歩くベルトを見て、女性がほうと感嘆のため息を吐く。


「ゴールデンウルフをテイムしているのか」


「プラチナウルフだ。多分だけどゴールデンウルフとシルバーウルフの子供だと思う」


「……なんだと? そんなはずはない、ゴールデンウルフとシルバーウルフの間には子供はできないはずだ」


「そうなのか……それじゃあ突然変異か何かなのかもしれないな」


 会話をしているうちに、とりあえず敵意はなくなったのか、手投げ槍から手を離してくれる。

 槍の穂先も上に向けてくれたので、ひとまず対話をするつもりはあるらしい。


「驚いたよ、まさかこんなところで魔人に出会うとは」


「……私の方こそ驚きじゃ。まさか一目で正体を見破れるとはは。お前は普通の人間……でいいんじゃよね?」


「いかにも」


 こくりと頷きながら、脳内の記憶をほじくり返す。


 ――この世界には、大きく分けて三種類の人種が存在している。

 俺達人間、ナナ達のような亜人、そしてもう一つが――今目の前にいる魔人である。


「なぜ人間がこんな場所に……」


「俺からしたらここにアマゾネスがいることにびっくりだけどな」


 厳密に言うと例外もあるが、ざっくりいえば魔物っぽい見た目をしてめっちゃ強いのが魔人だ。


 彼女の見た目は、一見すると人間そのものだ。

 額に角が生えているわけでも、尾骨の辺りから尻尾が生えているわけでもない。

 けれど全種族を網羅している俺には俺には彼女が魔人の一種族であることがわかった。


「いかにも、我らはアマゾネス。そして妾はアマゾネスを束ねる女王カーミラである」


「俺はダート大森林一帯を取り纏めているヴァルだ。よろしく頼むぞ、カーミラ」


「……ああ、こちらこそよろしく頼むのじゃ、ヴァルよ」


 その種族の名はアマゾネス――種族全員が女性という、珍しい特性を持つ魔人である。

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