メイドのララ 前編
【side ララ】
ヴァル様達がダート大森林へ狩りに向かっている間、私達は開墾作業の方を進めていくことになりました。
ちなみにすぐにとりかかることができるよう、昨日の時点でナナさん達の手も借りつつ農具は一通りこちらに持ってきております。
当然、押しつけられるように手に入れた牛耕用の農具も。
収納スペースをものすごい勢いで圧迫していますので、正直さっさと手放してしまいたいところです。しまえばいいでしょう。
農具の使い方に関しても基本的なところは購入の際に一通り教わりましたので、初歩的なところを教える分には問題はないかと愚考致します。
「皆様、本日はご集まりいただきありがとうございます」
「あ、あぁ……」
「まあ、やれと言われたからな……」
ぺこりと頭を下げる先に居るのは、十人ほど居るカイオウの里の獣人の方々。
男女比は半々で、それぞれ五人ずつがこちらを見つめて言います。
彼らが昨日のうちに振り分けられた、耕作を覚える第一陣ということになります。
「それではまず最初に、根本的な説明をしましょう。一体なぜ皆様に農作業が必要なのか。えっと、そこの……」
「リァウだ」
「リァウさん、なぜ農作業が必要なのだと思いますか?」
まずはなぜ彼らに農作業が必要なのか、その理由を教える必要があります。自分達が働く理由がわからなければ、やる気も出ないでしょうし。
それに狩猟採集から農耕へと生き方をがらりと変えることになるわけですから、納得する必要もあるでしょうから。
「それは……わからん。俺達はただ、リーダーがやれと言われたことをやるだけだ」
「思考停止はよくありませんよ。ではそこの……」
「ムルゥよ」
「ムルゥさんはどうして農作業が必要なのだと思いますか?」
頬に赤い紅を引いたムルゥさんは少し悩んだ素振りを見せてから、ゆっくりと口を開きます。
「狩猟だけだと成果が安定しないからかしら?」
「その通りです」
狩猟採集生活は毎日が出来高制、結果が出るときもあれば坊主の日だってあります。
今後の食糧事情がわからない状況では、これから先のことに考えを巡らせるのは難しいです。
そんな状況では子供を作ったりすることも難しいでしょう。
結果として恵みの里では、人口は頭打ちになりかけているらしいですし。
「ヴァル様は言っておりました。領民であるあなた達が未来を見据えることができるようになるためには、農耕によって安定した生活を送れるようになるのが必要不可欠と」
「なるほど……」
「だが俺達にできるのか?」
「できるかはわからないが、やってみるだけならタダだろう?」
「たしかにそれはそうか……」
幸いなことに、ここにいる皆様方は非常に前向きです。恐らくナナさんがそういう人選をしてくれたのでしょう。
彼らは昨日の戦士階級の方々のようにこちらを威圧してくるようなこともなく、素直に話を聞き、活発に意見交換や質問をしてくれました。
本日私が指導することになったのは、いわゆる戦士階級ではない殿方達です。そのため温厚な方が多く、とにかく話を進めやすくて助かります。
私は獣人と言えばとにかく狩りをしまくるヒャッハーな戦闘民族を想像していたのですが、どうやら皆がそういうわけではないらしいです。
人の噂などアテになりませんね、本当に。
「さて、それでは納得してもらったところで、これから育ててもらう麦と野菜について見ていきましょう」
播種から発芽、水やりのペースにおよその収穫時期。
私も専門家ではないですが、ヴァル様に言われここに来るまでに色々と調べ物をしたので、口からはするすると知識が出てきます。
「……とまあ、収穫する麦や野菜の説明に関してはこんなものでしょうか。それじゃあ次は土に関してですが……」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか。覚えなくちゃいけないことが多いってのはわかったんだが……」
ヴァル様がおすすめされていた、森の腐葉土を利用するやり方の説明をしようとすると、ビシッと男の獣人が手を上げられました。
学習意欲があるのは大変結構なこと。
答えられない質問がこないかと少しドキドキしながら待っていると、やってきたのは意外な質問でした。
「詳しい話に入る前に、できればヴァル様の話を聞かせてもらえないか? 自分達の大将がどんなやつかくらい、事前に知っておきたいんだが……」
「もちろんです!!!」
「――うぉっ!?」
リァウさんがぎょっとした顔をするのにも構わず、私はヴァル様の素晴らしさについて話すことにしました。
ヴァル様の魅力を語るには、数十分や一時間では到底足りません。
今日は一日ぶっ続けでヴァル様の話をするのも、決してやぶさかではありませんよ。
「えっと、どこから話したものですかね。それじゃあまずは私とヴァル様が出会ったところから……」
そして私は語り出すことにしました。
ヴァル様がいかに素晴らしい人間であるのかを……。




