光
結局あの後、日が暮れるまでパワーレベリングを続けることでナナとニーナは浅層の魔物相手なら十分戦えるレベルには仕上がってくれた。
二人とも三十を超えてからは、俺の手助けなしでも魔物相手に十分戦えるようになっていた。
なので翌日からは二手に分かれ、俺率いるパワーレベリング組と、ララ率いる開墾組の二つに分かれて作業をしていくことにする。
「皆、とりあえずヴァル殿の意見には必ず従うように!」
「「了解!」」
今回の俺はニーナと一緒に、里の戦士達を連れて浅層にやってきている。
一昨日に言っていた、俺に対する忠誠度の高い戦士達だ。
ロン 忠誠度42
ベンデリン 忠誠度 44
ロマック 忠誠度 51
忠誠度はおよそ50を超えれば好印象となるので、これはフラットからやや悪い寄り。
だがこれでもずいぶんとマシな方なのだ。
前見た時もそうだが、ひどいやつだと忠誠度マイナスとかも普通にあるからな……さすがにあのマルコも、一晩酒を飲んだら忠誠度は20程度は上がっていたけれど。
なんにせよこのまま彼らと一緒に過ごしていれば、忠誠度は問題ラインまで上がるだろう。
今の彼らも、は少なくとも俺のことをリーダーとして認めようとはしてくれているのは間違いない。
ちなみにだがその前に立って最前列を歩いているニーナはというと、
ニーナ 忠誠度 76
昨日のパワーレベリングで俺のことを頼りにしてくれるようになったからか、忠誠度は既に70を超えていた。
何か下手なことをしない限りは、しっかりと下について働いてくれるのは間違いない。
ちなみに昨日の別れ際、ナナの忠誠度は現時点で71になっていた。
少なくともこの二人に関しては、裏切りを考える必要はないだろう。
まずは昨日と同じやり方でパワーレベリングをしながら、戦士達のレベルを上げていく。
ちなみにニーナには俺がこのダート大森林で独学で学んだことなんかを吸収してもらいながら、彼らに森の中で的確に指示を出してもらう練習をしながら、皆を率いて魔物と戦ってもらう。
既にこの辺りの魔物であれば地力で倒すことができるようになっている彼女だ。
あと何回かこうして里の皆のレベル上げをして慣れていったら、ゆくゆくは俺がいなくても回していくことができるようになるはず。
アースボアーを翻弄しながら倒すことに成功したニーナを見ると、俺の予想は確証に近づいていくのがわかった。
今の彼女なら、浅層であれば問題なく単身で探索することができるように思う。
「ふう……昨日の今日でまさか狩りを主導することになるとは。姫巫女様も言っていたが、ヴァル殿は本当にスパルタだな」
「本当ならもっと時間をかけてもいいんだけどさ……正直なところを言うと、俺にはあまり時間がないんだ」
「何、そうなのか?」
正直なところ、皆のレベル上げをつきっきりで指導しているわけにもいかない。
俺としても早い段階で、ある程度の自由に行動できるだけのまとまった時間が欲しいからこそのこのハイペースなのだ。
基本的にダート大森林が続いているだけという西はとりあえず一旦置いておくとして(まあ更に進んでいくと獣人の国があるというから、ゆくゆくは考えなくちゃいけないけど)、まず俺が気にしなくちゃいけないのはダート大森林東側と北側だ。
ここにはなるべく早い段階で探りを入れておきたい。
獣人の皆を新たに領民として迎え入れることが決まった今、彼らに危険が及ばないようにしなくちゃいけないからな。
それに将来的に戦うことになるであろうタリバーディンのことも考えて、しっかりと情報収集もしておきたいし。
マップ外で獣人を見つけることができたことを考えれば、そこに新たな領民がいる可能性もなきにしもあらずだしさ。
「なるほど……それなら私達も、一刻も早くヴァル殿に楽をさせてやらなければいけないな。それなら多少ペースが遅くなってもいいから、ヴァル殿の魔法なしでやっていけるようにやり方を変えてみるか?」
「……ああ、それならお願いしてもいいか?」
今後のことを考えると、その申し出は渡りに船。
素直にお言葉に甘えさせてもらい、戦士達がある程度戦いに慣れた段階でやり方を徐々に変えていくことにした。
俺は基本的に後方で待機をしながら、戦闘音を聞きつけてやってくる魔物達の処理や万が一の時のための備えとして後方に待機。
何度かひやりとする場面もあったが、日が暮れ始める頃にはニーナと他の戦士達で連携して多対一で魔物を相手取ることができるようになった。
「よし、今日はこのくらいにしておこう。明日明後日と慣らしていって、三日後くらいには恵みの森から出てそのままで中層で狩りができるようになるのを目指そうか」
「ああ、了解した。三日ごと言わず、明後日にはやってみせるさ」
そういって笑うニーナの横顔は、男の俺から見ても惚れ惚れするほどに男前だった。
お腹が減って顔を真っ赤にしていた人と同一人物とは思えない。
ひょっとするとこれが、ギャップ萌えというやつなのかもしれない。
昨日の昼食時の時のことを思い出すと、一瞬悲しそうな顔をしたナナの表情が脳裏をよぎる。
せっかくこうして二人で話ができるタイミングが来たんだし、この機会に聞いてみるのもありかもしれない。
「なあ、一つ聞いてもいいか? 込み入った話なら、無理にとは言わないんだけど……」
「――私と姫巫女様の関係性、だろう?」
「……ああ、よくわかったな」
「ヴァル殿は思っていることがすぐ顔に出るからな」
「むむ、そうだろうか……」
自分ではそんなつもりはないんだが、どうやら俺はわかりやすい人間らしい。
それを指摘するニーナは軽く笑いながら、空を見上げる。
「私と姫巫女様は――姉妹だったんだ。今から大体三年くらい前までな」
「姉妹、だった……?」
家族関係が突如として変わることはあるのだろうか?
婚姻や養子縁組の類いだろうか……と思ったがどうやらそういうわけでもなさそうだ。
「人間達の中でも、強力なスキルを持つ人間は珍重されたりすることがあるだろう?」
「ああたしかに、中にはスキルがあるだけで一目置かれるようなものも少なくない数存在しているな」
『スペル・シンフォニア』の主人公ガイウスが持つ勇者のスキル。
これは持っているだけであらゆる身体能力から魔法の習得速度、更には成長スピードに至るまであらゆるものに強力な補正がかかるぶっ壊れスキルだ。
そんなものを持っている人間が頭角を現さないはずがないため、王国においては勇者のスキルを持っている者は極めて手厚くもてなされ、英雄になるためのレールを最短で引いてもらうことができる。
ただ勇者ほど優秀なスキルでなくとも、スキルの中には持っているだけで周囲から一目置かれたり、恐れられたりするようなスキルがいくつも存在している。
かくいう俺も、実はそんなスキルのうちの一つを手に入れていたりするんだが……まあそれはいいか。
「我々獣人の間にも似たようなものがあってな。かつては私の妹だった姫巫女様は三年前のある日、そんなスキルに目覚められた。それが判明した時点で彼女は巫女となり、里の代表となった。そして神殿に預けられ離ればなれに暮らすことになり、今日に至る……というわけだ」
「三年前って……今でもあんなに幼いのに、その時のナナなんか本当に小さな子供だろう? そんな人がいきなり代表になったっていうのか?」
「だから言っただろう。姫巫女様が覚えたスキルは、我々にとってそれほどまでに大切なものなのだ」
たしかに『勇者』のような神聖視されるスキルを持っていたとなれば、そのような扱いになるのはある種当然なのかもしれない。
力を持つ者には、それを使う義務がある。
(ただ……俺個人としては、はなはだ納得しかねる)
ナナのあの態度を見ている限り、彼女は望んで今の立場にいるわけではないのは間違いない。
それどころか彼女は今もまだ、ニーナのことを……。
(迷う必要など、ないな)
一体俺は、誰か。
そう、俺は――ヴァル・フォン・フレイム。
フレイム伯爵家の長男にして、此度のダート大森林の開拓を命じられた男。
領民と領地を得た俺は、正式な爵位こそなくとも一国一城の主だ。
貴族とは、なんのために在るのか。
そんなもの、決まっている。
領地を富ませ、領民を幸せにするためだ。
そう考えれば俺の出すべき答えは既に決まっている、悩むべくもない。
「ニーナ、一つ話が……」
――カッ!
俺が言いかけたタイミングで、突如として激しい閃光が走る。
空を見上げれば、夕闇に染まり始めていた空を裂くほどに目映い白色の光がそこにあった。
方角を考えれば、その光の出所は一つしかない。
「ララが――里が危ない! 今すぐ現場に向かう! 俺は先に行く、ニーナ達は後からついて来い!」
「あ、ああ、わかった!」
俺はニーナ達を置き、急いで恵みの里へと向かう。
無事で居てくれよ……ララ!




