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ブートキャンプ


 俺という新たな群れのボスが就任した記念ということで、その日のうちに宴会を行うことになった。

 そこで飲み比べをしたりしているうちに、彼らとも幾分か打ち解けることができたと思う。


「まあ正直色々と思うところはあるが……今日からはあんたが大将だ。しっかり食わせていってくれるんなら、従わせてもらうさ」


「ああ、任せておけ」


「新しい大将は自信家だなぁ。でもこんなに小せぇのに凄腕の魔導師ってんだから、信じられねぇぜ」


「……お前達と比べれば小柄かもしれないが、きちんと成人している。飲み比べでもして、酒の強さでも見せてみせようか?」


「おおっ、わかってるじゃねぇの。――おい、酒を持ってこい!」


 戦って酒を飲んで語らい、打ち解け合う。

 獣人の文化は人間のそれと比べてはるかにシンプルで、それ故に俺であっても溶け込みやすかった。


 レベルが上がると酒に対する耐性も上がるからか、俺は飲み比べでも無事に勝利し更に彼らからの信頼を得ることに成功。


 そして飲みニケーションに精を出した次の日、レベルアップによって上がった自然治癒力で二日酔いを撃退した俺は、早速ダート大森林へと潜ることになった。


 まず最初は数を制限して忠誠度が高い戦士達だけを呼び、一日で彼らをダート大森林でやっていけるようにすると言っておいたはずなのだが……。


「やってきたのはナナとニーナの二人だけか……」


 時間通りに待ち合わせ場所に向かったところ、そこにいたのはナナとニーナの二人だけだった。


 昨日は皆と打ち解けることができたと思っていたんだが……俺の独り相撲だったのかもしれない。

 やはり俺の人望のなさは、変わらず壊滅的ということなのか……。


「大丈夫ですヴァル様、ララはヴァル様の素晴らしさをきちんとわかっておりますから!」


「……ありがとう、ララ」


 ララの気遣いが心に染みる。

 誰か一人でも俺のことを信じてくれる人がいる。

 そんな事実があるだけで、心の底から力が湧いてくる気がした。


「おそらく勘違いしているのだと思いますが……私達二人しかいないのは、極限まで人員を絞ったからなのですよ」


 ジト目でこちらを見てくるナナ。

 俺の方が目上のはずなのに、そこはかとなく小馬鹿にされたような気配を感じる。


 勘違いだと?

 だとしたら一体……。


「簡単な話なのですよ。この里の中で私達が、ナンバーワンとツーなのです」


 そう言って、ドヤ顔で胸を張るナナ。

 ニーナと比べて控えめなお胸には存在感が欠片ほどもない。

 後ろの方へ視線を移すと、ニーナは何も言わずただこくりと頷いていた。


「その通りだ。姫巫女様がカイオウの氏族の代表をしているのは――彼女が我らの中で最も強いからに他ならない」


 てっきり王国貴族などと同じく代表者は血統による世襲制なのかと思っていたが、たしかに考えてみれば獣人社会は圧倒的実力主義。

 彼女が代表であることには、しっかりとした理由があったわけだ。


「ヴァル殿が強力な魔導師ということは聞き及んでおります。なので……手ほどきの方、よろしくお願いしますね?」


 ぱちりとウィンクをするナナの様子に少々面食らってしまう。

 しかし同行者が誰であっても、俺のやることは変わらない。

 パワーレベリング、スタートだ。


♢♢♢


 『スペル・シンフォニア』において、レベルアップは経験値の蓄積によって行われる。

 そして経験値の分配は、パーティーに対して等分で行われていた。


 けれどこれまでの例と同様、この世界ではその仕様も若干異なっている。

 この世界における経験値は、恐らくダメージによって分配量が決まっている。


 そのためレベルを効率的に上げパワーレベリングをしていくためには、レベルを上げたい者が魔物にしっかりとダメージを通す必要がある。


 失敗すればワンパンで死んでしまう可能性も高いため、この世界におけるパワーレベリングの難易度は実は結構高い。


 けれどそれはあくまでも、普通ならの話。

 何の因果か今の俺には、そのために必要なものが全て備わっている。





「スタンショック!」


「ギャンッ!?」


 昨日獣人に使ったパラライズウェーブ以外にも、雷魔法には対象の動きを止めるためのものが数多く存在している。


 俺が放ったのは中級雷魔法のスタンショック。

 雷を衝撃波に変えて対象に打ち込むことで、麻痺に追加して相手をピヨらせるスタンの状態異常を同時に加え、更にダメージも与えることのできる一石三鳥の魔法だ。


 スタンショックが直撃し完全に動きを止めているのは、経験値稼ぎで俺達もお世話になったソロ行動の多いフォレストウルフ君。


 最初の頃は必死になっていたが、今ではこんな風に動きを止めるのも朝飯前だ。


「今だッ!」


「了解なのです!」


「行きますッ!」


 スタンショックを食らい完全に動きを止めているフォレストウルフ目掛けて、ナナとニーナが駆けていく。

 ドヤ顔で胸を張っていたのは伊達ではないらしく、ナナの駆けるスピードはニーナより上だった。


「そおいっ!」


 ナナが抜刀し、居合い斬りを放つ。

 彼女が使っているのも他の獣人達と同じく山刀だが、鞘から覗く刀身はミスリル製。


 そしてなぜかそのグリップには歯形を思わせるグリップがついていて、なんだか少し握りづらそうだ。


 だが彼女の高い身体能力と組み合わせれば、その攻撃はフォレストウルフへと届く。

 彼女の斬撃は、大木のを思わせる表皮を浅く裂いてみせた。


「か、硬いのですっ!」


「私もいきますっ!」


 ニーナが斬撃を加えるが、その一撃は浅く外側の枝葉を刈り取るだけだった。

 衝撃は通っているようだが、ダメージ自体はあまり入っていないように思う。


 だがまあ、それでも問題はない。

 逃げるために攻撃をしてもそよ風が撫でるようだった当初の俺達の比べれば、攻撃が通っているだけ上出来だろう。


「動きは俺が止めておく。二人はとにかくひたすら攻撃を続けてくれ! ララは周囲を警戒して、万が一魔物がやってきそうなら障壁魔法で足止めを」


 雷魔法で相手の動きを止められるのなら、わざわざ気張ってフェイクトレントを探すよりこっちの方がよほどやりやすい。


 樹と金属がぶつかっているとは思えないほどに硬質なガンガンという音が鳴り、難度も斬りつけるうちにようやく表面の枝葉の毛皮に穴が空く。


 そうなれば後はこちらのもので、めった刺しにしていくうちにしっかりとダメージが通るようになり、数分にも及ぶ格闘の末にナナ達は無事にフォレストウルフを討伐することに成功した。


「よし、この調子でガンガンいくぞ」


「了解なのです!」


「ああ、任せてくれ!」


 こうしてナナとニーナをパワーレベリングのためのブートキャンプが、幕を上げるのであった――。

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