気をつけます
俺達がナナと会話をしたその日の昼過ぎ。
さっそく里の人間達を集めたナナは、話し合いの結果を開口一番こう告げた。
「――というわけで、我々カイオウの氏族は今日を以てヴァル様の下に就くことに決まりましたのです」
その反応は当然、あまりよろしいものではない。
恐らく事前に話を聞いていたのであろうニーナさんを含めた数人を除き、彼らの反応はお世辞にも好意的なものではないように見えた。
「ちょっとそれは、いくらなんでも……」
「世間が許してくれませんよねぇ……」
ただナナの言葉を聞いても、いきなり表立って反対意見を述べる者はいなかった。
正直半信半疑だったが、彼女がこの里をまとめる代表というのはやはり本当らしい。
このまま流れるように話を進めることができるかとも思ったが、さすがにそう上手くはいかず。
そのまま里の人員をこの場での開墾作業とダート大森林でのレベルアップ作業に振り分けようとしたタイミングで、手を挙げる者達の姿があった。
「納得できません!」
「俺もです!」
「わしらも、人間に従うのは反対じゃなぁ……」
反対意見を出したのは、里の戦士達の中でも若い獣人達と、既に老境にさしかかっている老人達だった。
聞けば獣人達の寿命は百年を優に超えるという。恐らくだが彼らは実際に関わりを持っていたのだろう。
だが反対意見が出るのは当然だと思っていたのか、ナナの方に慌てた様子はない。
しっかり者の幼女だ。さすが為政者幼女なだけのことはある。
「――で、あればやることは一つなのです」
彼女は流し目でこちらを見てから、こくりと頷く。
その様子を見た男達が叫び声を上げながら、腕に力こぶを作り始める。
一体何をするのかを薄々察した俺の方を見ながら、ナナがにかっと笑う。
「獣人は力ある者に従うのです。我々を従えようとするのですから……そのくらいの器量は見せてくださるのですよね?」
「……ああ、もちろんだとも」
どうやら獣人は俺が想像していた以上に脳筋文化らしい。
だが腕っ節で解決できるのなら話が早い。
俺はついてこいと鼻息荒く歩き出した獣人達についていきながら、里の中央にあるというステージへと向かうことになった。
歩いていると後ろから誰かが近づいてくる。
思わず戦い前の不意打ちかと身構えるが、杞憂であることはすぐにわかった。
「うちの若いのとジジイ達が済まないな……」
「ニーナさんか。いや、気にしてないぞ。むしろ手っ取り早くて助かる」
「……思っていたより喧嘩っ早いのだな。それと私のことはニーナでいい。これからヴァル殿は我々の上に立つのだろう? 下の人間に優しくしすぎると、獣人社会では舐められるからな」
「わかったよ、ニーナ。肝に銘じておこう」
それから軽く雑談をしていると、あっという間に里の中央にあるというステージへとやってきた。ずいぶんしっかりとした造りで、ステージというよりボクシングのリングに近いかもしれない。
「それじゃあまずは俺から行かせてもらうぜ」
「行けー! マルコ!」
「人間に一泡吹かせてやれ!」
一番最初の相手は、真っ先に手を上げた男の獣人だった。
俺に対して悪感情を抱いているのは間違いないが、一応『忠義の魔眼』を使ってみる。
マルコ 忠誠度 -4
……忠誠度が負の領域に足を突っ込んでしまっている。
これ、将来的に問題ないんだろうか。
そのまま辺りに居る獣人達の方を観察してみる。
マルコをはやし立てている男達の忠誠度は一桁から20程度まで。
そして少し遠巻きに様子を観察している者達の忠誠度は40前後で、更に離れたところからこちらを見ているグループの忠誠度は30前後。
だが道中俺に頭を下げていた王国民の忠誠度と比べれば大分マシだろう。
それに彼らの流儀に従って力を見せつければ上がるというのなら、手っ取り早くて助かるまである。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかナナが審判として二人の真ん中辺りに立っていた。
彼女の忠誠度は60。
50を超えれば好意的であることを考えると、かなり友好的になってくれているのは間違いない。
ナナがこちらを見てお手並み拝見、といった表情でにやりと笑う。
「ルール無制限、五分間の一本勝負なのです。気絶やギブアップをしなくても、私が試合続行不可能と見做したらその段階で勝負は終わりなのです。正々堂々と戦うことを、祖霊様に誓うのですよ」
「おう、見ててくれ、カンナギ様!」
「わかった、俺は父祖の霊に誓おう」
「それでは試合、開始なのですっ!」
いつの間にか用意されていた銅鑼を、ニーナが勢いよく鳴らす。
低く響く音が耳朶を打つと、マルコは一気にこちらに近づいて距離を詰めてこようとする。
恐らく俺が魔導師であることを誰かから聞いたのだろう。
だが今の俺は中級程度までなら、魔法名を唱えるだけのいわゆる詠唱破棄で発動することができる。
えっと、殺してしまわないようにするには……とりあえず、非攻撃魔法にしておくか。
「パラライズウェーブ」
「がふっ!?」
初級雷魔法、パラライズウェーブ。
波状に飛ばした雷によって対象を麻痺させる、状態異常攻撃だ。
『スペル・シンフォニア』において、麻痺はかなり強力なバッドステータスで、専用のアイテムか魔法がなければ治るまでにかなりの時間がかかる。
恐らく獣人だと、これに対抗する術はないだろう。
俺の予想を裏付けるかのように、獣人はそのままその場で身体を痙攣させ続けた。
「試合終了、ヴァル殿の勝ちなのです!」
「「「……」」」
試合には勝ったが、歓声は上がらない。
しまった、彼らは脳筋種族だ。
こういった搦め手じゃなく真っ向勝負で倒さなくちゃウケが悪いのも当然だ。
「次は俺が行くぜ」
新たにやってきた獣人との第二試合が始まる。
銅鑼の音が鳴ると同時、今度は攻撃魔法を発動させる。
俺の実力を見せて圧倒する様を見せながら、彼らはついてくることはないだろう。
大怪我をさせても、死ななければララがなんとかできるはずだ。
殺してしまわないように狙いを足下にして、魔法を放つ。
「エレクトリックブラスト!」
中級雷魔法、エレクトリックブラスト。
高威力で確率で麻痺の状態異常を与える俺の愛用する攻撃魔法だ。
真っ正面から食らった獣人の腰から下の部分が一瞬にして消失する。
……しまった、今度はやり過ぎたか。
「ララ、回復魔法を!」
「了解です!」
「しょ……勝者、ヴァル殿なのです!」
「「「……」」」
俺の魔法を見てドン引きな様子の獣人達の衆人環視の中で、ララが大怪我をした獣人の下へと近づいていく。
今回はハイヒールでも足りないと感じたからか、詠唱を唱えてから上級の光魔法を行使した。
「エクストラヒール」
炭化していた患部が癒え、足がにょきにょきと生えてくる。
まるでビデオの逆再生を見ているかのような様子に、周囲の人間が息を呑むのがわかった。
図らずもララの腕も見せつけられたし、俺がやり過ぎたのも結果オーライということにしておこう……いや、ならないか。
次からは気をつけます……。
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