亜人
「どうも、初めまして」
「に……人間だとっ!?」
木陰からゆっくりと顔を出すと、ぎょっとした顔をされてしまった。
こちら側からしても想定外だったが、それはあちらからしてもまったく同じらしい。むしろ事前の心構えがない分、その驚きもより強いものなのは間違いない。
「人間と話すことなどない、帰れ!」
(まあやっぱりそうなるよねぇ……)
この世界において、人間と亜人の仲はあまりよろしくない。
王国に亜人はほとんどいないし、いてもその待遇は悪いことが多い。
歴史年表を参考にするとかつては人間と亜人が争っていた時代が長くあり、その名残が残っているので基本的に両者は犬猿の仲だ。
だが今後のダート大森林の開拓のことを思えば、彼らとは良好な関係を築きたい。
なのでなるべくにこやかにしながら話を続けさせてもらう。
「できれば話をさせていただきたいのですが……その前にできれば、彼の治療をさせていただけないでしょうか」
「う、うう……」
「ルスト!」
樹に打ち付けられた青年のルストさんがうめき声を上げ、ニーナさんがそれを聞き視線を後ろの樹木の方へ向ける。
上半身には爪でざっくりと斬られた傷が残っており、今も出血は続いている。
放置が許されないような、かなり危険な状態だ。
獣人には魔法の使い手は極めて少ない。
大きな怪我を負った時には、基本的にはポーションを使うか自然治癒に任せるしかなかったはずだ。
「……貴様、一体何が狙いだ。その治療費として、我々の身柄を奴隷として要求する気か?」
どうやらニーナさんも一目見て、彼の予断を許さない状況を察したらしい。
彼女はルストさんの下に近寄ると、訝しげな視線を向けてくる。
そんなに警戒しなくても大丈夫なんだけどなぁ。
「いえ、そんなつもりは毛頭ありません。困っている人がいたら手を差し伸べる……人として当然のことではないですか?」
俺の言葉を聞いて、ニーナさんのケモミミがぴくりと動いた。
どうやら感情によってピクピクと動くらしく、思わず触れてみたい衝動に駆られそうになるのを必死に抑える。
「……たしかに、助け合いの精神は社会生活の基本だ。まさかそれを、人間から教えられることになるとはな……」
こちらが内心で葛藤しているなどとはつゆ知らず、ニーナさんが覚悟を決めた様子で立ち上がる。
そして何か言いたげなもう一人の戦士を目線で黙らせると再度こちらを向き、頭を下げた。
「……治療費は、後で払う。どうかルストを治してくれ」
「ララ」
「はっ!」
ゆっくりと歩いて行ったララがしゃがみこみ、患部に手を当てる。
「ハイヒール」
彼女が使用したのは、中級光魔法であるハイヒールだった。
魔法は下級・中級・上級・超級の四つに分かれている。
今の彼女は水魔法だけではなく、上級の光魔法もある程度取得している。
そのため回復魔法だけでいえば、既に部位欠損すらでも治せるだけのものを持っているのだ。
ぱっくりと開いている切り傷程度なら、治すのも朝飯前だ。
「――なっ!?」
「あれだけの重傷を、一瞬で……?」
ニーナさん達がララの魔法を見て絶句していた。
その様子を見たララが、どうですかと言わんばかりに胸を張る。
自己主張をしているバストに視線が吸い込まれそうになるのを胆力で押さえ込み、ニーナさんへと近づいていく。
こうして近づいてみると、彼女の身長は俺よりも高い。自然彼女のことを見上げる形になった。
「では改めまして……俺の名前はヴァル。ヴァル・フォン・フレイムです、どうぞよろしくお願いします」
スッと前に手を差し出すと、彼女は少し逡巡した様子を見せてから、ふんすと鼻息を吐き出してこちらの手を握ってきた。
「ニーナだ。カイオウの氏族で戦士長をやらせてもらっている」
戦士長とは、軍隊における隊長のポジションの人間だったはずだ。
どうやら一発目でしっかりと立場のある人達に出会えたらしい。
握手をしたまま俺達は、事情の説明と情報交換を行うことにした。
これが俺達と獣人の良きファーストコンタクトになるといいんだけどな。




