伍の十一:横浜港/―punishment―『処刑』
薄暗がりの中、セブンの漆黒のオベリスクのような頭部は敷き詰められたエイトセグメントのデジタル表示が複数組み合わさりながら象徴的なアルファベットを描き始めた。
【 F 】
【 U 】
【 C 】
【 T 】
―FACT― すなわち『事実』
「我々の運用するアバターボディは使い捨てのディスポーザブルで無い限り、アバター一つ一つに〝IDナンバー〟が割り振られる。そしてそのIDナンバーを自らの存在証明として活動する。だが、そのIDナンバーは、アバターボディの消息不明の案件により運用不能となった。それを我々は長年の間探し続けてきた。そして今夜、ようやくに突き止めることができました」
セブンの長口上による説明の後に、ファイブが空間上のヴァーチャルコンソールを操作してある3桁数字を表示させる。
【 ロストIDナンバー 】
【 ID:№191 】
その表示の後にファイブは特徴的な声ではっきりと告げた。
「――ID№191――、ミスター榊原、身に覚えあるでしょう?」
榊原は焦りを帯びた顔のままなにも答えなかった。ファイブは処刑宣告のような口調でこう告げたのだ。
「ほら? ミスター榊原、あなたが今! 身代わりの影武者ボディとして使っているその体ですよ!」
その声は怒りに満ちていた。そして銀色に光り輝くマスクに稲妻のような模様を描きながら更にこう告げたのだ。
「アバターボディそのものの識別信号はロストしていますし、外見も無断改造されています。ですが、こうして至近距離で確認させていただいたところ、フレーム構造や近接無線メンテナンス信号などから間違いなく失われていたID№191だと断定いたします。もう言い逃れはできませんよ?」
そして、ファイブに続けてセブンも新たな英字を表示しながら、こう告げたのだ。
「今こそここに宣言する――」
【 P 】
【 U 】
【 N 】
【 I 】
【 S 】
【 H 】
【 M 】
【 E 】
【 N 】
【 T 】
―punishment―
その英字が意味することはたった一つだ。
「ミスター榊原、あなたを我がサイレントデルタに害をなす存在として〝処刑〟を宣告する」
処刑――その冷たい声が夜風に響いていた。
衝撃的な事実が響き渡る中、強欲の榊原はある事実に気づいていた。
「て、天龍? なぜ反論しない?」
大きな焦りをあらわにしながら、榊原は醜悪にも天龍のオヤジへと救いの声を求めてきた。だが、オヤジは目線も合わせずに冷ややかにこう告げたのだ。
「すでに緋色会の執行部にはサイレントデルタからの通告が届いている。事実如何によっては重要な採決がなされるとの宣告だ。コレを受けて石黒総長を始めとする現執行部から、おまえの他組織への介入行為の事実の確認を一任された」
それまで伏し目がちに視線を反らしていた天龍のオヤジだったが、不意に視線をあげて榊原の方へと向ける。その視線は何よりも強く、そして怒りに満ちていた。
「俺はそのためにここに来た」
「くっ」
射抜くような視線を受けて、榊原はうろたえるしかできない。しらを切っても逃げ切ることが不可能なのは分かっているからだ。
そして、オヤジは告げた。緋色会を代表する男として――
「緋色会執行部からサイレントデルタへと通達する」
――オヤジの声にセブンとファイブが視線を向ける。天龍のオヤジも視線を返してこう告げた。
「緋色会、特別顧問・榊原礼二――その特別顧問の役職を解任するとともに、サイレントデルタの裁決を承認し、その処断の実行に同意する」
そしてオヤジは、榊原と、サイレントデルタの二人を交互に眺めながらこう続けた。
「ミスターファイブ、ミスターセブン、我々緋色会はこれからもあなた方と良好な関係を保ち続けることを求める。そのために必要な負担があるのであれば、俺達はいつでも血を流す覚悟だ」
―覚悟― その言葉にセブンは強く頷いていた。
「ミスター天龍、聡明な判断に心から感謝いたします。今後の事後処理についてはあらためて相談させていただきます」
「心得た」
オヤジはそう同意する。さらにかたわらの俺にも視線を投げかけながらこう続けたのだ。
「永慶、後始末は任せた。サイレントデルタとの今後のこともお前が仕切れ」
「畏まりました」
「先に帰ってるぞ」
「お疲れ様です」





