四の参:明治村後編/蜂の巣の男
灯台のすぐ脇にベンチがある。
俺たちはそれに腰掛けながらまんじりとせずに待った。
内ポケットの中にスティックタイプの携帯食料がある。2本入りが一つ。なんとなく持ってきたものだったが、それを取り出し封を開けながら一本をカツに差し出す。
「食うか?」
「いただきます」
ためらわずに一本取る。俺も一本口に運んだ。
「お前、2発目撃たれたろ。傷は?」
「大丈夫です。血はとまりました」
あっさり言っているが、ビームやレーザーの傷は表面こそ小さいが中身は深い。相当な痛さのはずなのだ。
あらためて解ったことがある。
――こいつはタフだ――
ハッキリ言って俺は体力面では振るわない。虚弱だとは言わないが、こう言う闇の社会でやっていくには腕っぷしだけでは無理だと言えるだろう。
だからこそだ――
「なぁ――」
「はい」
――俺はこいつを会えたことが何よりもありがたく思えていた。
「これからもよろしく頼むぞ」
「えっ?」
驚くような声が漏れる。俺は思わず苦笑しながら告げた。
「何驚いてんだ。盃交わしただろう? 天龍のオヤジのところにも連れて行く。いずれ身内になってもらうからな」
その言葉はカツのやつには相当な幸運だったのだろう、頬が緩むのがよくわかった。
「よろしくお願いいたします」
「おう」
俺たちがそんな言葉を交わした時だった。
――ジャッ――
路面の砂利が踏みしめられる音がする。何者かが接近してくる。俺がスタンガンを握りしめるのと同時に、カツはガバメントを握りしめていた。俺は叫ぶ。
「誰だ!」
「そう言う、お前らこそ誰だよ」
帰ってきたのはまだ若い声だった。俺やカツよりも歳下だろう。だが、その風貌は人間とは似ても似つかないものだった。
「蜂の巣――サイレント・デルタの所の者か?」
「あぁ」
頭部が蜂の巣状のそいつは俺の問に頷いた。その蜂の巣頭のやつの周囲には蜂型のインセクトドローンが舞っている。俺たちを何度も監視していたアレだ。そして俺がスタンガンで二度に渡って焼いた蜂たちだ。
なるほど、こいつがコントローラーだったのか。
とはいえ、詮索はあとだ。まずは名乗ろう。
「緋色会若衆の一人、柳澤永慶と言う」
次いで隣に佇むカツを顎でしゃくって指し示し――
「で、こいつが俺の弟分の田沼有勝、見習いの身内予定ってところだ」
――と無難に説明しておいた。するとヤツも丁寧に挨拶を返してくる。
「サイバーマフィア・サイレントデルタの幹部『ビークラスターのフォー』だ。そこでぶっ倒れてるのは俺と同じサイレントデルタの幹部で『ガトリングのエイト』だ」
〝フォー〟は静かに歩み出てくる。その視線はエイトと言う男を見下ろしていた。
「おい、オッサン――大丈夫か?」
声をかけつつ片膝を付き、エイトのその体に右手を触れる。なにかをチェックしているかのようだ。
「何をしてるんだ?」
「ん? アバターボディの再起動だよ。俺たちサイレントデルタが全員生身じゃないのは知ってるな?」
公然の秘密だ。サイレントデルタのメンバーは全員、遠隔操作のアバターボディだと言うのは闇社会では広く知られて居ることだ。
「あぁ、知ってる。別な場所で遠隔でコントロールしているんだろう?」
「そう言うこった。アバターボディは高機能な精密装置だ。コントローラーである本体の人間とは色々な手段でつながっている。だが、あんまりアバターボディの側に強力な負荷がかかっちまうと接続が切れたり、アバターボディが動力ダウンすることがあるんだ」
「それを再立ち上げしてるってわけか」
「あぁ」
そう答えながらフォーはエイトを慎重に診察しているように見えた。まるで兄弟分が生きているのか死んでいるのか案じているかのようだ。
「すまなかったな」
「あ?」
俺の声にフォーが拍子抜けした声をだす。
「何謝ってんだよ」
フォーは苦笑しながら言う。
「そう言うのはよしてくれ。コイツ――エイトのおっさんだって起こりうる事は全部覚悟の上でここに来てるんだ。アバターボディを使うことで、一日一日命が削られるって事もな」
「命――」
俺は思わず繰り返した。看過できない言葉だった。





