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決死の攻防

 それから壮絶なレイドボス戦が続いた。

 敵は巨大で、攻撃力があり、防御力もある。

 ダメージを与えたと思ったらすぐにHPが自然回復されてしまう。


「ぐあっ!?」

「こちらのチーム〝DONKATSU〟から負傷者一名!」

「いったん下げて!! チーム〝ザ・紙装甲〟も機体の損傷が激しい、後ろへ!」

「ダメだ……ただでさえ戦えない奴が増えてきている。たとえ鋼鉄の鎧が砕けようと、オレの心は砕けない……」


 桃瀬としては、絶望的な状況だとわかっていた。

 触手の攻撃をガードするも、かなりHPを削られてしまうし、攻撃を当てても無限に回復してくる。


「明らかに弱点らしい聖丸の顔つき球体――コアを狙えれば、何とかなりそうなのに……」


 ゲーマーたちもバカではない。

 攻撃してくれとばかりのコアに対して、狙ったりはしている。

 だが、銃弾ですら触手でガードされるのだ。

 オマケにその意識を奪われた隙を突いて、セイント・ディノサヴロスが攻撃してくる。

 何とも聖丸らしい、嫌らしいやつだ。


「こちら、ロケランの弾が切れた!」

「手持ちの回復役もなくなりかけているぞ!」

「くっ!!」


 元々、準備をしていなかったレイドボス戦だ。

 必要なアイテムも足りない状態で始めてしまっている。

 ただでさえギリギリの状態で足止めできていたのに、弾薬や回復もなくなれば前線が崩壊するのは目前だろう。


「みんな……耐えて!! あたしが……一番足止めできるあたしが前に出続けるから……!!」

「ウサギ殿!! いくら格ゲーアバターのガードがあっても……!!」


 他のアバターと違い、格ゲーアバターはガードによってかなりのダメージを軽減できる。

 それでも強力な攻撃によって、HPをひたすらに削られていく。

 ピンキーの身体に増えていくアザが、もう限界だと物語っているようだ。


『そういえば、桃瀬ぇ……。お前は僕を殴ってくれたよなぁ……』

「!?」

『お返しをしてやらないとな……!!』


 コアにへばりついている聖丸の顔がニチャリと笑い、触手でピンキーを絡め取った。

 ガードの天敵である掴み技を食らったのだ。

 ピンキーはそのまま持ち上げられてしまう。


「やめ……離せッ!!」

『どんな声で鳴くのか楽しみだなぁ~! 女とヤルのは楽しいけど、女を殺すのはもっと楽しい……! 昔、十五月ふつつを自殺に追い込んだときもサイコーに興奮したっけなぁ……』

「あたしは……ぜんっぜん怖くなんかないんだから!! 死ぬとしても、絶対にあんたの思い通りなんてならない!!」


 セイント・ディノサヴロスは触手をまとめて、回転させてドリルにした。

 それを少しずつピンキーの腹に近づけていく。


「ひっ」

『さぁ、どんな表情を見せてくれる? どんな悲鳴を聞かせてくれる? ぎゃははははははははははは!!』


 ピンキーの目に映るのは、視界いっぱいのドリルだ。

 その回転は凄まじく、風圧がジェット機のエンジンクラスになっている。

 怖い。

 でも、この状況で自分が怖がっている姿なんて見せられないという気持ちもある。

 怖い。

 負けたくない、せめて気持ちでは。

 迫るドリルの先端、鋭利な回転、風圧が強まる。

 頭の中が真っ白になり、身体が自然に震えてしまう。

 きっと、アレが触れれば腹は裂け、内臓が飛び散り、上半身と下半身が千切れるのだろう。

 少し前まで普通の女子中学生だった桃瀬沙保里には、そんな恐怖に耐えられるはずがない。

 しかし、今は違う。


「あたしは……ピンキーだ!! どんなに負けても立ち上がり、修業して強くなって、屈強な奴らにも最後は……絶対に勝つ格ゲーアバターのピンキー!! あんたみたいなザコキャラに負けるわけにはいかない!! この親のコネだけの性格最悪すねかじり野郎が!!」

『だ、黙れぇーッ!! 何を言っても人生の勝者は僕だぁーッ!!』


 迫る巨大ドリル。

 ピンキーは死を覚悟して目をつぶってしまうが――世界一頼もしい声が聞こえた。


「聖丸、勘違いしているようだが……今から負けるのはお前の方だぞ?」

「京君!!」


 ――目を開けると、巨大ドリルは銃子のスナイパーライフルの狙撃で弾かれ、ピンキーを掴んでいた触手は京太の〝白虎大剣〟によって斬り裂かれていた。

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『星渡りの傭兵は闘争を求める』
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