第3-17話 幕引き
五十メートル以内という狭い範囲、目の届く開けた場所での再会した二人の戦い。
開けた空間で狙いを絞らせないため、動き続けながら時折鋭い踏み込みを見せるレギアス。そんな彼の動きに追従しながら、範囲の狭い攻撃を殺到させ続ける魔王レギアス。
二人の高度な攻防は観客の熱を引き上げる。一目で二人の動きを捉えられる狭い範囲での戦いというのも背を押した。わかりやすいというのは初心者にとってはありがたい要素。
その熱はレギアスたち当人には届いていない。が、感覚としてその高まりを理解している。
「それよりどうだ。外の様子は?」
高速で動き回っているレギアスは、その熱の真偽を問うように問いを投げる。
「そりゃすごいよ。観客は熱気と歓声でおかしくなりそうになってる。ここまで喜んでもらえてるとやってる方としても悪い気はしないね」
その問いに魔王レギアスは答えるが、レギアスはそれを聞いて小さく舌を打った。
「んなこと聞くわけねえだろ。本題のことだ」
レギアスの言葉に彼は一瞬真顔になると、再び笑みを零してレギアスの問いに答える。
「もちろん順調さ。もう八割方補足出来てる。後十分も要らないね」
「そうか、ところであと十分で試合は終わりな訳だがその辺は大丈夫か?」
「当然、そんなことを聞いてくるなんて頭で砂嵐でも起こるようになっちゃったのかな?」
「ほざけ。とっとと役目を終えろ」
二人は軽口を叩きながら戦闘の速度をさらに上げた。そこにお互いの負担の配慮は無い。ただ、どちらが強いかを決めるためだけのペースアップであった。
その気配を察し観客も最後の体力を絞り出すように熱狂する。会場の熱気は最高潮に達し、熱が町中に溢れだす。
最高の攻防の中、二人の時間は刻々と進んでいく。至極当然のことながら、その一方で観客の心にある感情が浮かび始めていた。終わらないでくれ、もっとこの戦いを見続けたいという強欲が。
だが、時というのは都合とはお構いなしに進んでいってしまう。
二人の戦いも終幕に近づいていた。残り時間は後一分。最後の攻防を見届けようと観客は息を止め瞳に集中した。
「あと、一分くらいか。そろそろ幕だな」
「こっちの仕事も終わった。それじゃ最後にしよう」
次の瞬間、二人の戦闘が最高速に達した。この一分で二人の是非を決めてしまおうという腹積もりだった。
迫る魔法を躱しながら、最後の一撃の瞬間を見計らうレギアス。それを絡めとってしまおうとその瞬間を待つ魔王レギアス。二人の思考が交錯する。
そして最後の三十秒。ついに事態が動く。魔法の雨に一筋の隙間、入ってきてほしいと言いたげに入ったその隙間にレギアスは飛びこんだ。
もちろん彼はその意図を理解している。魔王レギアスが彼を飛びこませるために開けた隙間であると。だが、彼は躊躇わず突っ込んだ。相手の思惑に乗ったうえで真っ向から叩き潰す。それこそが自分の強さを見せつけるに最も効果的であると。
そして魔王レギアスも思っている。そんな思惑を踏みつぶしてこそ、強者としての格だと。
魔法を捌きながら踏み込み続けるレギアス。そんな彼を迎撃するようため、密度を上げていく魔王レギアス。二人の攻防は最高の熾烈さを見せていた。
あと三歩、二歩と二人の間合いが詰まっていく。そしてあと一歩のところまで迫ったその瞬間。
魔王レギアスが飛び退った。土俵から退いたのかと思ったのも束の間。レギアスの頭上から魔法が迫っていた。上と前から挟まれる形になったレギアスだったが、さらに彼を追い詰める仕掛けが待っていた。
「これで、最後だ」
魔王レギアスはショートワープでレギアスの側面に移動すると、視界を覆いつくすほどの魔法を放った。三方向から迫る魔法にレギアスの視界は埋め尽くされ白く染まった。彼は最後の最後、絶体絶命の状態に陥った。
そして次の瞬間、すべての魔法がほぼ同時に着弾した。同時に広く巻き上がった砂煙がレギアスの姿を覆いつくした。
パラパラと打ちあがった小石が降り注ぐ中、魔王レギアスは砂煙の中を見つめる。
終わったか――、と観客が思ったその瞬間。砂煙が揺らめき、その中からレギアスが傷だらけで剣を振った体勢で姿を現した。
(なるほど! ダメージ覚悟でこっちに突っ込んできたのか!)
あの三方向から攻撃を完全には回避しきれないと判断したレギアスは次の反撃のため、まっすぐに魔王レギアスに突っ込んだのだ。身の安全を最小限に、最後の攻撃に備えての負傷覚悟の特攻であった。
迫るレギアスはついに魔王レギアスを射程内に捉えた。後は剣を振るだけで魔王レギアスを終わらせることが出来る。ここまで来れば防御など考えない。渾身の力を持って打ち砕くだけ。
最後の一踏み。同時に剣を振るおうと腕に力を籠める。その次の瞬間には彼の腕には肉を切り裂く感覚と、血の滴る魔王レギアスの姿がある。
――はずだったのだ。
一瞬のうちにレギアスの視界から魔王レギアスの姿が掻き消え振った剣は空を切った。何事かと思いながらも体勢を立て直し状況を確認する。
「――チッ」
そしてすぐに状況を理解した。景色が荒野のそれから、大観衆に見下ろされる闘技場のものへと変わってしまっていた。
「終わりみたいだね」
つまり二人の試合は終わってしまったのだ。
「試合終了! 終了です!!! 勝敗は引き分け!!! 引き分けになります!!!」
そして勝敗を告げる司会の声が無常にも響き渡ったのだった。
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