第3-1話 故郷への旅路
レギアスとマリア、二人で王都を離れて十五日が経過した。レギアスの身体能力に振り回されながら必死で彼に食らいついて走り続けたマリアにもとうとうここで限界が来る。
「も、もう勘弁してちょうだい。これ以上走ったらほんとに死ぬわ……」
「なんだ軟弱者。ついてくるなら死ぬ気でついてこいよ、ホラ吹きめ」
マリアは地面に這いつくばりながら死に物狂いでレギアスの足を掴み足止めをする。そんな彼女に対し虫でも見るような目を向けるレギアス。が、さすがに十五日も走り続ければ彼の身体にも疲労が溜まる。ここらで一度休憩を挟んだほうが後々のためにもなるだろうと休憩を取ることにする。
「まあ、この辺で休んでおくのもアリか。次の町で宿を取って休むぞ」
休憩の決断をしたレギアス。それを聞いたマリアは先ほどまでの死に体が嘘のように跳ね起きた。
「分かったわじゃあ先に町まで行って休んでおくわねそれじゃあ!」
そして街道を一直線に走り始めた。その速さはレギアスを置き去りにするもかくやといった速度。なんと現金な女なのかとレギアスは溜息を漏らす。
「バカなのかあいつは。この辺は魔族領に近いからモンスターの気配が多いって話をしたはずなんだがな」
ところで先ほどの溜息に込められた感情は彼女の現金さだけではない。このあたりは人間の領域ではあるが、魔族の領域に近い。比較的魔族の領域に近いハイルデインよりもさらに深く踏み込んでいる。
領域の近さに応じるようにモンスターの活動も活発だ。また王都付近のモンスターとは強さも大きさも比較にならない。
そんな環境に彼女は一人で、意気揚々と飛びこんでいったのだ。溜息の一つも出るというもの。
「キシャァァァアア!!!」
「イヤァァァァァ!!!」
現に彼女は蛇のモンスターに追い回され、悲鳴を上げながら来た道を戻ってきている。涙を浮かべながら必死で助けを求める彼女のその姿にレギアスは彼女の地位を忘れそうになった。
「たすっ、タスケテェ!」
戻ってきた彼女を助けるため、レギアスは目を伏せながら剣を抜く。そして地面を蹴り滑るようにして移動すると蛇のモンスターの懐に潜り込む。そしてモンスターが気付く暇もない速度で頭と首の付け根を斬り飛ばした。
途端に辺りに撒き散らされるモンスターの血潮。それを浴びて気持ち悪そうにするマリアだったが、すぐに復活すると立ち上がり、口を開く。
「よ、よくやったわね! 褒めてあげてもいいわよ!」
「――――」
「何だったら私のことをおぶってくれてもいいのよ。ちょ、ちょっとさっきので限界が来ちゃって足が動かないから次の町まで運んでくれて、モォッ!?」
なぜ助けられた側の彼女が偉そうにしているのか。その疑問とともにさすがに怒りに火がついたレギアスは拳を握り締めながら彼女のもとに歩み寄ると彼女の頭に拳骨を落としたのだった。
鈍い音とともに苦悶の声を漏らしながら地面に倒れこむマリア。肉体の限界に加えて、意識の停止スイッチを押された彼女がそのまま立ち上がることはなく、彼女の意識は奥底深くまで沈み込んでしまったのだった。
「あたまいったい……。冗談に決まってるじゃないあんなの……。それなのにあんなに力いっぱい……」
「やかましい。力いっぱいやってたら貴様程度の頭蓋なんぞ砕けとるわ。頭蓋にヒビを入れられてないだけ感謝しろ」
気絶した彼女を担ぎ、人類圏最後の集落にやってきたレギアス。頭の痛みにぶつくさ言っている彼女を黙らせ、簡単な夕食で胃を満たす。マリアも十五日もあれば慣れたのか、それに対して不満は言わない。
「そういえば、あんたの故郷のジコルってどんな街なのかしら? 私行ったことないからよく知らないのよね」
「お前自分の国のことを知らないとはそれでも王族か? もっと責任感のあるやつがきっといるからそいつに代わってもらったほうがいいんじゃないか?」」
「失礼ね。その土地にいた人間しかわからないことってあるものでしょ。そういうのを知りたいって言ってるの!」
「知ったところでてめえの音のなる頭の含蓄になるとは思えんがな」
レギアスの言に再び声を荒げそうになるマリアだったが彼女の言葉を遮り、レギアスは言葉を紡ぐ。
「まあ、暇だから話してやるが。あの町の成り立ちくらいは知ってるよな?」
「一応王族ですからね。王族ですからね! えっと、確か魔族と人類の戦いが始まる五年くらい前に人類と魔族の領域の境目付近に作られたのよね。なんでその場所を選んだのかは知らないけど」
「主産業は闘技場とその関連、あと金貸し。モンスターの素材を金持ちに売りつけることで金を巻き上げ周りの施設につぎ込み、金貸しで返せなくなった人間を闘技場の剣闘士として見世物にすることであの町は成り立ってる」
「悪趣味ね……」
レギアスの故郷について持てる知識を言葉として編む二人。お互いの言葉を聞いてマリアはさぞ治安の悪い街なのだろうというイメージが浮かぶ。いくら金持ちが集まろうと町の性質上、脛に傷持つ人間が集まるということだ。いくら上が高かろうと、下の人間のほうが多い以上、治安は悪化する。彼女はそう考えている。
それに町の位置する位置が最高に問題だ。人類と魔族の境目といってもそれはかつての話。今では魔族の侵攻によって完全に魔族の領域に食い込んでしまっている。なぜ未だに人間の町として存続できているのか不思議なほどなのだ。
「ん?」
「どうした急に何か思いついたように」
思考を巡らせていた最中、マリアはふとあることを思う。
「あんたも剣闘士だったのよね」
「もう皆まで言わずとも理解してるだろ」
「てことはあんたも借金のカタに剣闘士にされたってこと?」
「知らん。物心つく頃にはあの町にいたからな。親の顔なんぞ覚えとらん」
マリアの問いかけに、レギアスは何の起伏もない声で答えた。
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