第1-7話 冒険者の資格
二人の前に姿を現したアルキュス。彼女とレギアスの視線が交錯すると、彼女は彼という存在に気が付き、父親に問いを投げる。
「誰この人。それなりに出来る人みたいだけど」
レギアスの姿を見て、それなりと表現するアルキュス。
「お前にはこの方との模擬戦を頼みたくてな。闘技場の英雄、レギアスさんという」
「ふーん……」
彼に近づいていきながらジロジロとレギアスの姿を確認していくアルキュス。
「身体を守るための防具の一つも無し。魔道具の一つも身に着けてない。おまけに背中の剣はただの鉄剣。そんなんでアルに挑んでくるとか、……舐めてるの?」
「やめなさいアルキュス。その人は闘技場の英雄だぞ。お前も見たことがあるはずだ」
彼の貧相な装備品を見て舐められていると判断したアルキュスは睨みを効かせ、同時に怒りを声に混ぜ込みながらレギアスに問いを投げる。彼女を諫めようとレギアスの素性を明らかにするゾルダーグだったが、それでも彼女の怒りは収まらない。
「そんな昔の事なんて覚えてない。闘技場っていうルールの中で縛られてた男。どうせ大したことない」
「アルキュス!」
彼女の物言いにさすがに看過できなくなったゾルダーグが怒声を上げる。そこで初めて黙り込んだアルキュスはどのようにレギアスが出てくるかを予測しながらその瞬間を待つ。怒りに身を任せるか、それとも小娘に言われたことで悔しさを露わにするか。
しかし、彼の口から発せられた言葉は彼女の想定の外からのものであった。
「……随分とおしゃべりが好きみたいだな。受付嬢にでも転職したらどうだ? きっと人気が出るぞ」
小さく息を吐いてからの挑発めいた皮肉。その言葉に思わずアルキュスの腕が腰の剣に伸びる。
「やめなさいアルキュス! 文句があるなら模擬戦で決着を付けなさい!!!」
そんな彼女を制したのは父親であるゾルダーグであった。彼の声でアルキュスは冷静さを取り戻し、柄に伸びた手を抑える。彼女を気持ちを抑えることが出来なければこの部屋で刃傷沙汰になっていた。先ほどの混乱を収めたときのような賢明な判断であった。
「表に出て。吠え面書かせたげる」
そう口走った彼女は髪を靡かせながら部屋を後にする。彼女に言われるまでもなく模擬戦をするつもりであったレギアスは腰を浮かせると彼女の後に続いて部屋を後にする。
最後に残されたゾルダーグはこの部屋で血が飛び散らずに済んだことに胸を撫でおろすと、模擬戦の見届け人として決着を見届けるべく、彼らに続いて最後に部屋を後にしたのだった。
集会場に隣接された小さな訓練所。そこにアルキュスとレギアスの二人が模擬戦の準備を行っていた。町の上位冒険者と、伝説とうたわれる闘技場の英雄の模擬戦を一目見ようと周囲には野次馬の冒険者が集まっており、簡単な賭けにしながら戦いを心待ちにしていた。
「二人とも! この模擬戦では殺しは無しだ! あくまでも模擬戦であることを忘れない様に! いいな!」
「そんなこと、言われなくてもわかってる」
ゾルダーグの言葉を軽く流しながら模擬戦への集中を高めていくアルキュス。一方でレギアスは特に変わった様子はないままに既に模擬戦の開始地点に立っている。
「あんたたち何やってるのよ?」
「ああ、さっきの嬢ちゃんか。どっちが勝つか賭けてんのよ。嬢ちゃんもやるか?」
マリアが先ほど胸倉をつかんできた男たちに声を掛けると彼らは賭け事をしているとのこと。腰の軽い彼らに軽く呆れながらも彼女は彼らに乗ることにする。
「私は……、レギアスのほうに賭けるわ」
そう言うとマリアは財布から金貨を取り出し、彼の持っているジョッキに入れようとする。すると男はそれをさせまいとジョッキをもう片方の手で覆い隠した。
「おいおいこいつはお遊びだぜ。そんな高額賭けられたら俺たちの財布が空になっちまう」
そう言いながら男はジョッキを塞いでいた手をどかすと、ポケットから銀貨を取り出してその中に入れる。そしてマリアに顔を近づけると小さな声で囁いた。
「こいつは俺からのおごりだ。さっきは悪かったな」
申し訳なさそうな声で謝ってくる彼の謝辞で先ほどの一件を忘れることにしたマリアはレギアスたちの模擬戦に意識を向ける。
「で、賭けの割合はどんな感じなのかしら?」
「ああ、大体七対三ってところで、レギアス優勢ってところだ。アルキュスに賭けてんのはレギアスの強さを知らない奴と穴狙いの奴らだな」
「あの男ってそんなにすごいのね」
「あたりめえよ。闘技場でその姿を見たことあるやつで知らねえ奴はこの国にはいねえ。どんなに不利な状況に置かれても相手を完膚なきまでに叩きのめす。それで三千勝を挙げたんだ。弱いはずがねえ」
レギアスの強さと魅力を興奮気味に語る男。彼もまた、レギアスの闘技場での強さに魅せられてしまった男であり、その強さに少しでも近づきたいと冒険者になった口である。
そんな男の言葉を聞きながらレギアスに視線を集中するマリア。既にその対面にはアルキュスが立っており、ゾルダーグの号令一つで模擬戦は始まるところまで来ていた。
「二人とも準備はいいな。それじゃあ始めるぞ」
ゾルダーグが緊張した面持ちで二人の中間にあたる場所に立つ。そして片腕を上げ大きく息を吸い込んだ。
「始めェ!!!」
そして声を張り上げ、号令を出した。
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