第2-19話 反攻作戦
ハインドラの召集を受けて、集まった五人の勇者印持ち。彼らは兵士の先導に応じて、レギアスが訪れていた部屋に足を運んだ。
「来たか、勇者たち。そっちの君は確か読んでいないはずだが……」
「ボクが許可を出したんだよ。ボクたちより劣るとしても同じ勇者印持ちだ。経験を積んでもらって実力をつけてもらわないとね」
「よ、よろしくお願いします」
ジロリと視線を送って来たハインドラを窘めるようにマリーが声を上げると、彼女の期待に応えるようにアルキュスが頭を下げた。エルロアに言われたというのもそうだが、うら若き少女が頑張ろうとしている。これを止めるのは年長者として無粋極まる。
「分かった。同席を許可しよう。では魔砦攻略についてだが……」
早速話を始めようとするハインドラだったが、レギアスがそれに待ったをかける。
「おい待て。まず何の話をするのか説明しろ。こちとら何もわからないまま連れてこられたんだ。状況が理解できるように話さんと俺は今すぐ出てくぞ」
レギアスが脅迫染みた言葉を吐くと、ハインドラは少し苛立ったような表情を浮かべる。が、彼の力は今回の件に必要不可欠。時間は少々取られるが説明することに決めた。
「いいだろう。まず前提として魔砦は分かるか?」
「知らん。ついこないだまで俗世から離れた生活しかしてなかったもんでな。興味もない」
「そこからか……」
「じゃあ、ボクが説明しておくよ。その間にヴァイスと詰めておいてくれ」
「了解したエルロア殿。ではヴァイス殿」
マリーに説明を引き継いだハインドラは部屋の中央に置かれたテーブルに広げた地図を見ながらハインドラと話を始める。その二人の話をアルキュスが真剣な表情で聞き及んでおり、フィリスは呆けた表情を浮かべている。
「じゃあ、こっちはこっちで。二十年前くらいから魔族と人間が敵対しているのはもちろん知ってるよね?」
「バカにしてんのか」
「じゃあ話を進めよう。当然お互いに自分たちの領域を持っていて、お互い侵攻されない様に尽力してる。でも、魔族のほうが一枚上手でね。彼らは人間と魔族の領域の境目に魔砦と呼ばれる砦を建設し、そこに強大な魔力を持った魔将と呼ばれる魔族を置くことで楔を打ち込んでいる。そして人類の領域にじわじわ進行してるんだ。このままじゃ人類の領域がなくなるのは時間の問題。だから僕たちはその砦を攻略することで人類の領域を取り返しているってことさ」
「要は自分たちの場所を取られて気に食わんから、魔族をぶちのめして取り返してるって話だろ」
「まあ、身も蓋もない言い方をするとそうだね」
王国をバカにするような言葉を吐くレギアスに苦笑いを浮かべるマリー。そんな彼の言葉が癇に障ったのかハインドラが反応し、レギアスのことをギロリと睨みつける。
「魔族の侵攻は理由無く突然起こった不当な侵攻。本来であれば魔族こそ断罪されなければならない存在なのです。それを我々が悪いかの様にいうのはよしていただきたい」
「知るかそんなこと。やられてる方が悪りぃ。奪られたくねえってんなら死ぬ気で闘えよ」
ハインドラの言葉に全く怯まず言い返すレギアス。二人の間の空気が一気に張り詰めたものとなり、部屋の中に緊張感が走る。
「まあまあ。そのために今作戦を立ててるんだし、君も協力してくれるからここにいるんだろう? だったら協力しなきゃ、ね」
そんな二人をマリーが間に入って和ませる。その甲斐あって二人の空気が悪いものの、一触即発ほどではなくなる。お互いに興味を失ったかのように顔を逸らし合った二人は、自分の役割に戻る。
「……続けろ」
「ハイハイ。で、私たちはそんな魔砦から人類の生存領域を取り返すために戦ってるの。本来もっと頭数がいたほうが早く終わるんだけど、勇者印持ちはそうそういないし自分勝手で癖の強い性格の人間ばっかりで協力してくれることは稀だからね。私たち三人だけで回してたってわけさ」
「そりゃ随分と大変だったな」
エルロアの言葉にレギアスは他人事のような言葉を吐く。あまりにも能天気な様子の彼に苦笑いを浮かべることしか出来ない。
一通り、魔砦の説明を終えた。ここまでくれば大体感性で話の内容は理解できるはず。二人は未だに話を詰めているハインドラたちのほうの会話に混ざった。
「それで? どこまで話が進んでるの?」
エルロアが二人に問いかけると、彼らは渋い表情を浮かべながら彼女の問いに答えた。
「まずは魔砦の外の結界をどうにかしないとだな。お前の偵察獣も帰ってこなかったしな。あれをどうにかしない限り突入はできないぞ」
「エルロアの魔法でどうにかできないの?」
「解析してみたけど、相当複雑で強度が高いから外側からじゃボクでもどうにもできないよ。かといって出口の無い空間に無策のまま入っていくのは相当危険だし……」
うんうん唸りながら目の前の問題に取り組む四人。そんな彼らに対してレギアスは不思議そうな表情を浮かべながら見つめていた。
そんな彼の表情に気づいたヴァイスがそちらに話を振る。
「何かあるかレギアス?」
「結界がどうこう言ってるが、ともかく入らんとどうにもならんだろ」
「いや、だからそのまま入るのは危険だという話を今しているんだが?」
頓珍漢なことを言うレギアスに対しハインドラが詰問するような声を上げる。
「鈍い奴らだな。結界の出口が外側にじゃなくて、内側にあるから入らんと仕方ないって話をしてんだよ」
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