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第2-16話 試運転


「クソッ! 輝く(ブリリアント・)絶弾(バレット)ッ!」


 レギアスと模擬戦をしているシャーロットは、歯を食いしばりながら吠え魔法を放つ。彼女の周囲に輝く宝石が生み出され、それらが一斉にレギアスに襲い掛かる。


 だが、まっすぐに飛んでくるだけの魔法にレギアスがかかるはずもなく、するするとその間を抜け回避する。同時に剣を握り直しながら彼女との距離を詰めていく。


うねり狂う(アンデュレイト)水霊(ウンディーネ)ッ!」


 そんな彼に対してシャーロットは極大の水の渦を複数叩きつける。彼女の背後から発生した細い三本の渦は不規則にうねりながらレギアスに向かって牙を剥く。飲み込まれればただでは済まない。


 だが、その魔法もレギアスには届かない。不規則な動きを見切った彼は渦に掠るようにしてわずかな動きで回避する。回避した後にうねり彼に迫ろうとも彼はそれにすら合わせて回避する。


 さらに同時に彼は徐に剣を持ち上げると渦に添えるようにして当てる。すると渦を構成する水の一部が崩れるようにして剣のほうに向かって行き、剣に渦を巻くようにして水が纏わりついた。


 これこそがレギアスの剣の本来の能力である。が、既に剣の能力の限界値を理解できていたレギアスは彼女の魔法を真正面から受けることなく、端に当てることで魔法からわずかに奪うことで魔道具の性能を無理なく、無駄なく引き出した。


 水を纏い強化された剣を握り、レギアスはさらにシャーロットとの距離を詰めていく。ここまでくれば大規模な魔法を使えば自分に被害が降りかかりかねない。剣での戦いに突入する。


「シイィッ!!!」


 握った剣を上段に構えたシャーロットは息を漏らしながら剣をレギアスの脳天めがけて振り下ろす。本気でやらなければ当てるどころか届かせることすらできないと判断した彼女は、本気の本気。彼を殺すつもりで振り下ろした。


 そんな彼女の覚悟の一撃は、まるで嘲笑うかのように一蹴される。徐に持ち上げられた剣によって彼女の一撃はいとも容易く逸らされ、勢いを保ったまま地面に激突する。だが戦いが終わったわけではない。反撃が来ると直感したシャーロットは防御のために剣を持ち上げようとした。


 がそのために力を籠めた彼女は、肩が外れるような感覚に襲われる。剣が重くても持ち上がらないのだ。剣が地面と同化してしまったかのように動かず、防御態勢に入れない。


 一体何が起こっているのか。シャーロットが視線を落とすと自分の剣にレギアスの剣に付いていたはずの水が纏わりついていた。彼女はその重さの変化に気づけずに剣を動かすことが出来なかったのだ。


 しかし、そう思ったときには時すでに遅し。レギアスの剣はシャーロットの首元に添えられ撫でるように微かに蠢いていた。


 この試合の敗北が決定的となったシャーロット。彼女が動けずにいるとレギアスがゆっくりと剣を引き、闘志を収め体勢を整える。


「この剣の性能は大体理解できた。協力に感謝するぞ」


「いえ、こちらこそ。今、自分のいる位置が認識できましたので」


 レギアスの感謝の言葉に答えるシャーロット。しかし、彼女の言葉に覇気はない。勝てるとは思っていなかった。しかし一矢報いることくらいは出来ると思っていた。それくらいなければ部隊長として務まらないと思っていた。


 だが、現実はどうだ。一矢報いるどころか、傷一つ、ましてや掠らせることすらできなかったのだ。彼ら第一線級の戦士と、自分たち二線級の実力差というものを見せつけられてしまい、彼女は意気消沈していた。いざ現実を見せられるとかなり堪えるものだ。


 そんな彼女の心情の変化にレギアスも気づいてはいる。が、特に慰めの言葉などをかけるつもりはない。勝者が敗者に何を言ったところで慰めではなく嘲りにしかならない。


 シャーロットから視線を逸らし、その場から去ろうかなどと考えるレギアス。そんな彼のもとに様子を伺いに来ていたアルキュスが駆け寄ってくる。


「師匠! 模擬戦してた?」


「ああ、新しい剣の性能確認のためにな」


「へえ~、これって魔道具だよね。師匠が動かせる奴なんだ」


 レギアスの剣を見て、即座に魔道具であることを看破したアルキュス。


「ねえ、次アル! アルと訓練しよ! 」


 昨日は王都を満喫していた影響でレギアスとほとんど顔を合わせておらず、特訓も出来ていなかった。しばらく特訓できずにいた彼女はこの機会に彼と一戦交えようとしていた。


「それは別に構わんが……、おそらく邪魔が入るから後にしろ」

 

「へ? それってどういう」 


 レギアスの不自然な言葉にアルキュスが首を傾げると、レギアスがある一点を見ながら溜息をついた。彼の視線の先から物凄い速度で駆け寄ってくる。


「オオオオオォォォォォ!!!!!!」


 雄たけびを上げながら駆け寄ってくるのは満面の笑みを浮かべるフィリスであった。腰から剣を下げ、いかにも訓練帰りという風貌の彼女は、駆け寄ってくるなり跳び上がるとレギアスに飛びついた。


「剣、剣手に入ったのか! だったら()ろう! 今すぐ()ろう!!!」


 レギアスにしがみつきながら興奮の混じる声を上げるフィリス。


「まずは、離れろ。鬱陶しい」


 顔付近にしがみついているフィリスを引っぺがすレギアス。前が見えるようになったところで彼女を追ってヴァイスが姿を現した。


「それが新しい剣なんだろ! 新しいのが使えるようになったならもう戦えるだろ! だったら約束通り戦おう!」

 

 彼女のこの熱は戦うことでしか冷ますことはできない。それを戦士として察するレギアスは彼女の要望に応えるため、声を上げる。


「分かった。お前と試合をしてやる」


 レギアスはそう言いながらアルキュスに視線を送った。先ほどの言葉の意味がこれであることに気づいたアルキュスは仕方ないと内心思いながら、了承の意味を込めて小さく首を縦に振った。


「そうだそう来なくっちゃな! 早速始めよう今すぐ始めよう!」


 興奮で落ち着きがなくなっている彼女はレギアスの手を引くと、模擬戦のため動き出すのだった。






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