第2-13話 強さの資質
ヴァイスによるリベンジマッチを跳ね返し、再び勝利を収めたレギアス。それを通して彼の実力が知らしめられた。たった一日後の出来事であるにも拘らず、もう誰も彼のことを疑う者はいなくなっていた。
そんな彼であったが、勝利の翌日には失われた剣を調達するため、王城へ向かっていた。
王城を警備する兵士に頭を下げられながら目的の場所に向かうレギアス。王城を進み指示を受けたレギアスが辿り着いたのは一つの部屋であった。
「ここか、来るように言われた部屋は」
扉の前に立ち小さく呟いたレギアスが早速扉に手をかけ、押し開けるとその先でシャーロットとハインドラの二人が待っていた。二人はなぜか扉が開いた瞬間慌てたような素振りを見せたが、レギアスの知ったことでもなく、淡々と足を踏み入れた。
「……邪魔だったか?」
「…………いえなんでもございません。お待ちしておりましたレギアス様。改めて自己紹介をさせていただきます。私はシャーロット・ロブロ。黄金魔兵団の部隊長を務めております。そしてこちらが――」
「ハインドラ・エム・オーヴァインだ。黄金魔兵団の団長をしている。先日は妹たちがどうも世話になった。――ああ本当に世話になったみたいでね」
「……レギアスだ」
二人は軽く頭を下げながらレギアスに対して自己紹介をし、それに倣うようにしてレギアスも自己紹介をした。
「先日の模擬戦を目の前で見せてもらった。嵐のようなヴァイス殿の突きを捌き切るあの技量。実に見事だった」
「ンなもんはどうでもいい。さっさと本題に入らせろ」
ハインドラの褒めの言葉を一蹴したレギアスは早速本題に入りたがる。そんな彼の憮然とした態度に一瞬むっとした態度を浮かべながらもすぐに切り替え、彼の望み通りにする。
「……ではその通りに。昨日の試合で失われた剣の代わりが欲しいとのことだが、どのようなものが望みか?」
「折れず、曲がらず、よく切れるものがいい。できれば片手剣と両手剣の中間程度の大きさがいい」
「ふむ、だいぶ大雑把な要望だな。意外と道具には頓着しないほうなのか?」
「壊れたところで問題のない量産品の方が都合がいいってだけだ。もちろんある程度の性能がなければ話にならんがな」
「なるほど、含蓄のある言葉だな。さすが三千戦も積み重ねてきた男」
レギアスの主張に、ハインドラは小さく笑う。もちろんそこに嘲笑の意味はなく、言葉に込められた彼の過去を理解したうえでのものであった。
レギアスの剣の要望を聞き取ったハインドラは彼の要望に応えるべく、口を開けた。
「この王城の武器庫には様々な剣が保管されている。その中に要望に合うものがあるかもしれない。まずはそちらで探してみてくれ。彼女に案内をさせよう。いいなシャーロット?」
「かしこまりました。レギアス様こちらへ」
ハインドラが視線を送るとシャーロットが軽く頭を下げて案内のために部屋の扉に向かう。レギアスもその後に続くように歩き始め、部屋を後にするのだった。
無言のままに王都の廊下を進むレギアスとシャーロット。二人の間の空間に響き渡るのは靴音だけ。それがただ淡々と等間隔で鳴り続けていた。
そんな沈黙を破ったのはシャーロットの問いかけであった。
「レギアス様、少しお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんだ逢引き女」
「そ、それは関係ないでしょう!?」
レギアスの言葉に声を荒げるシャーロット。それこそが自白であることを理解した彼女はハッとした表情を一瞬浮かべると、咳払いで流れを変えた。
「こ、コホン。し、失礼しました。改めて、少しお聞きしたいことがあるのですが」
「勝手にしろ」
彼女の言葉にぶっきらぼうに答えるレギアス。いい加減彼のそれは通常運転であることを理解しつつある彼女は、サラリと受け流すと質問に入る。
「レギアス様は、どうやってそこまでの力を手に入れたのでしょうか?」
シャーロットは一度武器庫を向かう足を止めると、レギアスのほうを向きながら問いかける。彼女に倣うように足を止めたレギアスは、横目を向けながら彼女の言葉に耳を傾ける。
「先日目の前で拝見したあの強さはとても勇者印があるからでは説明がつかない、ヴァイス様達と比べても一段上のものであるように感じました。一体どのようにすればあのような力を見に付けることが出来るのかお教えいただきたいのです」
「なんだ貴様。強くでもなりたいのか」
「はい、この世界には勇者印を持たずともそれに匹敵するほどの強者が存在すると聞きます。この身をもってして国民を守るべく私、そして我々には力が必要なのです」
シャーロットは覚悟の決まった表情でレギアスの答えを待つ。しかし、彼から帰ってきたのは彼女の期待を裏切るような冷たい言葉であった。
「ハッ、下らねえ。何かすれば自動的に強くなるとでも思ってんのか?」
彼女のことを鼻で笑ったレギアスは彼女の先導無しに再び歩き始める。レギアスの冷たい言葉に腹を立てるよりも先に困惑が走ったシャーロットはその意味を問うために、彼のことを追って歩き始める。
「そ、それはどういう……」
「何かをしたら一気に強くなることなんてのは夢物語でしかねえ。そこに崇高な理念があろうとなかろうとな。一山一山確実に超えてそれを糧にしていくしかねえ。どんな相手であっても死に物狂いで戦ってそれで成長できない奴は素人同然、才能がねえ。戦士なんぞ止めちまえ」
レギアスのいつものようなぶっきらぼうな言葉。しかし、今回の彼の言葉がシャーロットの胸にスッと染み込んでいった。三千戦を乗り越えた彼だからこそなのだろうか。その言葉に大いなる重みを感じ受け入れることが出来た。期待していた答えではなかったが、それこそが本当の答えなのではないかと思わせるほどシャーロットの脳に焼き付いた。
「まあ、それをあいつら印持ちも体験しているっていうなら、俺と奴らの強さの差は単純だろう」
「そ、それは……?」
シャーロットはゴクリと生唾を飲み、レギアスの答えを待つ。
「俺の方が才能があるってだけの話だ。その結晶が生まれたときから備わってるこの右手の印ってもんだ」
そしてここに来て彼の口から飛び出した身も蓋もない彼の発言に、シャーロットは全身の力が抜けるような感覚に襲われた。
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