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第2-8話 天覧試合?


 王都内、その端のあたりに位置する騎士たちの詰所兼訓練所に戻って来たレギアスたち一行。当の本人であるレギアスとヴァイスはともかくとして他の面々がついてきたのかというと、要は二人の戦いの見学である。


 戦ったことのあるヴァイスはともかくとしてこの中にレギアスの戦いぶりを見たことのある人間はそう多くない。最強の剣闘士と聞いてその実力に興味を持つのは自然なことだろう。


 王都で名を馳せているヴァイスが試合をするということで時間のある騎士たちの見学もチラチラと姿を見せており、なぜか国王まで見に来ている始末である。


「よろしいのですか父上。このような場所で」


「構わん。そもそもそのようなことを想定した場所ではないだろう?」


 国王であるオルトランドに声を掛けているのはハインドラ・エム・オーヴァイン。この国の第一王子であり、黄金魔兵団の団長でもある文武両道の男である。彼らのそばにはマリアとリーナの二人もおり、レギアスたちの模擬戦を楽しみにしていた。


「ああレギアス様! またお目にかかれるとは!」


「気持ち悪いよお姉ちゃん……」


 レギアスの姿を見て興奮しているリーナに引き気味のマリア。威厳がありながらも優しい姉としての彼女の姿が崩れていくのをマリアは自分の中で感じ取っていた。


「何だか随分騒がしいな?」

 

「構うな。戦いに集中できずに負けたとでもいうつもりか?」


 騒がしくなる訓練所に思わず呟いたヴァイスにレギアスは集中を促した。


「へへっ、そんなわけないでしょ。そもそもあんたに勝つつもりなんだから」


「いい心がけだ。せいぜい全力で当たって砕けてくれ」


 早くも舌戦を繰り広げる二人。そんなを二人を見ながら見学のシャーロットが声を上げる。


「お二人はどちらが勝利すると思われますか?」


「そりゃヴァイスが勝つでしょ。いくら闘技場の英雄でもうちの最強槍兵に勝てるとは思ってないわ」


「ワタシもワタシも! ヴァイスはものすごく強いからな!」


 予想は完全にヴァイスが有利。というよりここにいる観客全員がヴァイスが負けるなどと考えてもいなかった。


「貴方はどうなのかしらシャル? どちらが勝つと思う?」


「……私は――」


 シャーロットはマリーの問いかけに言い淀んでしまう。闘技場で勇名を轟かせていたレギアスの戦いを見たことのある彼女だからこそ言い淀んでしまうのかもしれない。


 確かに普通に考えればヴァイス一択なのだろう。前線で戦う彼女は彼の実力を間近で感じ取っており、一次元違う強さを持っていることを理解している。だが、それでもレギアスが負けるとは考えられずにいた。彼女が見たのが五年前であるがそれよりも強くなっていることを加味すればレギアスだって相当の強さを誇っているだろう。


 脳内で二人を戦わせれば戦わせるほど勝敗が分からなくなっていく。シャーロットは思考に押しつぶされそうになっていた。


 結局シャーロットは答えを出すことが出来ないまま、二人の戦いの準備は進んでいく。


「試合のルールはどうする? 俺はなんでもいいが?」


「あ、だったらちょうどいいのがあるのでそれを使いましょう」


 そういうとヴァイスは腰のポーチから砂時計を取り出した。


「この砂が落ち切る前に俺が一撃加えたら俺が勝ちってのは?」


「随分と消極的な決着条件だな。別にそれで構わんが。とっとと始めるぞ」


 ヴァイスの提案をレギアスが了承し、いよいよ試合を始める準備が整った。


「誰か! 開始の音頭を取ってくれる奴はいないか!」


 公平な試合開始を求めてヴァイスが観客に合図を唱える者を求める。誰が出るか、と尻込みしているとエルロアがシャーロットに出るよう促す。公平で冷静な性格であり、戦いの心得を持つ彼女であれば適任であろう。


 促されるまま二人の間に立った彼女は、ヴァイスから砂時計を受け取り、試合開始の準備を整える。これから目の前で実力者二人の戦いを間近に見ることが出来る。その興奮で息が荒くなりそうになるが、深呼吸をし、冷静さを保つことに努める。


「それでは始めるぞ。準備はいいか!」


 最後の確認に対して、ヴァイスは得物である槍を構えることで。レギアスは脱力した体勢からチラリと一瞥意志の宿った視線を送ることで了承した。


 ついに試合が始まるのだと、周囲の観衆たちの緊張感と興奮が高まっていく。そしてその張りつめた空気を解放するようにシャーロットは砂時計を持ち上げながら試合開始の合図を出した。


「始め!」



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