第2-6話 王女との再会
リーナという常識外の生物から逃れるため、玉座の間を離れたレギアス。彼は天井付近に張り付き様子を窺っていた。
「レギアス様何処へ~。答えをお聞かせくださいませ~」
彼が下を見下ろしているとリーナが先ほどのように猫なで声を上げながら廊下を駆けている。その様子に廊下を歩く臣下たちは何事かと目を見開いているが当の本人は気にも留めずにレギアスを探して駆けている。
しかし、戦いの経験がない箱入り娘の彼女では彼が天井に張り付いているなどとは考えもしない。彼の真下をくぐってどこかへ走り去ってしまった。
その様子を天井付近で見届け、姿が見えなくなったのを確認したレギアスはそこでようやく地面に舞い戻った。
「なんなんだあの女は……」
今までに感じたことの無い恐怖を感じ小さく呟いた彼は一刻も早く王城を後にしようと決意し歩き出そうとした。
「あんたこんなところで何してんのよ?」
リーナのことで頭がいっぱいで周囲への警戒が緩んでいたのだろうか。背後からかけられた声にレギアスは気づくことが出来なかった。突然響いた声に驚いた彼は咄嗟に跳び上がると再び天井付近まで戻った。
「……いきなりどうしたの」
だが、背後から声をかけてきたのは彼を害そうとするものではなく。王族らしい身綺麗な格好に身を包んだマリアであった。レギアスの突然の奇行に呆れた視線を向けながら見上げている。
声をかけてきたのが彼女であることを認識した彼は周囲の様子を伺うと再び地面へと降り立った。
「急に声をかけてくるな。本気で手が出かねんぞ」
「何よずいぶん偉そうね。まあ、別にいいわ。それよりパパとの話は終わったの? 多分魔族討伐に協力してくれって話だったでしょ」
「ああ、断ったがな。なんで俺がそんなことをせにゃならんのだ」
王族に対しても調子を崩さない彼の言動を聞いて、マリアは思わずクスリと笑い声をあげる。
「いつも通りね」
「そんなことより貴様ら王族はどうなってんだ? 国王名乗る男にはいきなりクロスボウ向けられるわ、ドレスを着た女に求婚されるわ。常識が俺たちと違ったりするのか?」
「そんなことあるわけないでしょ。そんなことより。え、女の人に求婚された? あの場に立てるような女の人なんてシャーロットと……、えまさかお姉ちゃんが……? ……一応聞くけどどんな人だった?」
「確かリーナって呼ばれてたはずだ。国王のやつが言ってた」
先ほどのことを思い返しながら彼はマリアの問いかけに返す。彼の言葉に眉を顰めたマリアはさらに問いを掘り下げる。
「あんな感じ?」
「ああ、あんな感じだっ、た――」
マリアが横を向きながら廊下の先を指さす。その先には二人に向かって走ってくるリーナの姿があった。あまりに自然に駆け寄ってくる彼女の姿にレギアスは一瞬反応できずにマリアの問いかけに答えてしまった。
直後、彼は脱兎のごとく駆け出した。マリアとの会話もすべてを置き去りにして走り出した。
「お待ちくださいレギアス様ァ~!」
逃げ出したレギアスを求めて廊下を駆けるリーナ。しかし、彼女の足では追いつくことはできずまたしても姿が見えなくなるまで離される。
ここまで来て、まともに追いかけても捕まえることが絶対に出来ないことを悟った彼女は一度作戦を考えるため、その足を止めた。
「お姉ちゃん、何やってるの……」
ちょうどマリアのそばで足を止めたリーナに、マリアは呆れ声を漏らす。彼女の言葉を聞きながら息を整えたリーナは、マリアのほうを向くと同時に彼女の頭に拳を下ろした。
「イタッ!?」
「あんたこそ何やってんの! 私たち家族だけじゃなくて周りの人間にまで心配かけて! アンタのことが心配で父上と兄様、出て行ってから執務に身が入ってなかったんだからね!」
年長者として家を飛び出していたマリアを叱り倒すリーナ。そこには先ほどまでレギアスを追いかけまわしていた奇行種としての面影はなく、一人の妹を心配する姉としての姿があった。
「ちょうどいいから今からあんたに説教してあげるわ! あんたがどんだけ心配かけたのがその身をもって教えてあげる!」
「え、ちょっとヤダ! さっきまでパパにさんざんべたべたされたんだから! ちょっと離して! 離してったら!」
姉に捕まったマリアは何とか逃げられまいかと抵抗するが、姉の手はガッチリと彼女のことを掴んでおり、強引に振り払いたくても罪悪感がそれを許さない。
「イィヤァダァァァ~!」
姉の説教という未来から逃げられずマリアは廊下を引き摺られていくのだった。
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