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第1-35話 こちらも大盛り上がり


 メルシィが倒されたことを知りレギアスとライたちの一体三の戦いはさらに苛烈さを増した。目の前の男を素早く倒したいライたちは三人がかりで猛攻を仕掛け続けた。


 間断なく、それでいて一撃一撃が致命傷になりうる攻撃の数々を浴びせ続ける。普通の戦士であれば防御に徹しても五分、いや一分と持たないだろう。


 だが、レギアスはまともな人間ではない。それだけの猛攻を受け続けながら彼はまだ一つの傷すら負っていなかった。バルデスという人形での近接攻撃や狭い範囲を攻撃する魔法は卓越した剣技で、広範囲の魔法は察知した瞬間に範囲外に逃亡し回避する。それを一部の隙もなく繰り返すことで彼は猛攻から逃れ続けていた。


(なんという……、これだけやられれば私たちだってただではすみませんよ)


 バルデスの身体を抑え、飛来する氷の弾丸に対する盾として使いながら、背後から来る光線を剣で受け止めるレギアス。


 そんな彼に対しライは内心で感嘆の声を漏らす。もちろん彼らとてアホではない。攻撃に対応されない様に手を変え品を変え攻撃してきた。それでもレギアスの防御を貫くことが出来ていない。


 少ない情報から答えに辿り着く推察力と、その情報を拾い集める洞察力。そして人間離れした身体能力こそが彼の武器であるとライは考えていた。だが、それは少し違っていた。そこにさらにどんな攻撃に対しても即座にその特性を見抜き、対応し対処するその対応力。闘技場で様々な敵に揉まれたことで見に付いたであろう力こそが彼の数々ある武器の一つなのだ。


 試しにライはレギアスの足元に風の刃を走らせた。この戦いの中で一度も見せていない攻撃である。発動も早く音もほとんどしない、それでいて威力はしっかりしており、食らってしまえば膝から下が斬り落とされる。


 だが、それでもレギアスは反応する。バルデスの拳を受け止めようとしている体勢のまま、刃の発生に気づいた彼はそれを中止し、拳を寸前で回避すると剣の切っ先を地面に滑らせるように振り、風の刃を切り裂いて無効化した。


 見えないところからの攻撃でこれである。普通に攻撃したところで彼の鉄壁の防御を崩すことは難しいだろう。


「どうした? 攻撃は苛烈になったがこの程度じゃ俺を仕留めることなんてできないぞ?」


 拳を交わしたバルデスを投げ飛ばし、ヒナから撃ち出される魔力弾を弾き飛ばしたところでレギアスは民家の屋根の上に上り、一息入れながら声を上げる。


「この程度で私たちが本気だとでも? そんなに死にたいならもっと上げてもいいんだけど?」 


「笑わせるな、人形をまともに操れない分際で。人形の動きに集中すれば魔法の精度が最高の時より下がって、魔法に集中すれば人形の動きが疎かになる。そっちの男に意思を残して俺を襲わせておいた方がまだ効率よく俺と戦えただろうに。近距離ではまだそっちの木偶の坊のほうが強かったぞ」


 ヒナの挑発にレギアスは倍返しで返す。バルデス本人よりも動かせていないという彼の言葉が癇に障ったヒナは小さく舌打ちをし、殺気を漲らせる。


 そちらから意識を逸らし、今度はライに意識を向けたレギアス。彼は顎に手を当てながら何かを考えこむような素振りを見せている。


「今度はお前だ。お前の攻撃はぬるすぎる。援護専門とのたまう人間が本当に援護専門だとは思わなかったぞ」


「嘘は言っていないじゃないですか」


 レギアスの言葉に反論するライだったが、レギアスは構わず言葉を続ける。


「だからってあんなに攻撃で平然としてるやつがあるか。本来はお前が後ろであの女魔族が前を張って、その役割を木偶の棒に任せてるつもりなんだろうが、連携が拙いせいで本来の力が出せてないんだろう? よっぽどあの木偶を無視して攻撃し続けたほうがいいんじゃないか?」


「そうしたいのはやまやまなんですけど、長期戦になった時に前衛がいなくなってしまうと多分我々一瞬で捻り潰されてしまいますので。保険はかけておかないと」


「随分とお優しいこって」


「そちらこそ随分とおしゃべりですね」


「そんだけの余裕があるってことだ」


 舌戦を交わす二人。一度言葉が途切れたところでライがふうと短く息を吐いた。


「それにね、そちらだって別に余裕綽々と言うわけではないでしょう?」


「ほう?」


「それだけの自信を持っているのにこちらを仕留めに来ようとはしない。恐らく口ほど身体の余裕はないのでは? 現に防戦一方で攻撃を仕掛けに来ない」


 ライの指摘に無言で答えるレギアス。確かに今まで彼は防御に専念してきた。いくらか隙を見出しはしたのだが、そこを突こうとすると捨て身になりかねないからだった。


「だから何だ。俺は持久戦には自信があるぞ? 魔力がない分、消耗が少ないからな」


「何をおっしゃられているんですか。全力戦闘はここからですよ?」


 次の瞬間、ライの姿が掻き消える。彼の動きを目で追ったレギアスは彼が自分の側面に回ったことを理解する。彼の右腕はいつの間にか肥大化しており、刃物のような爪が無数についていた。


 即座に反応したレギアスは腕での攻撃を防御する。ガキンと金属のような音を立てながら接触する二人の得物。が、次の瞬間レギアスの服をライの腕から延びた爪が切り裂いた。綺麗に脇腹を貫く軌道で伸びており、咄嗟に回避していなければ服だけでは済まなかっただろう。


 咄嗟の回避から剣を振るい弾いたレギアスは伸びてくる爪を身を翻して回避しながら距離を取る。が、地面に降りたったレギアスに襲い掛かるのはバルデスの戦槌とヒナの魔法。戦槌を腕で受け止めると彼の身体がきしむような音を立てる。


 が、立ち止まっている暇もない。無理やり押し返すと首を狙って振るわれた糸を身体を逸らして躱して間一髪のところで回避する。


 距離を取ったところでレギアスの頭上から声がかかる。


「――蠢く千鞭(ヘカトン・カッター)。私も別に近距離戦が出来ないというわけではないんですよ。必要がなかったからやってこなかっただけで。とは言え今のを回避されるとは思いませんでしたが」


「二人の話は終わった? いい加減参加させてもらうわ。そろそろ仕留めたいと思ってたところだから」


 既に二人ともやる気満々だ。ここからは一縷も気を抜くことの出来ない熾烈な戦いが始まるだろう。


「なるほど。こっからは()()()()()()()()ってことか。面白くなってきたな」


 完全にギアが最高まで上がった二人を前にしてここからが本当の戦いであることを悟ったレギアスはニヤリと笑みを浮かべ、自分も全力を出すことを決めたのだった。




 ここまでお読みいただきありがとうございました!


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