第1-17話 迫る悪意
ヒュドラ討伐の事後処理をするべく、その死体回収の準備をしていたゾルダーグ。
そこらに出てくるモンスターの死体ならともかくヒュドラクラスのモンスターの死体となれば捨てるところがなく、余すところなく使うことが出来る。これを集会場としてもギルドとしても逃すわけにはいかなかった。
死体を回収したうえで保存するための冷却用の魔法が使える者や、森まで行く際に警護する人材、解体をするための業者にも声をかけて着々と準備を進めていた。
そこにレギアスが帰ってくる。
「レギアス殿。死体はどうでしたか」
「消えた」
レギアスの素っ気ない一言に思わずゾルダーグは素っ頓狂な声を漏らす。
「は、ハァ?」
「死体が消えていた。まるで最初からそんな生物はいなかったみたいにな。残ってたのは地面に染み込んだ血だけだ。それ以外は何も残っていなかった」
「そ、それではこの回収班は……」
「意味ねえな。まあ、首と心臓は残ってる。それでどうにかしろ」
そんな彼の言葉にゾルダーグはがっくりとうなだれ膝をつくのだった。
回収班の面々への謝罪行脚を終えてやっと息をつけるようになったゾルダーグが集会場の自室に戻ってくる。そこには椅子に座って白湯を飲んでいるレギアスがいた。
「あ、レギアス様。お待たせして申し訳ございません……」
「随分疲れるな。それなら俺の依頼の処理は明日で構わんぞ?」
「いえ、町の恩人をこれ以上お待たせするわけにはいきませんから……」
そういうと彼はレギアスの対面に座り、彼と向き合った。
「では、今回のヒュドラ討伐の依頼なのですが……。レギアス様、疑うようで申し訳ないのですが、本当に倒されたのですよね」
「正直心外も心外だが、気持ちは分からんでもない。だが、ヒュドラの毒を解いた心臓と集会場に残っている首が、何よりの証拠だ。それでも疑わしいのであれば今回の件はなかったことにしてくれても構わん」
「いえ、あれだけの証拠があれば上を納得させることはできるでしょう。報酬の方は冒険者登録をされた際に同時に開設した預金口座のほうに送金させていただきます。ご帰宅の際に受付に寄っていただければ金額の確認等できますので」
「分かった。確認しておく」
そう言うとレギアスはカップに残った白湯を飲み干した。空になったカップがコトリとテーブルに置かれるとそれをゾルダーグが手に取り、代わりを注ぎ始める。
「それにしてもヒュドラの死体は一体どこに消えてしまったのでしょうか……。この集会場の財源になると思ったのですが……」
「さあな」
おかわりを差し出されたレギアスがそれを口をつけながらゾルダーグの疑問に応じる。続けて彼は言葉を紡いだ。
「ともかく今回の一件、何かが裏で動いていることは間違いないな」
「と、言いますと?」
レギアスの言葉にゾルダーグが疑問を呈するとレギアスは少し呆れたように息をつくと言葉を続ける。
「ヒュドラっていうのは確か、北のほうにある谷、レパンド峡谷の奥深くに生息する生物だったはずだ。そいつがこんな人里近くに、それも前触れもなくいきなり現れるなんてどう考えても不自然だ。それに加えて倒した死体が消えた。ヒュドラのデカさ的に拾って帰れるようなものじゃないし、勝手に足が生えていなくなるなんて話も聞いたことがない。てことは誰かがヒュドラをこっちに送って倒されたから回収されたと考えるのが自然だろう。集会場の長のくせにそんなことも分からないのか?」
「いや、しかしいったい誰がそんなことを……」
「んなもん知るか。そんなに知りたきゃ誰かに調査依頼でも出せばいいだろう。俺はそういうのできないがな」
そう言うとレギアスはカップの中身をすべて飲み干し立ち上がった。
「馳走になった。これからもよろしく頼む」
それだけ伝えると彼は部屋を後にした。既に時間は夜遅く。窓の外を見ると太陽は完全に沈み切り、月が空に静かに煌めいていた。
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