第3-34話 帰らぬ人、そして復活
リーヴェルから事の顛末を聞いたオルトランドやヴァイスたち。
「そ、そんなことが起こっていたとは……」
「ま、全く知らなかった……」
当然、その場の全員が驚きに包まれ、思い思いの感想を述べていた。その中で一番ショックを受けていたのはリーナだろう。憧れの男が死んだという事実に崩れ落ち滂沱の涙を流した。
そんな中、ハインドラが広間中に響く声を上げる。
「こうなることが分かっていてなぜそのことを我々にも伝えなかったのだ! そのことを知っていればこのようなことが起こる可能性は少しでも減らせたはずだ!」
「このことを伝えたとて、あなた方が信じる可能性は低かった。それにあまり広く知らせていい事ではありませんでしたので」
彼女の指摘にハインドラはうっと声を詰まらせる。確かに先ほどの話を聞かされて信じたかは正直可能性として低い。
「あのときあった魔王が偽物……?」
「ええ。とはいえ対となる力であるため本質的には同じようなものではありますが」
「対……」
リーヴェルからの答えを聞き、少し考えるような素振りを見せたエルロアは何故かがっくりと肩を落とした。
ここで一度話を変え、リーヴェルは国王のほうを向く。
「ところで国王にお願いがあるのです」
「うむ、聞こう」
「王国の力のすべてを使い、国民をこの王都へ避難させていただきたい。このままでは魔王の通り道の町の住人は全滅し、付近の町も垂れ流しの魔力で深刻な被害を負うことになります。既に私の部下が魔族領に近い町から住人を避難させ始めています」
「うむ、それに関してはこちらもそのつもりではある。先んじて動いてくれたことを感謝する。ハインドラ」
「了解しました。部下全員、および町を守る兵士たちにも指示を出します。私はこれにて」
オルトランドの指示に了解したハインドラは頭を下げると指揮のために玉座の間から立ち去る。
「だが、避難したところで奴を倒すことが出来なければ無意味だぞ」
「そこは私が命を懸けてでも何とかします。私は以前、魔王を封印したことがあります。その時は友人の力を借りてですが……」
「なんと!? それは心強い。ぜひ協力を願いたい!」
リーヴェルの言葉にオルトランドは身を乗り出す。それならばなんと心強い事だろうか。だが、懸念事項がないわけではない。
「魔王だけじゃなくレギアスとあの魔王が倒しに行って倒せなかった魔族までいるのに大丈夫なのかよ……」
「それを言われると厳しいとしか言えないわね……。勝率はどれだけ高く見積もっても三割もいかないでしょう……」
その言葉を聞いて皆は意気消沈する。だが、ないものをねだっても仕方ない。あるものでどうにかするしかないのだ。
やって来た魔王をどう封印するかを話し合うリーヴェルたち。だが、その中で先ほどの会話に違和感を覚えたリーナが意を決し声を上げた。誰も指摘しないあることについて。
「ねえ、さっきレギアス様が倒しに向かったとおっしゃいましたが……、あの方と一緒にいるはずのマリアは一体どうしたのでしょうか?」
この場の誰もがマリアがまさかそんな危険地帯に行くはずがないと勝手に思い込んでいた。だが、もし生きていてこの女を王都に戻ってきているならばここに戻ってこない理由がない。あまりの緊急事態に誰のその追及を忘れてしまっていた。
ならばなぜ現れないのか。その答えが徐々に皆の脳裏に浮かび始め、同時に顔を青くしていく。
その答えはバツが悪そうに顔を逸らしたリーヴェルが明らかにした。
「……あの方はレギアスたちについていきました。恐らくは、もう……」
その言葉にオルトランドは全身の血液が抜けるような感覚を覚え、倒れこむように椅子に身体を預けた。
「……ぷはっ」
魔王もマルスを去った、瘴魔の丘だった土地。瓦礫の山と化し命の息吹すら感じられない場所となったそこでマリアは息を吹き返した。
だが、息を吹き返したものの、酷く傷を負ってしまっている。飛散した瓦礫に押しつぶされ、左腕は原型がないほどぐちゃぐちゃに潰れてしまっており、瓦礫が直撃し右目が完全に見えなくなっていた。加えて致命的なのが、装飾で使われていた錆びた鉄剣が脇腹に突き刺さっていることで、そこから血という名の命が緩やかに流れ出していた。
「生きてる……、けどこれじゃもう……」
自分がもう長くないことを悟ったマリアはフラフラと歩き出す。死ぬならせめて一人じゃなく誰かとともに。そう、レギアスと一緒に死にたい。朦朧とする意識の中で芽生えた願いであった。
重い身体を引き摺りながらレギアスの遺体を探すマリア。途中、瓦礫に潰されずに済んでいた魔王レギアスの遺体を見つけながらも、彼女はレギアスの肉体を発見した。奇跡的に瓦礫に圧し潰されることなく崩壊前の形を保っていた彼を見つけ、マリアは安堵し彼のそばに腰を下ろし溜息をついた。
「――んだよ。わざわざ俺に会いに来たのか。随分健気なこって」
直後、彼女の耳にか細い声が届く。驚きで身体を跳ねさせた彼女が視線を落とすと、死んだはずのレギアスが目を開き見つめていた。
「あ、あんた死んだんじゃなかったの!?」
「勝手に殺すな。俺は一応まだ生きてる」
「で、でも身体は相当冷たくなって」
「あのままじゃ血の流れすぎで死ぬと思ったんでな。必要最低限まで血の流れを押さえてただけだ。体温が下がってたのはそのせいだ」
彼の言い分を聞き、彼女は胸を撫でおろす。安心感でつい意識が現から離れそうになるが何とか堪え彼と向き直る。
「とはいってもこの怪我じゃどうしようもねえがな」
吹き飛んだ両足を指しながら諦めたような言葉を吐くレギアス。いつもの彼らしくない弱気な姿勢。そんな弱気な姿を見たマリアは静かな怒りを漏らしながら彼の頬を軽くぴしゃりと叩く。
「……何簡単に諦めてるのよ。いつもみたいに強気に何とかして見せるくらい言いなさいよ」
そう言われレギアスは目を逸らした。彼女の言い分はもっともである。今すぐにでもあの男を追いかけて首の一つでも跳ねてやりたい気持ちはある。だが、足がなく激しく消耗している。いくら彼でもあのレベルの相手をして両腕だけでは勝機を見出すことは出来なかった。
だが、彼と違いマリアは諦めていなかった。彼のそばでこのまま眠ってしまおうと思っていた彼女だったが、こうなれば話は別である。まだ希望は残っている。
「ともかくあんたはそのまま起きてなさい。私が何とかするわ」
「おいおい、お前に一体何が出来るっつうんだよ。ついてくるだけだったお前に」
「うっ、さい……、私にしかできないことがあるのよ……」
レギアスの言葉に軽く言い返し、彼女は覚束ない足取りで広間を進み始める。彼女の目的は魔王レギアスの死体。彼女は死体を手に取るとレギアスのほうに向かって引き摺り始める。
だが、全くパワーが足りていない。かなり軽い部類の魔王レギアスの死体ですら左腕を失い、血を失い痛みに苛まれているマリアにとってはまるで象かと間違うほどの存在と化していた。息を切らし膝をついた彼女に諦めたらいいという悪魔が囁く。
「まだ、っまだァ!」
だが、彼女は諦めない。再び死体に手を掛けると力いっぱい引き摺り始める。ズルズルと少しずつ進み始めた
でも、消耗が改善したわけではない。足元すら覚束ない彼女では引き摺れる距離は微々たるもの。日が暮れそうなほどゆっくりとした歩みであった。
このままでは先に自分の命が尽きてしまう。そう考えたその時であった。
「大変そうだね。力を貸そうか?」
広間に二つ目の男の声が響いた。同時に彼女の引く死体がふわりと軽くなる。視線を落とすと、そこには短剣が魔王レギアスの服に突き刺さる形で浮かび死体を持ち上げていた。
「魔王のほうの、レギアスね……?」
「あの瞬間、咄嗟に意識と最低限の魔力を短剣に移したのさ。とはいえ維持するための魔力が切れたら本格的に死んでしまうけど。何か策があるっていうなら俺に出来る精一杯の力で喜んで協力しよう」
「ありがとう助かるわ……。それじゃあそのままあいつのところに……」
マリアがそう言いながらレギアスのほうを向くと、彼が這いながら近づいてきていた。
今まで守る側だった彼女にあのように言われて動けないほど彼の誇りは安くない。何か確実な策があるのだと理解し、精一杯自分に出来ることをしていた。
こうして合流した三人。
「で、これからどうするんだ? 何か策があるんだろ」
「ええ、一発逆転の切り札がね」
そういうと彼女は空間の穴に手を差し入れ何かを取り出す。それは一メートルほどの鏡であった。
「それは……?」
魔王レギアスが問いかけるとマリアは蚊の鳴くような声で答える。もう彼女の限界も近い。
「祈願の三面鏡。貴方たちを二つに分けた古魔道具よ。これを使ってあなたたちを本来の形に戻す。本来の形に戻ることが出来ればまだ戦えるはず……」
もし魔王が復活した折、それに対抗するためリーヴェルが彼女に預けていた魔道具である。これで二人を元の形に戻せば、勇者としての力を取り戻し魔王に対抗できる。微かな希望にかけての策であった。
鏡を地面に置いた彼女は畳まれていた鏡を三面鏡に変形させる。左右の鏡に二人が映るように、そして中央の鏡に自分が映るようにすると、鏡の中に祈りを捧げ始める。
「おい、その魔道具何か裏があるだろ」
その最中、レギアスがマリアを追求するような声を上げる。確かに二人が元に戻ればこの窮地を脱することが出来る。そうなれば一発逆転も同然。
だが、そんな都合のいいことが何の代償もなく出来るとは思っていなかった。
当然、そのことはマリアは知っている。リーヴェルに渡されていた魔道具もそのことを懸念して渡されていたものなのだから。
「ええ、そうよ。この魔道具は代償を必要とする」
その言葉の直後、魔道具が起動し光が溢れ出し始める。三人を包み込んだ光は徐々にその強さを増していき目も眩むほどの力へと変わっていく。
「おい、まさか……」
「――今までありがとう。さよなら」
何も見えなくなる直前、レギアスは声とともに目にしたのは一筋の涙を見せながら穏やかな笑みを浮かべるマリアの姿であった。
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