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第1-11話 英雄の考え


 その実力を認められ、冒険者として正式に登録したレギアス。


 だが、まだ始まってすらいない。あくまでスタート地点に立っただけでありこれから依頼を受けて仕事をこなし報酬を受け取ることで初めて彼の目的が完遂されるのだ。


 早速依頼を受けようと動き出すレギアス。しかし、そんな彼の前にまたしてもマリアが立ちはだかる。


 ぶすっとした顔で端の方に置かれた椅子に座っていた彼女はレギアスを見つけるとずんずんと足音を立てながら彼に近づき不満をぶちまけていく。


「あんたねえ! いきなり締め出しておまけに扉をあかないようにするってどういうことよ!」


「相変わらずうるせえ女だな。大体、聞いてどうするつもりだ? 含蓄になる様な事はないだろ」


「それは……、単なる暇つぶしよ。それに大体、聞いたところで得は無いけど、害があるわけでもないんだから別に聞いててもいいじゃない」


「かぁ~、呆れた女だな。たかが暇つぶしのためにあんなに騒げるか普通? 脳内で花火を着火させる趣味でもあるのか。ないんだったら治療を勧めるぞ」


 案の定ぎゃんぎゃんと騒ぐマリアの言葉をレギアスは適当に受け流す。しばらくそれを続けていた彼であったが、いつまでも彼女に構っていても仕方がない。ほどほどのところで切り上げて早速依頼を受けることにした。


 依頼の張られている巨大なボードに近づいてその内容を確認していく。しかし、割のよさそうな仕事は既にあらかた取られてしまっており、今あるのは町の雑用や雑魚モンスターの討伐など、下っ端がやる様な仕事ばかりであった。


「まともなのがないわね。あ、でもこれなんかいいんじゃないかしら。グレートウルフ三体の討伐ですって」


「……なあ、お前は何でついてくる前提の口調で話してる? てか何まだついて来ようとしてるんだ?」


「えー別にいいじゃない。町で待ってても暇だし、それに私、そこそこ戦えるのよ。邪魔にはならないようにするしついていって迷惑になる様な事はしないわよ」


「野盗に取り囲まれて間一髪だったやつの言葉は信用できる要素が一ミリもねえな。黙って人の行き来でも見ながらお座りしてろ」


「あんたのそういう物言いがムカつくのよ! もっと言い方を改めなさい!!!」


 彼女の反論を無視して適当な依頼を手に取り、カウンターに向かうレギアス。周囲からは闘技場の英雄が一体どんな依頼を受けるのだろうかと、興味津々の眼を向けられていた。


 彼を担当する受付嬢は差し出された紙を見ながら依頼の内容を確認する。その直後、その内容に驚き目を丸くした。


「あのぅ……、本当にこの内容でよろしかったでしょうか?」


「そうだが? 何かおかしいところがあるか……」


「いえ、ただランクに合わない内容だなぁと思いまして……」


 彼が選んだのは荷運びのバイト。冒険者どころかそこらの力自慢でも出来そうな内容であった。上から二番目という階級に見合わない仕事内容に受付嬢は改めて確認を取るが、当の本人はなぜ問われているのか分からないと言わんばかりの表情を浮かべている。


 彼にとって、冒険者の仕事というのは食い扶持を稼ぐための手段でしかない。そこに世界を救う英雄になるなどの目的はなく、そこに至るための過程もない。ただその日を暮らせれば十分な金さえ得られれば十分である。


 『高い階級なのだから難度の高い依頼を受けるのが普通では?』と思う受付嬢だったが、彼が受けるといった以上、断る理由はない。手続きを済ませて依頼を受けたレギアスは早速出発の準備をする。


「待ちなさーい。あんたが心配するから私も冒険者の登録してきたわー」


 扉から出ようとしていたレギアスを背後から迫ったマリアが呼び止める。彼女の手には登録仕立てほやほやの冒険者カードが握られている。行動力の化身である。


「あのなあ、俺が受けたのは荷運びの仕事だぞ。お前が楽しいような綺麗で美しい仕事じゃねえ」


「あら、別にいいじゃない。身体能力なんて魔法でどうにかできるし。それに仕事に美しいも汚いもないじゃない? それで世界が回ってるならかけがえのないものだわ」


 そういうと、マリアは彼の依頼に参加するために再びカウンターに向かって走り出した。彼女がわざわざ冒険者として登録したうえにあんなことを言われてはどうにも引き剥がしにくいというもの。もはや連れていくしかないと悟ったレギアスは深くため息を付くのだった。


 同行の手続きを終えて戻ってくるマリア。パタパタと足音を立てながら戻ってくる彼女の足音一音一音でテンションを下げながら、初めて依頼に出発とするレギアス。


 マリアを伴ってレギアスは依頼の場所に歩いていくのだった。






 

 その直後、彼らの集会場に焦り散らしたゾルダーグの声が響き渡った。


「レギアスさまはまだいられるか!?」


「ぞ、ゾルダーグさん? ど、どうされました?」


「レギアスさまはまだいるかと聞いているんだ!? どうなんだ!?」


 普段の冷静な様子と違い、慌てた様子の彼に怯えながら受付嬢は彼の問いかけに答える。


「そ、その方なら先ほど依頼を受けて行かれましたが……」


「受けた依頼は!? 見せて見ろ!」


 受付嬢の差し出した紙を受け取ったゾルダーグは目を走らせ内容を確認する。


「なんだってこんな依頼を……。だが、今回は好都合だ」


 彼も受付嬢と同じように困惑の色を見せる彼だったが、同時に抑えきれないという感じの笑みを浮かべる。


「すぐに呼び戻すぞ! 緊急の依頼を発行する! 内容はザルボの森に出現したヒュドラの討伐だ!」


 ゾルダーグがそう叫んだ瞬間、集会場内が嫌な雰囲気と騒がしさに包まれた。




 ここまでお読みいただきありがとうございました!


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