第3-31話 大どんでん返し
マルガに止めを刺すべく振るわれた二人の攻撃。絶死の一撃は確実にマルガを打ち砕きその命を奪う。はずだったのだ。
しかし、そうはならなかった。お互いの一撃が標的にに炸裂することはなく。レギアスの一閃は魔王レギアスの首を斬り飛ばし、魔王レギアスの魔法は、レギアスの身体を吹き飛ばし崩壊させた。
その直後から、事態は急激に動き出す。首が泣き別れした魔王レギアスの身体は力なくドサリと地面に落ち、腹部で魔力が爆ぜたレギアスは足を霧と化されながら、後方に吹き飛んだ。
「レギアスぅ――――!!!」
広間中にマリアの悲痛な叫びが木霊する。
突然の事態に咄嗟に身体を屈め、足を犠牲に命を守ることしか出来なかったレギアスは吹き飛ばされ、壁に背中を無防備に打ち付けた。苦悶の声とともに肺からすべての空気が抜け出て全身の力が抜ける。
「ぐ、クソッ。何が起こった……」
地面に倒れこんだレギアスは回らない頭で一体何が起こったのかを考える。だが、駆け寄ってきたマリアに身体を起こされる間もその答えを導き出すことはできなかった。
しかしその言い方は少々語弊がある。使った魔法はおおよそ見当がついている。リーヴェルもこの魔法にかかって右手首を失ったと考えられる。
問題なのはなぜその魔法をかけられたことに気づくことが出来なかったかだ。レギアスの直感は優秀。下手な魔法など掛けられたところですぐ気づける。しかし、今回は気づくことが出来なかった。
「おや、まだ生きていたんですか。あの魔法を食らえば確実に死ぬと思っていたんですが」
苦痛に喘ぐレギアスのもとに今回の一件の下手人が姿を見せた。ゆっくりとした動きでマルガは地面に降り立つと、その足をゆっくりと動かしレギアスに歩み寄り始める。
「テメェ、ずっと上から見てやがったのか」
「いえいえ、私はずっとあなた方と戦っていたじゃないですか」
「惚けてんじゃねえ。一体どんな魔法を使ったのかは見当がついてんだよ」
レギアスの言葉にふむと小さく声を上げたマルガは手で指しながらその答えを問う。
「では死ぬ前に教えていただきましょうか。私がどんな魔法を使ったのか?」
「テメエが使ったのは幻惑の魔法だ。それをここに入って来た時点で俺たちにかけて自爆するように仕向けてたんだろ」
レギアスの言葉を聞き、マルガは満足そうな表情を浮かべた。だが、それだけでは不十分だったらしく、彼は補足の説明を行う。
「正解です。が、それだけでは不十分。私の幻惑の魔法が得意なのですが、得意が転じて相手がかけられたことに気づかないほど上達することが出来たのです。その精度はあなた方であろうと例外ではない」
加えて補足するならば、彼は自分の魔法を魔道具として他人に行使させることが出来る。以前、グウィンが逃がした敵も彼の魔法で幻惑をかけ、その間に離脱していたのだ。グウィンが逃がしたのも結界の中から彼らが逃げ出したのではない。既にその場にいなかったからなのだ。
「で、でも私は貴方の姿がちゃんと見えてたわよ!」
「ふむそうなのですか。……おそらくあなたを殺したときに魔法の効果が消え、そのあと復活したことで効果の対象外になったのでしょうね。そんなことがあるとは思わなかった。死人を蘇らせることは滅多にできませんからね」
予想外の事態を推測し答えを導き出した彼は納得したように首肯する。一度止まった足も再び動き出し、レギアスとの距離が徐々に近づいていく。
(クソ、何で足が元に戻らない!? おまけにあいつも生き返らねえ?)
マルガが近づいてくる中、レギアスは焦りを覚え始めていた。血飛沫と化し飛散した自分の足が元に戻らない。不死身であるはずの彼の身体は一分も経てば元通りになる。だが、その現象が一向に起ころうとしない。おまけに彼が手にかけてしまった魔王レギアスも以前のように生き返ろうとしない。
(どうする。このままじゃ……)
そう考えた直後、マルガが彼の内心を読んだかのような言葉を吐く。
「ああ、君の身体は戻らないと思いますよ?」
その直後、彼の直感が警鐘を鳴らす。反射的に彼の身体が動いておりマリアを突き飛ばす。飛ばされた彼女は宙を舞い、レギアスから遠ざかった。
マリアが飛ばされ地面を転がった直後、手の届く場所まで歩いてきたマルガがレギアスの胸部を手刀で貫いた。その一撃はレギアスを容易く貫き、肌と患部を赤く染め上げた。
「レギアスぅーーーーー!!!!!」
二度目となる叫び声を上げながら飛ばされたマリアが再度歩み寄ってくる。その姿を横目にしながらマルガは貫いた手刀をゆっくりと抜き取りながらレギアスから離れる。その手にはリーヴェルから預かっていた腕輪が握られていた。
再びマリアの手の中に抱かれたレギアス。口から血を吐き血の溢れる胸部を押さえる彼は、瀕死の身体に鞭打ち、離れていくマルガに問いを投げた。
「おい……、なんで俺の身体が治らないことが分かった……。いや、そもそも俺の不死身のことを知ってるのか!」
「ええ、知っていますよ。なぜあなた方が不死身の身体を持っているかもね。それどころかあなたたちのすべてを」
彼の問いにピクリと身体を動かした彼は振り返りながらレギアスの言葉に答えた。振り返った時の彼の表情は意地の悪い笑みが浮かんでおり、彼を嘲笑うかのようだった。
「もうこの変装も要らないですね」
そういうと彼は自分にかけた魔法を解除した。そこに浮かぶ顔はレギアスに見覚えのあるものであった。
「お前、前に魔王レギアスを迎えに来た魔族だな……」
マルガの正体は、以前二人の戦いに割って入ってきた魔族、マルスであったのだ。
「何も知らずに死ぬのでは死んでも死にきれないでしょうね。良いでしょう。この事件の元凶として、当事者であるあなたにすべてを教えて差し上げよう。すべてを聞き終わるまでに死なない様にね?」
そう前置くと、マルスはこの事件の顛末のすべてを、そして過去から連なる因縁を語り始めるのだった。
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