第3-30話 外野の疑問
その戦いの中でマリアが覚えた違和感は始めはほんの些細なことであった。
――あの二人を相手にしてそんなに長く持つものなのだろうか――
戦いが始まって五分が経過したころ、彼女の胸中に浮かんだ一つの疑問。それは一分刻みで強くなっていき、同時に言いようのない不快感を与えていた。
彼女はレギアスの強さをそれはもう嫌というほど知っており、魔王レギアスの強さも先日の試合で十分に理解した。二人の強さは一人でも人外じみている。それが二人同時に襲い掛かってくるのだ。それはもう相手からしてみれば絶望しかないはずだ。
そんな彼らだからこそ、戦闘はすぐに片付くものだと勝手に思っていた。しかし、彼女の頭上で戦闘音がやむ気配はない。時間が経つにつれどんどん激しくなっていく。
「私を殺してきた相手はどれだけ強いのかしら……」
避難した地中にてポツリとつぶやいたマリアは、どうしようもない違和感を覚えた彼女は上を確認しようかと考える。危険ではないかと彼女の内なる理性が止めようとするが、好奇心は耳を貸さない。
そもそも戦いが始まった時点で彼女は違和感を覚えていた。敵に攻撃したレギアスはあろうことか剣を何もないところに向かって振るったのだ。今思えば、透明になった伏兵がいたのかとも思えるが、マリアの目にはちゃんと敵の姿が映っていた。レギアスが本命の敵から目を離すとは到底考えにくい。不可解だ。
それに気になったからだけではない。彼女の本能が警鐘を鳴らしていたのだ。上で何か恐ろしいことが起こっていると。確認しなければまずいことになると。
上で凄まじい戦闘が行われていることを知りながらも、マリアは覚悟を決め地中の安全地帯から抜け出した。
そこで彼女が目にしたのは素人の彼女ですらわかるほどの異変であった。今まで彼女はずっと自分を殺した魔族と二人のレギアスが戦っているものだと思っていたし、この状況でこの選択肢以外は事実上あり得ない。
だが、現実は違った。違っていたのだ。彼女の目の前で戦っていたのはレギアス、そして魔王レギアスだったのだ。二人の標的になるはずの魔族は二人の頭上で戦いを眺めながらニヤニヤと笑みを浮かべている。
どうして二人が戦っているのか。その現実を受け止めきれずに硬直するマリア。戦場の中、棒立ちになってしまった。
だが、そんなことをしている場合ではないと理性で身体を納得させると二人の凶行を止めようと試みる。そこで彼女は目の前で行われている光景を目の当たりにさせられた。
激しくぶつかり合う力、目を見張るほどの技術の応酬。熾烈を極める闘気の奔流。そこで彼女は思う。私がこの間に入っていけるのだろうか。動き出そうとした瞬間、彼女は脳裏に一瞬の迷いを覚えてしまった。
だが、その一瞬が命取りとなる。彼らの戦いを止めたいならば絶対に迷ってはいけなかった。躊躇ってはいけなかったのだ。
「おい、今すぐ攻撃を止めろ!」
今更異変に気付いたようなレギアスの声が響き渡ったが、時既に遅し。跳びかかった彼の攻撃は無慈悲にも魔王レギアスに振るわれ、魔王レギアスの魔法もまた、躊躇いなく打ち出されたのだった。
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