表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/117

第3-29話 不穏な警鐘



 そうして戦闘が始まって二十分が経過した。戦況は圧倒的にレギアス側が優勢である。


 二人の攻撃をマルガは懸命に捌いてはいるが、反撃の魔法は彼の思うように発動せず攻撃の手を弛めさせることが出来ない。おかげで身体中に傷が刻み込まれ続けており、追い込まれるのも時間の問題かに見える。


「行けそうだね。このままいけば」


 そんなマルガの様子に魔王レギアスは声を上げる。二人の猛撃は少なくないダメージをマルガに与えている。それに対して二人のダメージはほぼゼロと言っていい。どう考えても二人が優勢。ここからマルガが逆転するのは至難の業。そう考えているからこそ、彼はその言葉を紡いだ。


 だが、一方でレギアスはそうは考えていなかった。


「……このまま何もなければな」


 ――おかしい――


 その理由はただ一つ。あまりにも都合が良すぎるからであった。彼の実力を測るアンテナは極めて敏感である。その精度はかなりの正確性を持っている。


 そんな彼女が腕輪を守れないほどの相手をしているにしては目の前のマルガはあまりにも歯ごたえが無さすぎる。この程度でリーヴェルの裏をかくなどできるはずがない。


 となれば考えられる可能性はわずかである。ここから逆転できる手が彼にあるか、あるいはもう()()()()()()()()()()()()()()


 戦いながら脳裏に浮かんだ一抹の疑問。それは徐々に彼の中で膨らんでいく。


 現状を確認すべく、レギアスは戦いながら周囲を確認する。一見すると何の変化も変哲もないように見える広間。だが、彼は気づいてしまった。先ほどまでは存在していなかった、特大の違和感に。


 彼の視界の端に飛び込んできたのはマリアの姿。一見すると何もおかしいところはないようだが、これは明らかな異常である。


 彼はマリアをバカだとは思っているが、愚かであるとは思っていない。先ほど隠れたはずの彼女が、戦闘音響く広間に出てくるのはおかしい。加えて彼女は先ほど一度殺されている。そんな中、頭を出すというのは命知らずにも程というものがある。


 となればなぜ彼女が顔を覗かせたのか。それは彼女が何かを感じ取ったからに他ならない。ならばその()()は一体何なのか。レギアスは推測を深め結論を導き出そうとする。


 そんな時であった。魔法を避けたマルガが足を滑らせ大きく隙を見せたのだ。こんな絶好の隙を二人が見逃すはずもない。半ば()()()()身体が動き、全力の攻撃を加えていた。誘い込まれたとしても対処できる。自分の実力を天秤にかけたうえでの攻撃だった。


 マルガを斬るべく踏み込んだレギアス。直感的に動いた身体とは対照的に彼の頭は冷静に考察を深め続けていた。そして踏み切り跳び込んだ彼は直後、一つの仮説を思いついてしまう。最悪にして最凶の仮説を。


 これが真実なら今すぐ攻撃を中断しなければならない。そう考えながらも全力の動きは急には止められない。


「おい、今すぐ攻撃を止めろ!」


 せめて魔王レギアスのほうを止めようと声を上げるが時既に遅し。彼の魔法は既に放たれてしまっている。ゆっくりと進む景色の中、もう止められないことを悟ったレギアス。その胸中は如何ほどだろうか。


 結局止められない二人の攻撃はマルガを仕留めるため、力の限り振るわれてしまったのだった。


























 その戦いの中でマリアが覚えた違和感は始めはほんの些細なことであった。


――あの二人を相手にしてそんなに長く持つものなのだろうか――


 戦いが始まって五分が経過したころ、彼女の胸中に浮かんだ一つの疑問。それは一分刻みで強くなっていき、同時に言いようのない不快感を与えていた。


 彼女はレギアスの強さをそれはもう嫌というほど知っており、魔王レギアスの強さも先日の試合で十分に理解した。二人の強さは一人でも人外じみている。それが二人同時に襲い掛かってくるのだ。それはもう相手からしてみれば絶望しかないはずだ。


 そんな彼らだからこそ、戦闘はすぐに片付くものだと勝手に思っていた。しかし、彼女の頭上で戦闘音がやむ気配はない。時間が経つにつれどんどん激しくなっていく。


「私を殺してきた相手はどれだけ強いのかしら……」


 避難した地中にてポツリとつぶやいたマリアは、どうしようもない違和感を覚えた彼女は上を確認しようかと考える。危険ではないかと彼女の内なる理性が止めようとするが、好奇心は耳を貸さない。


 そもそも戦いが始まった時点で彼女は違和感を覚えていた。敵に攻撃したレギアスはあろうことか剣を()()()()()()()に向かって振るったのだ。今思えば、透明になった伏兵がいたのかとも思えるが、マリアの目にはちゃんと敵の姿が映っていた。レギアスが本命の敵から目を離すとは到底考えにくい。不可解だ。


 それに気になったからだけではない。彼女の本能が警鐘を鳴らしていたのだ。上で何か恐ろしいことが起こっていると。確認しなければまずいことになると。


 上で凄まじい戦闘が行われていることを知りながらも、マリアは覚悟を決め地中の安全地帯から抜け出した。


 そこで彼女が目にしたのは素人の彼女ですらわかるほどの異変であった。今まで彼女はずっと自分を殺した魔族と二人のレギアスが戦っているものだと思っていたし、この状況でこの選択肢以外は事実上あり得ない。


 だが、現実は違った。違っていたのだ。彼女の目の前で戦っていたのはレギアス、そして魔王レギアスだったのだ。二人の標的になるはずの魔族は二人の頭上で戦いを眺めながらニヤニヤと笑みを浮かべている。


 どうして二人が戦っているのか。その現実を受け止めきれずに硬直するマリア。戦場の中、棒立ちになってしまった。


 だが、そんなことをしている場合ではないと理性で身体を納得させると二人の凶行を止めようと試みる。そこで彼女は目の前で行われている光景を目の当たりにさせられた。


 激しくぶつかり合う力、目を見張るほどの技術の応酬。熾烈を極める闘気の奔流。そこで彼女は思う。私がこの間に入っていけるのだろうか。動き出そうとした瞬間、彼女は脳裏に一瞬の迷いを覚えてしまった。


 だが、その一瞬が命取りとなる。彼らの戦いを止めたいならば絶対に迷ってはいけなかった。躊躇ってはいけなかったのだ。


「おい、今すぐ攻撃を止めろ!」


 今更異変に気付いたようなレギアスの声が響き渡ったが、時既に遅し。跳びかかった彼の攻撃は無慈悲にも魔王レギアスに振るわれ、魔王レギアスの魔法もまた、躊躇いなく打ち出されたのだった。



 ここまでお読みいただきありがとうございました!


 この作品が面白いと思った方は


 ☆☆☆☆☆からの評価やブクマへの登録、願うならば感想をよろしくお願いいたします!


 ぜひ次回の更新も見に来てください!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ