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第3-28話 黒幕に襲い掛かる猛獣


 突如として現れたマルガに胸を貫かれたマリア。胸から生える剣が抜けると彼女の身体はぐらりと力なく倒れこんだ。


 この状況で頭が痛いなどとふざけたことを言うほど、レギアスたちの危機管理は薄くない。脳裏に浮かんでいた映像は無理やり消去し、意識を戦闘用のものに切り替えるとマルガに襲い掛かった。


「シィっ!」


 歯の隙間から息の漏れる音を発しながら跳びかかった彼は一刀両断のため剣を一閃させる。が、間一髪飛び退られたことで、服を一枚切り裂くだけに終わる。


「危ない危ない。あと少し遅かったら真っ二つにされてたところだった。素晴らしい剣の冴え。さすがは()()ってところかな」


「……おい、早くそいつを治療しろ」


 マルガの言葉を聞き流しながら、レギアスは睨みを聞かせつつ魔王レギアスに治療の指示を出す。彼女のそばにしゃがみ込み、治療を施そうと魔法の準備をする。


「いや、どうやらその必要は無いみたいだ」


「何?」


 その言葉にレギアスが頭に疑問符を浮かべると、胸を貫かれ死んだと思っていたマリアが突然起き上がった。


「ブハッ!? わ、私どうなったの!?」


「生きてるのか? 心臓をいかれたからてっきり死んだと思ってたが……」


「リーヴェルさんがくれた古魔道具(アーティファクト)で何とかなったわ!」


 起き上がった彼女は胸元からペンダントを引っ張り出す。埋め込まれた水晶は既に砕け散っている。それによって彼女は失われた命を拾うことが出来た。


「だったらとっとと隠れてろ! こっからは激戦になるぞ!」


 レギアスはそんな彼女を見て避難するように告げる。その指示に反発するほどの愚かはここにはいない。昨日の様に二つの魔道具を行使すると地中へ避難する。


「へえ、死ぬほどのダメージを一度肩代わりする古魔道具(アーティファクト)か。随分と珍しいものをあの人は集めてたんだね。けど、効果は一回きり。次は無いよ?」


 彼女の魔道具の効果を推察しながら、再び彼女を殺すため攻撃を仕掛けようとするマルガ。だが、そんな隙を見逃されるはずもなく。


「お前に次の機会が与えられるとでも?」


 レギアスは飛矢のような速度で側面に回り込むと勢いよく剣を振るった。


「おっと危ない」


 その一撃は再び間一髪のところで躱される。が、攻撃は阻止し体勢を崩した。これで次につなげることが出来る。


歪曲する魔軌跡マジック・ディストーション


 体勢を崩した彼に魔王レギアスの魔法が襲い掛かる。魔力で編まれた三発の弾丸。それがマルガめがけて飛翔する。それも空中で身体をよじり回避したマルガだったが、そのうちの一発が彼の身体を掠めた。が、ダメージこそ無い。ピンピンしている。


 二人が完全に戦闘態勢に入った今、黙って防御に徹していては嬲り殺しに会う。反撃のため攻勢に転じるマルガは魔法で炎を生み出すと、まずは牽制と言わんばかりに魔王レギアスとレギアスに撃ち出した。


 特にレギアスは空中に浮いているため、回避できるような状態ではない。が彼の剣は特別製、単純な魔法程度であれば簡単に跳ね返せる。


 しかし、その手間もなくマルガの魔法は二人から逸れあらぬ方向に飛んで行った。予期せぬ事態にマルガが戸惑ったような素振りを見せていると、彼に起こった症状についての解説の声が響く。


「さっきの魔力弾を受けた人間は本人の意思とは関係なく魔法の挙動がおかしくなる。さっきみたいにあらぬ方向に飛んで行ったりまっすぐ飛ばなくなったり。最悪の場合、発動すらしなかったりとランダムにその症状は変化する。とまあ、うまく魔法が発動できなくなる。効果時間は三十分弱でそう長くはないけれど……、それだけあれば俺たちには十分だ。ねえ?」


「当然だ。舐めたことしてくれやがったツケをここでたっぷり払ってもらおうじゃねえか」


 魔王レギアスの解説の最中、地面に降りたったレギアスは構えを取り直し、その切っ先をマルガに向けた。


「舐めたマネなんて……。僕は普通にしてるだけですよ」


「ならその普通を恨むんだな。俺たちの癇に障っちまった普通ってやつをよ」


「それに気になるよねぇ。この俺に歯向かう魔族の化けの皮の下がいったいどうなってるのかとか。どうやってあの女性の目を欺いて手首を持って行ったのかとかさぁ。たっぷり聞かせてもらいたいな。俺たちにひれ伏したあとにさ!」


 こうして世界で最も理不尽な戦闘が始まった。息を合わせたわけでも示し合わせたわけでもない。それでも二人は攻撃のタイミングは不思議と一致した。


 闘志に漲る二人は同時にマルガに攻撃を仕掛けたのだった。


 ここまでお読みいただきありがとうございました!


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