第3-27話 潜入
早くも敵の本拠地である瘴魔の丘という場所を特定したレギアスたちは、即座にそこに向かった。
が、しかし、ここで一つの問題が発生する。
「あれ? ここって丘の麓?」
魔王レギアスの転移で降りたったのが、麓までだったのだ。てっきり丘の頂上、ないし敵の懐に飛び込むものだと思っていたマリアは拍子抜けする。
しかし、これにはちゃんとした理由がある。
「俺の転移ははっきりと目的地を意識できる場所にしか転移できないよ。それにこの丘は魔力の淀みがひどすぎて内側まで転移することが出来ない。だからここからは目的地まで歩きで行くことになる。今晩は休んで明日乗り込もう」
転移で移動に時間を食わないと言っても戦闘や尋問でそれなりに時間を食い、もう日が沈みかけている。このまま乗り込むのは二人が良くてもマリアを守れない可能性が出てくる。そうなる可能性を減らすため、休息を取って明日に備えたほうが百倍良い。
「わ、わかったわ」
「俺は軽く中を偵察してくるかね。どうせ向こうもここまで来たら気づくだろうしな」
「じゃあ、私が何かご飯を……」
「おいおい、明日は山場だぞ? そんな俺たちに毒でも盛る気か?」
「相変わらず失礼な男ね。ちゃんと食べれるもの作るに決まってるでしょ。ホラ、戻ってくるまでに作っておくからとっとと行きなさい」
既にレギアスの軽口に順応しているマリアは彼の言葉をサラリと流す。彼女の対応におや、と思うレギアスだったが、それを口にすると負けたような気がしてならず無視して彼は丘に足を踏み入れた。
そして翌日、彼らは山場を迎える。瘴魔の丘への突入だ。
「昨日偵察した限りだと、当然だが見張りはいなかったし、それに類する魔法もなかった。だが、ほんのり視線は感じたから敵はこっちの存在に気づいたうえで待ち構えてるだろうな」
昨日の偵察の情報を共有するレギアスはやる気満々いつでも突入できる準備が出来ている。魔王レギアスも同様でいつでも行動できるように魔力を漲らせている。心構えが出来ていないのはマリアだけだろう。不安でいっぱいだが、一人で残る決断も出来るわけがない。それにリーヴェルに託された役割もある。彼らから離れるわけにはいかない。
「それじゃ行くか。突入開始だ」
珍しくレギアスが取った音頭とともに三人は丘に足を踏み入れた。その瞬間、三人を包み込む毒と形容してもおかしくないほど禍々しい魔力。
麓にいたときから薄々感じ取ってはいたものの、実際に体感すると別次元であった。心臓に手を掛けられ、胃の中をグルグルと掻き回されるような感覚に加えて、肌をジクジクと爛れさせるような不快感。防衛手段がなければマリアは即座に音を上げていただろう。
凶悪な魔力の渦に身を投じながら歩くこと三十分ほど。魔王レギアスが飛ばしていた短剣が妙なものを発見する。
「これは……」
「どうした?」
「穴……、洞窟かな? 丘の中に続く穴が開いてるみたいだ」
「穴だぁ? 昨日偵察したときにはそんなもの開いてなかったぞ」
「ともかく行ってみよう。議論をするのは実際に見てからだ」
魔王レギアスの案内に従い彼らは丘を駆ける。三分ほど走ったところで隠す気があるのかないのか分からない程度草木で覆われた穴を発見する。
「こいつは……、間違いない。昨日は確実に開いてなかった」
「奥まで続いてるみたいだけど。どう思う?」
「これを見てただの洞窟だと思うやつがいると思うか? こいつは誘いだ。とっとと入って来いってな。上等だろ」
「そりゃそうか」
二人は即座に突入の意思を固める。が、マリアはどうするか一応確認を取っておかなければならない。
「お前はどうする? 外で待ってるか?」
「こ、こんなところで一人で待たせるつもりなの!? 冗談じゃないわ。それなら一緒についていくわよ」
当然、彼女も二人に同行する。外で一人で待つ不安より、中で彼らとともに抱く不安が勝った形である。
「そうか。一応言っておくが何が起こるかわからない。俺たちも対処できない可能性すらあるんだからな。決して油断するなよ」
「一応できる限りのフォローはするけどね」
「わ、分かってるわよ。けど守るのはあんたたちの役目なんだからしっかりしてちょうだいね!」
意見が合致した三人は早速洞窟に足を踏み入れた。視界の通らない薄暗い通路を魔王レギアスの光で明るくしながら進む三人。進みながら彼らはこの洞窟に違和感を覚え始める。
「なんか……、この洞窟人の手が入ってるみたいな形ね」
「ああ、どういう理屈かは知らんが、屋敷が丘の中に埋もれたみたいな感じだな」
洞窟の通路にところどころ煉瓦や燭台、絨毯の残骸が見えている。それはまるでその通路がかつて人が住んでいたことを示しているかのよう。なぜ、こんなところにそんなものがという疑問が浮かぶところではあるが、今はその追及をしている場合ではない。三人は足を進める。
しばらく歩いているうちに彼らはこじんまりとした広間のような場所に到着する。
何もない殺風景な景色が広がる広間だったが、一つだけ異質な点があった。それは天井。そこには赤黒い爛れた皮膚のような何かが張り付いていた。その上、微かにではあるがドクンドクンと鼓動するような音もしている。
それはまるで何かの心臓のような――。
「何あれ、気持ち悪い……。ってどうしたの?」
天井のそれを見てマリアが顔を顰めた。その時、レギアス二人が同時に、頭痛を訴えるように頭を押さえた。
「うっ……」
「何だ、頭が……」
同時に二人を苛み始めた頭痛。目の奥を突くような痛みに声を漏らすと同時に、二人の脳裏に映像が流れ始めた。恐らく過去に見た記憶の一部。それがなぜか今甦り始めていた。
突然苦しみ始めた二人を見て慌てるマリア。オロオロしながら二人を心配する。
「ちょっとあんたたち大丈夫!? 苦しいなら一旦外に出て痛みが治まってからもう一回ここにくれ、ばアッ!?!?!?!?」
心配する素振りを見せたその直後、彼女の胸から銀色に光る刃が生えた。胸から生える刃のその根元、柄を握っているのは先日リーヴェルの手首を飛ばしたマルガであった。
「――ハロォ、皆さん。ようこそこの最後の決戦の地へ」
胸を貫いた彼はニヤリと獰猛に笑いながら二人の到着を歓迎するのだった。
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