第3-25話 カチコミ
ジコルの町を離れ、長距離転移でエイスの町近くまでやってきたレギアス達三人。早速交渉に応じたい彼らであったが、その前に詰めておかなければならないことがある。
「で、この後町に入っていくわけなんだが……。どうやって連中を一網打尽にする?」
今回彼らは腕輪をこの町に持っていくよう指示を受け来ているわけだが、何も考えずに渡すのではただ相手に餌をやるだけになってしまう。そんなことが出来るのは脳みそが元から入っていないか、カスタードにすり変わっているかだろう。
だから交渉人を、町に潜んでいる味方諸共一網打尽にし、今回の主犯格に近づける情報を得なければならない。
「うーん、一番手っ取り早いのは町ごと囲って町にいる魔族全員叩いちゃうことかな。それなら取りこぼしもなく交渉人を捕まえて情報を引き出せる、んだけど……」
「何か問題でもあるのか?」
「うん、転移から何からすべてを妨げるような結界を張るとなると俺の出来ることは相当限られる。妨害を防ぐために結界の外に出るとなると、中に入っていくマリアを守れる人間が誰もいなくなっちゃうんだよね」
首を傾げチラリとマリアに視線を送りながら答える。確かにレギアスが派手に暴れ、魔王レギアスが結界の外でそれを維持するとなると彼女を守れる人間がいなくなる。
確かにそれは面倒だ。彼女を連れてきた以上責任がある。巻き込むのは本意ではない。戦闘の激しさを落とさないといけないだろうか? そんなことをレギアスが考えると当の本人であるマリアが異を唱えた。
「それなら任せて! 身を守るだけだったら私にもできるわ!」
そういうと彼女は誇らしげに二つの魔道具を取り出し二人に見せつけた。
「こっちが地面に空間を作り出してそこに入り込むための魔道具、こっちが外からの魔力を防げるようになる魔道具よ!」
高らかに魔道具の効果を説明し終えたマリア。その二つで彼女が何をしたいのかを把握した魔王レギアスが補足の説明を行う。
「なるほど、外からの魔力を遮断した状態で地面に潜ることで見つからないようにするってことかな?」
「そう! その通りよ!」
「それでもいまいち不安は残る気がするけど……。まあないよりはましかな」
「こっちが思う存分やれるなら何でも構いやしねえよ。いいか、下手売って見つかる様な事だけはするんじゃねえぞ? こっちは真面目にやるんだからな」
「私だって命がけの大真面目よ! まったく、いっつも素直じゃないんだから!」
いつもの軽口に声を荒げるマリア。もう突っ込むにも飽きたやり取りに、魔王レギアスは反応すら見せない。
「それじゃあやるか。せいぜい頼むぞ」
「そこは頼むぞだけでいいのよ。素直に言ってくれれば普通にするのに……」
マリアはぶつくさ言いながらも立ち上がるとエイスの町に向かって進み始めた。同時に二人のレギアスも動き出し、影から彼女を見守るため木の上に移動し、町を孤立させるため魔王レギアスも町のそばに移動を始めた。
作戦のためとはいえ一人きりで町に向かうマリア。不安がないと言えば嘘になる。自分で言うのもなんだが、戦闘力は魔道具を使っても大の男より少し上程度。一人でここを歩き回るには心もとないにも程がある。
だが、彼女に怯えは一切ない。胸を張り堂々と歩みを進めていた。何せ彼女には二人の最強格の男がついており、もし何かあれば二人が即座に助けに来ることを確信している。だからこそ、胸を張れる。虚勢を張れるのだ。
門をくぐり、町に入ったマリアがまず最初に感じたのは自分を射殺すような魔族の視線であった。必然ではあるが、実際に受けてみればその威圧感は相当なもの。恐怖で呼吸が浅くなり、足が震え竦む。漲っていた自信が崩れ落ちていくようだった。
それでも彼女は歩き続ける。前に進まなければ話も進まないのだから。
静かに町の大通りを歩き続け、中心部に向かって行くと、その途中目の合った魔族が進行方向を示すように顎をしゃくった。その指示に従い、進行方向を定め足を踏み出す。
その姿を見送った魔族の男はニヤリと笑みを浮かべた。もちろん彼女が何が目的でここを訪れたかは聞かされている。そんな彼女の案内役として彼はここにいる。無傷のまま、目的地に辿り着かせることが最優先事項であり、ここで手を出すことは無い。
だが、帰りは別である。目的さえ果たされればその後は何をしてもいいと構わないのだ。目的が果たされた後、あの女をどうしてやろうか。皮算用をし舌なめずりをする。下卑た雰囲気を漏らしながら、マリアの行った道を進んでいった見つめ続ける魔族。
瞬間、取らぬ狸を見つめていた彼の視界が一回転した。それとほぼ同時に背中から胸まで貫くような衝撃が奔る。何が起こったのか分からないまま、せめて悲鳴を上げようと喉を振るわせようとするが、先ほどの衝撃で肺が潰れてしまったのか息を吐くことが出来ない。
結局、視界がひっくり返った後何もできないまま魔族の男は事切れてしまったのだった。
そんなことを露知らず、マリアは案内に従い目的地に到着する。中心部近くの小ぢんまりとした広場の中心に一人の魔族が腕を組みながら立っており、マリアが到着するなり鋭い視線を煌めかせた。
「お前がジコルからの使者か?」
「そ、そうよ」
男の問いかけにマリアが答えると彼は小さく口角を上げた。
「そうか、約束のものは持ってきてるんだろうな?」
「もちろんよ。これがその約束のものよ!」
マリアは懐から預かっている腕輪を取り出すと持ち上げ男に見せつける。それを受け、広場の緊張感がわずかに高まった。
「ふん、やはり命は惜しかったみたいだな。賢い人間は長生きできるぞ」
その言葉を紡いだ男は風を切る速度で移動するとマリアの懐に飛び込む。彼女が下がる暇もなく跳び込んだ彼は彼女から腕輪を取り上げる。
「これさえ手に入ればもうお前なんかに用はない。とっとと消えろ」
「ちょっと、リーヴェルさんの呪いを解きなさいよ」
「ふん、下等生物である人間との約束なんぞなぜ守らなければならないのだ。とっとと帰って苦しみながら死ぬ様でも眺めているんだな!」
腕輪を眺めながら男はマリアを突き飛ばす。小さく悲鳴を上げながら彼女は突き飛ばされた。
直後、彼女を襲おうとそばから魔族が品の無い笑みを浮かべながらわらわらと湧いてくる。彼らに襲われればまずただでは済まない。というかとんでもないことになる。
だが、マリアは動じないどころか周りを気にすることなく自分の行動に移った。彼女は確信している。この様子をレギアスが見ていることを。だったら今自分がすることは目の前の魔族から逃げることではない。その後のための行動である。
「ったくみみっちいやつだな。約束くらい守れよ」
声が響いた直後、マリアに迫る魔族の首が同時に全員分斬り飛ばされた。どさりと魔族の身体が地面に落ち、その後ろに血を振り落とすレギアスの姿があった。
「て、テメエ! どこから沸いてきやがった!」
「別にどこからだっていいだろ。それにテメエらが知ったところで意味がねえ」
テンプレじみた男の問いかけにいつも通りの応答をするレギアス。一周回って呑気というか。
突然の闖入者に彼の予想外の事態が起こっていることを確信した男は、即座にこの場からの撤退を決断する。町中に散らばっている部下たちに足止めを指示し、本人は転移で逃げ出そうとする。
「なッ!? 転移が発動しない!?」
が、転移の魔法は作動せず、使おうとした魔力は霧散した。異変に気付き周囲を見回すと町は既に何者かによって展開された結界によって覆われていた。
「どこに行こうって言うんだよ。約束を先に破ったのはそっちだ。だったらこっちも好き勝手やらせてもらうぜ」
「アアッ!? たった一人で何抜かしてくれてんだ! こっちは三百人以上いるんだ! テメエ一人くらいどうとでもできんだよ! お前らやっちまえ!」
続々と広場に集まる仲間たち。男の号令とともに彼らは一斉にレギアスに襲い掛かっていくのだった。
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