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第3-24話 死地へ出立


 手紙が届いた翌日、二人のレギアスはジコルを離れ、約束の場所である魔族領の町・エイスに向かおうとしていた。


「それじゃあ、俺らは行く。お前らはいつも通りにしてろ」


「サーニャ、君はこの町で待機だ。何かあったら連絡をよこしてくれ」


「はっ、はい!」


 出発の準備を終え、レギアスたちは闘技場そばで見送られようとしていた。やるべきことを終え、今すぐにでも出発しようとしていた彼らであったが、そんな彼らの足を止まる。


「ちょっと待ってもらってもいいかしら?」


「あ? なんだババア。あまり悠長におしゃべりしてる時間はねえぞ」


 不満げな素振りを見せながらも彼女が用事を済ませるのを待つレギアスたち。そんな彼らのもとに旅支度を整えた様子のマリアがやってくる。


「すいません、お待たせしました!」


 彼女の肩に手を回したリーヴェルは微笑みながら声を上げようとする。彼女の不穏な様子に即座に拒否の構えを見せようとしたレギアスだったが、それより先に彼女の声が上がる。


「この子も一緒に連れてってほしいのよ」


「テメエ、何ふざけたことぬかしてくれてんだ!」


 彼女の提案にレギアスは思わず声を荒げる。彼らがこれから向かう場所は魔族領という敵地のど真ん中である。そこに非戦闘員かつ素人同然の彼女を連れていくのは、モンスターの群れに放り込むようなものである。彼女の身を心配するにしろしないにしろ、正気であるなら出来るはずがない。


 だが、そう言われるのはリーヴェルからして想定済みである。彼を口説き落とす策はちゃんと練ってある。


「まあまあ、でもこの子はそれなりにあなたたちの役に立つ子よ? 聞くところによるとたくさんの魔道具を持ってるとか。貴方たちが足元を掬われるとはあんまり思えないけど、もし万が一にでも起こった時持ってる魔道具でどうにかできるかもしれないじゃない?」


 彼女の言葉を聞き終えたレギアスであったが、彼の顔はひたすら渋いまま。それも当然といえば当然。彼が一人でいたときなら納得も止むを得ないかもしれないが、今回は同行者に魔王レギアスがいる。魔道具で対応できることは彼にも大体対応できる。なら連れていく理由は無い。


 だが、そんな彼の言葉すらリーヴェルには想定内。これだけでは断られることは目に見えていた。殺気の説得はいわば前座。本命は次にある。


「それに取引にあなたたちだけが行ったら、敵に警戒されるわよ。取引人が凄まじい実力を持つ二人。取引で向こうがかかったと思っている呪いを解いた瞬間、ちゃぶ台返しで状況をひっくり返されるかもと思ったら向こうは簡単には動かなくなる。それよりかは戦闘能力のなさそうなこの子を連れて行って、囮として使った方がいいんじゃない? ちょっとアレかもしれないけど」


「そ、その程度の事ならやってやるわよ! 足手纏いになんかならないんだから」


 彼女の言葉に不思議な説得力を覚えるレギアス。確かに彼女の言葉は考慮に値する。もし尻尾を引っ込められれば今度出すのは何時になるか。それを考えれば確実に尻尾を出すと分かっている今回で確実に決めたほうがいい。


「うん、確かにそれは考慮すべきだね。となれば俺は連れていくのに賛成かな。()()たった一人連れて行って足元掬われるほど弱くもないし」


 いつもの煽るような言動にレギアスは、むらむらと反骨心が湧く。こいつに言われるとどうにも神経を逆撫でされるレギアスは思わず彼女の同行を許可してしまう。


「いいだろう。ただし、もし万が一にも邪魔するようなことが起こったら即ここに強制帰還だからな!」


 了承の判断を下したレギアスは即座に背中を向けると町の外に向かって歩き始める。そんな彼のツンデレ気質にもとれる行動に呆れた素振りを見せながら魔王レギアスもついて動き始めた。


 一人取り残されたマリアもその後を追って歩き出そうとする。しかし、そんな彼女をリーヴェルが引き留めると彼女の耳元でそっと呟く。


「お願いねマリアちゃん。昨日あなたに()()()古魔道具(アーティファクト)。使わないのが一番都合がいいけど、もし万が一にも二人が危なくなったら即使いなさい。その後のことは貴方は気にしなくていいわ、私が始末をつけるから。いい? 絶対に躊躇わずに使いなさい」


「わ、分かってるわよ。()()()()()()()()()()()()()なんてすごいものもらったんだもの。躊躇するつもり何てこれっぽっちもないわ」


 マリアの言葉を聞いたリーヴェルはにこりと笑みを浮かべるを彼女の肩をそっと押し送り出す。


「そう、なら安心だわ。あの二人をよろしくね」


「ええ、任せてちょうだい!」


 彼女の笑みにマリアも笑みで応えると、快活に声を上げ手を振りながら駆け出すと二人の背中を追うのだった。


 三人の背中を見送ったリーヴェルは、その背中が見えなくなるとともに大きく深いため息をついた。彼らが心配なのではない。彼らの身にこれから降りかかるであろう現実に深く辟易していた。自分たちが解決できなかった事象を押し付けることになってしまった自分たちの不甲斐なさに呆れていた。


 だが、彼女にはもう祈ることしか出来ない。彼女たちが足掻く時期はもう終わったのだ。次の時代、レギアスたちが中心となって動く時代が来てしまった。後は彼らにすべてを任せるのが、彼女の役目である。


「ああ、彼らに祝福有らんことを――」


 ポツリと呟いたリーヴェルは自分の屋敷に戻った。そして残ったのはいつも通りの賑わいを見せるジコルの町。彼女らのことなど知らず、世界は日常を謳歌するのだった。


 ここまでお読みいただきありがとうございました!


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