第三十二話 Meteor ~メテオラ~
信晴の語る父への想いを聞いて反抗してるだけかもしれないが。
いままで基晴を微塵も気遣ってなかったのに、いきなり学校まで乗り込んでくるなんて。
それに、基晴まで信晴と同じ場所に行くかもしれない、なんて心配されても。
「まず、俺は兄さんの居る場所が分からないし」
「分かったのか? 稲地さんの居る所」
基晴の呟きに、美濃島が驚いて問い掛けた。
「俺は知らないけど、有名なのかな。母さんもそこに居るみたいだし……メテオラ、って」
基晴の口から出た単語に反応したのは、美濃島と高浦だった。
「……なにか、知ってるのか?」
軽く教えることの出来ない、なにか深い事情のある場所なのだろう。言葉には出さずとも、緊張感や恐怖心の籠った表情で分かった。
だからこそ、余計に不安感が湧き上がって。
「知ってるなら教えてくれよ! 俺も心配なんだよ!!」
基晴が叫ぶと、地下倉庫がふっと明るくなった。そして、壁にあるモニターに映像が映し出された。
「おいっ……東宮、俺たちだけで説明できる場所じゃないだろう」
モニターのリモコンであるタブレットを手にした東宮に、美濃島が詰め寄るが。
「きっと大人達も口を濁す。そしたらひとりで調べるだろ」
東宮は基晴に視線を投げると、タブレットの操作を進める。
「ひとりで心配するなら、皆と一緒に心配するほうが良い」
東宮の発言が終わると、モニターに流れてきたのはニュース画像だった。
「それでは、現在宇宙開発の大きな問題となっている団体、Meteorについて、お願いします」
早速出てきた単語にドキリとしたが。女性アナウンサーに話題を振られた評論家は、姿勢を正して語り始める。
「まだ若き宇宙船操縦士が、同じく操縦士だった亡き父親の遺産を資本金として、『国立の名門校で宇宙を学んでも、日本の宇宙開発は変えられない。世界に染まることもせず、地球から離れて新しい宇宙開発を考える』そう立ち上げた活動家団体です」
そしてモニターは、評論家の顔から広い宇宙に変わった。その中心にあるのは、ひとつのスペースコロニーだ。
「こちらが拠点となっているスペースコロニーです。徐々に人数は増え、現在は三百名程が参加しています」
「つまり、日本の宇宙開発に対しての学生運動、といった団体でしょうか?」
「そうですね……やや過激ですが。宇宙船操縦士をリーダーとして、管理委員メンバーが数人おり。『どの世界の法律も関係ない、ここには独自のやり方がある』といった発言もありますし、独立国にする考えなのかもしれません」
評論家とアナウンサーのやり取りに、基晴の理解力はやっと追いつくくらいだが。
つまりメテオラとは過激な学生運動団体で、現在の信晴は、そこに参加しているのか? 日本の宇宙開発に反発して、独立国を目指すような団体に。
* * * * *
天城基晴が、地球上の学校で兄の現在に思いを巡らせているとき。
稲地信晴はひとり、大きなガラス窓に寄りかかっていた。外には星空が広がっていた。地球から見るのとは違う角度からの宇宙が。
自分がこんな所に居ると知ったら、父はどう思うだろう?
そして基晴はどう思うだろう? でもまず弟は、ここの存在を知らないか。
そんな事をぼうっと考えている信晴の眼に、ひとりの男の姿が映り。反射的に姿勢を正すと。
「そんな礼儀正しくしないでさ、疲れてるんだろ。そろそろ休めばいいじゃん」
「いいえ、自分はここに来てから何にもしてませんし」
のんびりしたアドバイスから逆に申し訳なく思い、弱気な口調で応えると。
「ここに来るまでが疲れただろうに」
親し気な男性の笑顔に、信晴も笑うことが出来た。
「でも、いいんですか? 櫻川さん。自分がここに居ても」
「駄目なら最初から連れて来ないよ」
櫻川はあっさりと応えたが、信晴の不安は拭えない。
「でも、他のひと達は奇妙に思ってるんじゃ……」
「ここには奇妙な奴等はいっぱい居るし。きみがどういう人間だろうと、誰も気にしないよ」
戸惑う信晴の肩を軽く叩いて。
「なによりまず、いちばん奇妙なのが俺だろうしな」
独り言のように付け足すと、櫻川は去って行った。
確かに櫻川亜希は変わった人物だ。こうして信晴がひとりでぼんやり宇宙を眺めているのも、ただ逃げたかっただけだ。父や創成学園から。それなのに創成学園では有名人の櫻川の元に居るのが、まずおかしな流れだが。
「俺も逃げてきたひとりだし。きみの逃げ場になるならおいでよ」
こんな櫻川からの言葉に甘えて、信晴はこのスペースコロニーへとやって来た。
信晴はメテオラに入りたかった訳では無い。ただ、何を学んだら良いのか、何を学びたいのか、何が学びやすいのか、全てがまだ分からないんだよな。そんな状態で家出してきたガキを、よく櫻川さんも招き入れてくれたもんだ。




