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僕等の有人宇宙機  作者: 高柳 祥
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第二十一話 人工知能からの怒り


 突然の発言に父も母も言葉を失ったのか、緊張した空気が部屋中を包み。そして周囲の空間だけでなく、基晴の頭の中も静かになったが。


「自分が、稲地信晴が本当に進みたい道は宇宙船操縦士では無い、改めてそれに気が付いたんです」


 落ち着いた信晴の声が静寂を切り裂いた。


「本当に進みたい道? ここまで来て進路を変えるのか? いままで創成学園で学んだ時間を無駄にする気か? これからどうするつもりだ?」


 父は怒りよりも戸惑いを見せながら問いを繰り返すが。


「無駄ではなく沢山の貴重な知識を得ることが出来ました。でも学校生活や人間関係の中で、自分は宇宙船操縦士では無い、それも分かったんです。自分はあの場所で学ぶことももう無い、だから創成宇宙技術開発学園も辞める、それも決めました」


 背すじを伸ばして宣言を続ける信晴に、ソファに寄りかかっていた父もぎくしゃくと姿勢を正す。そして、しばらく無言のまま信晴とじっくり向き合うと。


「おまえも様々な気苦労(きぐろう)があるのだろう……休みたければ休め」


 怒りを抑えている様子で、目を(つむ)って溜息を吐いた。


「休むのではない、辞めるんです。自分はもう将来を決めた。だから創成学園も辞めて、この家からも出ます」


 淡々と将来を語る信晴を、父は見下すように睨み付ける。


「そのために瑠璃子を呼んだのか? 信晴もこれから母親の家で暮らすつもりか」

「えっ!? それは……」

 呆然としていた母も、その言葉には驚きの声を上げたが、なにも言えずに口元に手を当てて、信晴と父の両者の顔を交互に見つめる。


「いいえ。今日この場に母さんも呼んだのは、自分の願望を聞いて欲しかったからです」

「それならば、創成学園も本気で退学して違う学校に移るのか? それとも自立して働く気か? おまえはボランティア活動なら幾つか行っていたが、学費や生活費を稼ぐことは出来るのか?」


 父の口ぶりは質問というより試験のようで。信晴は回答の言葉をを飲み込むようにきつく唇を噛み締める。


「そうしたいならそうしろ。いつか甘ったれた自分の姿をみっともなく思うだろうからな」


 信晴の反応を見ないように、父は目を逸らして言い放つ。そしてまたしばらく黙ると。


「父親として情けない……目標に向かい努力しているのかと思いきや、ここまで来て逃げるなんてな……自分の息子が、稲地信晴が、そんな未熟な人間だったとは知らなかったぞ」


 顔を背けたまま呟くと、基晴の周囲の空間が激しく揺れた。


「俺がどんな人間かなんて、あんたが知らないのは当たり前だろう!!」


 勢い良く立ち上がった信晴が、父を怒鳴り付けた衝撃のせいだ。


「いつもいつも、俺の行動を決め付けて、俺の言葉もろくに聞かず、自分勝手な願望を通してしか、俺の姿を見ないんだからな!」


 別人のような激しい口調で信晴は続ける。父の瞳を睨み付けながら、悔しそうに、苦しそうに、表情を歪めて。


「父である自分? 俺には父親なんて居ないんだよ! だって、あんたにとって俺は……宇宙船操縦士となる息子から父親の誇りを得る……そのために金を懸けて知識を仕込まれている、AI(エーアイ)みたいな人間なんだからな!」


 信晴が父親に逆らい暴言を浴びせているなんて、基晴には初めて見る光景だった。

 溜め込んだ想いをめちゃくちゃに吐き出している信晴は、いつも基晴に向ける穏やかな兄の顔とは、まるで別人の様に見えた。

 想いを全て吐き出したのか、心身共に疲れ果てた様子の信晴が息を切らすと。


「本当に家を出るならば、少しの援助はする。どう思われていようが、自分はおまえの父親だからな」

 苦々し気に父は語る。

「そしてまたおまえが、宇宙船操縦士を目指す、そう心を正したのなら、どうにか創成学園にも戻すが。おまえが他の下らん目的で父親を頼ってきたら、そのときは家にも戻さない。もう自分の息子とは認めん、そういうことだ」


 信晴を諭す父の言葉に、基晴は衝撃を受けた。それは要するに、親子の縁を切る、勘当する、って意味か? 

「……分かりました。それで結構です」

 じっと話を聞いていた信晴だが、さっきまでの激昂(げっこう)は抜けた様子で応えると、魂まで抜けたようにふらふらと客間から出て行った。

 この先はどこへ行くんだ? 本当に父の家から出て行ってしまうのか?


「放っておけ」

 追いかけようと身を乗り出したした基晴に、父からの冷たい声が刺さる。

「信晴も失敗続きで疲れているのだろう。基晴、しばらくあいつには関わるな」

「でも、家を出る、なんて……」

 あたふたと信晴が閉ざした扉を指差すが、父から睨まれ口を閉ざす。


「おまえは専門学校で宇宙の勉強に励んでいる。学校を辞める、等と学問の道を諦めようとしている兄には、慰めも応援も逆効果になるぞ。努力出来ている弟が羨ましく思うだろうからな」


 兄が弟を羨む? 父の語る自分達のそんな心理は全く想像ができず、やはり基晴は信晴と直に話したかった。そして迷いながらも立ち上がると。


「基晴。信晴のことは、しばらくひとりにしてあげなさい」

 今度は母が基晴の手を握った。

「あの子の気持ちも分かる。諦めたくなるほどストレスが溜まっているのよ。だけど信晴だったら、しばらく休めば大丈夫よ。また夢に向かって進む力も湧くでしょう」

 しみじみと諭す母は、基晴への視線を父に向けると。

「すみませんが、信晴だって頑張っているんですよ? それなのに、情けない、息子として認めない、だなんて……」

 基晴の手をぎゅっと握ったまま、丁寧だが険しい口調で母は父を責め立てる。

「厳しく言わないと分からない。瑠実子まで呼んで何事かと思ったら、夢を諦めるだなんて、情けないにも程がある」

「でも本当に家を出たら、あの子がどうなってもいいの?」

「あいつももう十九歳だ。幾人かの知人の家にでも泊まり、しばらくしたら戻ってくるだろう。現在(いま)がおかしな状態なだけだ」


 懸命に訴えても落ち着いて答える父に、母は頭を抱えて。


「父親がずっとそんな態度で接してきたなら、あの子も疲れるのは無理がないです」

「自分はかなりあいつに合った環境を与えていたぞ! 試験の失敗を重ねても、またあいつに合った教育を考えたりな!」

「だけど、勉強ばかりの環境でも仕方ないでしょう! あの子の言う通り、AIではないんだから、休みたいときはしっかり休ませてあげないと!」


 キィ、と扉を開ける音に、激しくなっていた父と母の口論が止まった。

 

「基晴、放っておけ、と言ったろう。弟とは話したくないんだ」

「そうよ、あなたも八つ当たりされるわよ」


 両親からは制止の言葉を向けられたが。


「話したくない、って言ったら話さない。怒られたら怒られる。父さんと母さんは、ふたりだけで話し合ってて」


 信晴のことを全く分かっていない両親は放っておこうと、客間を出た基晴は振り向かずに扉を閉めた。



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