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僕等の有人宇宙機  作者: 高柳 祥
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第十九話 終了後に語る兄弟


 皆が去ると、さっきの基晴と高浦との会話には何も言わずに信晴は玄関の鍵を閉めた。そして一緒に客間に戻ると、ソファに座っていた松澤がすっくと立ち上がった。市村は腰掛けたまま気まずそうに見上げるが。


「あいつと会えたのか?」


 前置きも無しにきっぱりと訊かれた。基晴を睨み付ける松澤の言動を誰も止めない。


「あいつ、って誰のことですか?」


 基晴はもちろん分かっていたが、強気な口調で問いを返す。

 このひとも本当に美濃島の過去を知りたく、今日の勉強会に来たのだろう。しかし、苛立ちや怒りで問い詰めずに、落ち着いて尋ねていれば、美濃島もいきなり帰ったりはせず、「過去を話したくない理由」位は話してくれたかもしれない。

 友人が語らない過去を探り、心に鍵を掛けさせた相手、それに基晴は怯えたくはなかった。


「先に帰った奴だよ、美濃島克洋」

 想像通りの返答を投げられて。

「追いかけたら会えました。そして、少しだけ話しました」

 言葉をつかえずにはっきりと応える。


「なに話してたんだ、宇宙船操縦士資格の話か? さっきまで居た女子に聞いたけど、わしづかでのサークル仲間連中も知らなかったんだってな、あいつが(すで)に合格してるって」

 女子、とは高浦の事かな。松澤の問いへの答えから、基晴にも美濃島への想いを語ったのだろうか。

「操縦士を目標として勉強してるのは知っていた、って言ってたが、もう目標なんかじゃなく合格してたの隠してたんだろ。おまえも尋ねたのか? あいつに隠されてた操縦士試験について」

   

「言いたくない」


 基晴がきっぱり言い放つと、松澤は口を閉ざしたが、表情は怒りに変わる。ふたりの争いを止めようと信晴が動くと。


「……というか、俺もなにも知りません。なにも尋ねなかったし。美濃島からも聞きましたよね? 上手くは言えない、って。それにもし、俺には教えてくれても、あなたには言えません……友達の過去とか行動の動機なんて」


 松澤は悔しそうに基晴を睨み付け。


「友達というか、美濃島克洋はサークルのリーダーだっていうし、おまえ()の上に立ってるんだろ」

「そんなっ……勝手に言わないで下さい!!」


 苛立ちを押さえていた基晴も、思わず松澤を怒鳴り付けた。その後ゆっくり息を吸い込むと。


「美濃島とは上下関係なんかじゃなく、俺たちをまとめてくれてるんです。下らない事で喧嘩して、他の皆が困ったり、距離を置いたりするのが嫌だから……それなのに、勝手に決めつけないで下さい」


 息を切らした基晴に、松澤もまた何か言い返そうとしたが。


「宏太、もう止めろよ。俺も美濃島くんの事は気になるけど……もういいよ。ありがとう」

 信晴が制止して礼を言うと。

「……分かったよ」

 それだけ返すと荷物を持って立ち上がり、挨拶もせず基晴の横を通り抜け。玄関の扉が閉まる音から、松澤が帰って行ったのが分かった。


 しばらくの沈黙の後、市村がソファ立ち上がった。

「それじゃあ、私も失礼するね」

「うん、今日はありがとう。あと……悪かったね、宏太が色々と騒いで」

 信晴がはっと彼女の方を向いて謝ると。

「ううん、私こそ、上手くフォロー出来れば良かったんだけど。また今日みたいになったら、ちゃんと落ち着かせるよ」

 明るい笑顔で返してきた。


「市村さん、今日はありがとうごさいました」

 基晴もぎこちなく礼を言うと。

「こちらこそ。さっきは東宮くんから『宇宙医学について勉強になりました』ってお礼を貰ったし。私も今日は楽しかった」

 宇宙医師を目指す者同士、彼女は東宮と親しくなったのか。基晴には未知の医学用語を使って真面目に語り合っていたしな。

 

 そして帰宅する市村を玄関まで見送ると。


「ごめんな、モト」


 兄弟だけになった玄関先で、信晴が呟いた。


「……アニキが謝る必要は無いだろ」


 基晴が怒ったのは松澤ひとりに対してだ。


「でも宏太は、中等部からの俺の親友でさ。なかなか操縦士試験に合格出来ない俺を気遣ってくれてるんだよ」

「それなら逆に、操縦士試験の話題を出す必要は無かっただろ? 今日は勉強会かサークルなんだし」


 美濃島にも沢山の厳しい質問をしたが、信晴が操縦士の能力を比べられてる、なんて言いやがって。それも思い出すと基晴は苛々する。


「確かめるチャンスだったんだよ。美濃島克洋、って名前を俺が気にしていたのも本当だし」

「なっ……じゃあアニキも、美濃島が俺たちの上に立ってる、なんて思ってるのか!?」

「それは宏太の思い込みだよ。創成学園での美濃島くんについては、色々な噂が立っていたし……」

 駄々をこねる様に尋ねる基晴の表情を見て、信晴は続ける。

「俺はモトの言葉を信じるよ。美濃島くんは、モトと一緒に、宇宙船操縦士を目指す仲間だ」

「うん! 美濃島が同じ学校に居たから、俺もまた操縦士を目標に出来たんだ」

 これは事実だった。あいつからの言葉が無ければ、一度諦めた夢をずっと捨てたままだったから。


「本当にモトは、本気で宇宙船操縦士を目指しているんだな。将来の夢に向かって、わしづか専門学校の仲間と一緒に頑張ってるんだな」


 独り言のような信晴の問いに、基晴は力強く頷いた。


「宇宙船操縦士なんて、俺なんか絶対無理だと思ってたけど。仲間たちと一緒にいて、皆で努力していくうちに、本気でやりたくなってきたんだ」


 一生懸命に語る基晴を黙って見ている信晴の感情は読めない。


「それに、もちろんアニキの存在も大きい! 俺も、伊庭や、松澤ってひとと同じ位……いいや、他の誰よりもでっかく、創成学園で頑張るアニキを尊敬してるから!!」


 お世辞なんかではなく真剣な口調で告げたが。信晴は不思議そうな表情を見せた。


「モトは俺を、操縦士として尊敬してくれているのか?」

「当たり前だろ!」


 まだ宇宙船操縦士の資格取得は叶わずとも。

 そして、本当に美濃島克洋という名前と比べられていても。

 これから信晴は本当に立派な宇宙船操縦士になる。

 それは基晴の幼い頃からの真実だ。


「……ありがとう」


 基晴の頭に、ぽん、と手の平を置いた信晴は、どこか気が抜けた様子だった。


 その後も基晴は、変わらずにはやぶさ専門学校での生活を過ごした。

 教室での授業も、地下倉庫や喫茶店での新型有人宇宙機研究会も、皆と一緒に学んで遊んでいた。

 美濃島に対しては勉強会での出来事を誰も話さず。操縦士試験の話題が出ても、松澤からの質問を蒸し返したりもしなかった。

 相変わらず美濃島は授業をよくさぼっていたが、叱り付けようとする基晴に向かって、

「基晴におみやげ」

 と菓子パンをひとつ投げてよこしたりした。





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