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僕等の有人宇宙機  作者: 高柳 祥
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第十八話 勉強会の終わりの挨拶


「それだけですか?」


 相変わらず穏やかな美濃島の問い掛けに、止まっていた時間がまた動き始めた。


「創成学園では色々な噂が立ってたんだよ……特に、二年前は」


 戸惑いながらも信晴が答えると。松澤は拳を握り締め、美濃島に向かって身を乗り出す。


「俺はその為に来たんだ! それが確かめたかったんだ! おまえ、本当に操縦士試験に合格したのか!?」

 怒鳴り付けられた美濃島が一瞬眼を逸らすと。

「それとも、合格はただのデマなのか!?」

 松澤は大声でさらに問い詰める。

「はっきり答えろ! 信晴には訊けないから俺が来たんだぞ!!」

 すると美濃島は逸らした視線を信晴に向けて、

「俺は、宇宙船操縦士資格を持ってます。まだ実習生ですが」

 はっきりと答えた。だが、信晴はなにも応えずに。


「……それじゃあ、創成学園を病気で辞めた、っていうのも本当なのか?」

 気の抜けた様に松澤が尋ねると。

「はい。それも事実です」

「でも、もう治ったんだろ? それじゃあ、創成学園に戻って来なかったのはなんでだよ」

 その問いに美濃島は、ふぅ、とひとつ溜息を吐いて。

「もっと楽にやりたくなったんです」

「なっ……お前っ、馬鹿にしてんのか!?」

「違います……でも、すいません。上手くは言えないんです」

 再び松澤が怒りを見せると、初めて美濃島も戸惑った。


「ふざけんなよ! 信晴はいつも操縦士の能力を、美濃島克洋って人間と比べられてるんだぞ!? その人間が本当に、創成学園で操縦士を学んで合格したなら、また戻ってきて信晴と一緒に、操縦士の実習を続けろよ!!」


 息を切らし、顔を真っ赤にした松澤の厳しい言葉に、美濃島の表情がどんどん曇っていくと。


「おい、宏太。もう止めろ」

 今度はっきりと告げたのは、信晴だった。

「美濃島くんはさっき教えてくれたろ、上手くは言えないんだよ。おまえは創成学園で、俺に操縦士試験の合否についてずけずけ訊いてくるひと達を嫌ってたじゃないか。現在(いま)のおまえは、それと同じ人間になってる」

 信晴から厳しい視線で見つめられた松澤が黙ると。

 

「ありがとうございます、稲地さん」


 落ち着きを取り戻した美濃島は礼を言い。

「創成学園に居る三人には、ひとつだけ要望があります」

 真面目な口調で話を切り出した。


「あなた達がいままで創成宇宙開発技術学園で聞いた、俺の名前とその情報……若くして操縦士試験に受かった美濃島克洋、って人間については、きれいさっぱり忘れて下さい」


 穏やかな、でもどこか寂しそうな口調で美濃島は話し続ける。


「これから覚えて欲しいのは、わしづか宇宙開発専門学校で、基晴くんやここに居る大勢の奴等(やつら)と一緒に楽しく学ぶ人間が、美濃島克洋、ってことです」


 そう締め括って明るく笑った。操られるように頷いた信晴に一礼すると。


「すいません、一足先に帰ります。基晴くん、今日はありがとう。では稲地さん、おじゃましました」


 玄関へと向かう美濃島を誰も止めようとしなかったが。玄関の扉が閉まる音を聞くとじっとしては居られなくなり、基晴は勢い良く立ち上がった。



「美濃島!」

 駅の方角へしばらく走り、背中を見つけた基晴が呼び掛けると、美濃島はちゃんと振り向く。

「今日は……ありがとう」

 息を切らしながら礼を言うと。

「俺、基晴くんから感謝されることしたっけ?」

「ちゃんと来てくれただろ。それだけで嬉しかったよ」

 笑いながら尋ねる美濃島にはっきりと応えると。

「でも、逆に混乱させたんじゃないか?」

 こちらへ歩み寄ってきた美濃島は、にこにこと問い掛ける。


「でも、おまえ、本当は、なんにも話したくなかったんだろ……操縦士試験について」


 一体、美濃島は創成学園でどんな活躍を見せていたのだろう?

 兄の信晴と比べられた、って、どういった立ち位置だったのだろう?

 もちろん基晴も知りたいが、訊くことは出来ない。

「話したくない」なんて美濃島本人がはっきりと言っているのだし。


「でも、いつかは言いたかったし。それに、友達同士は助け合うのが当たり前、って事で」


 後ろを向き帰ろうとした美濃島を引き止めようと、基晴はまた大声を張り上げた。


「分かったよ! でも美濃島も俺を友達って思ってるなら、俺だけ、くん付けで呼ぶのやめろ!」


 子供っぽい反論に、動きを止めた美濃島がこちらを向いて。

「じゃあこれからは、基晴、って呼ぼうか?」

 いままでとは違った微笑みを見せた美濃島に、基晴が力一杯頷くと。


「じゃあ、基晴。今日は俺もありがとな。またわしづか専門学校で会おう」


 やはりどこか違った口調で挨拶を投げると、ひらひらと手を振って美濃島は去って行った。



 基晴は憂鬱(ゆううつ)な気分でマンションのエレベーターのボタンを押した。

 勉強会の場から去った美濃島と、それを追いかけた基晴。ふたりで話している間に、あそこに居る人々はどんな会話を交わしていたのか、どんな雰囲気になっているのか、想像すると戻りたくは無かった。

 しかし基晴まで逃げ去ることは出来ずに、おそるおそる客間の扉を開けると。


「おっかえりー、天城くん」


 明るく呼び掛けてきたのは矢郷で。


「それじゃあ、彼は帰ってきたので。私達はそろそろ失礼します」


 信晴に告げて立ち上がったのは高浦だった。そして他の皆も帰り支度を始める。


 美濃島と何を話したのか? なんて誰も訊いてこない。質問攻めに遭うんじゃないか、なんて不安もあったので、少し拍子抜けした。


「稲地さん、休日にわざわざ私達のサークル活動の場を作ってくれて、本当にありがとうございました。色々と勉強になりました」

「こちらこそ。またいつでもおいでよ」

 丁寧な礼を言う高浦に対し、親し気に信晴が応える。

「天城くんも、今日はありがとう」

「あっ、あぁ……うん、こちらこそ」

 戸惑う基晴に、高浦は微笑むと。


「気になる事も多いけど、自分は美濃島くんとは自然な友達でいたいんだ」


 高浦は基晴の瞳をまっすぐ見つめると。

 

「彼が望んでいた通り、過去についてはなにも尋ねず……もちろん、向こうから話してくれたらちゃんと聞くけど」

 穏やかに美濃島への思いを語り続ける。

「上手くは言えない、とも言ってたじゃない。まだ彼自身もよく分からないんじゃないかな。それを他人(ひと)が問い詰めたって……」

 少し困惑した様子で髪をかき上げる。

「……でも、いつかは話してくれる気がするんだ。それまでは、わしづか専門学校で一緒に学びながら、友達として、サークル仲間として、待っていようと」

 

 高浦と向き合う基晴は黙って聞いていたが。


「うん。俺も……美濃島とは友達でいたい、操縦士っていう同じ目標を持つ仲間でもあるし」


 力強く同意の宣言をした。彼女も美濃島への思いは一緒なんだ。


「これからも一緒に頑張ろうね」


 基晴に笑い掛けた高浦はまた兄貴に一礼して、そして皆と一緒に帰って行った。


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