嬉しい報告を聞き宴会をするレリアーノ
ベルトルトとの面談が終わったレリアーノは、講習が終わってくつろいでいるルクアの元に向かうと、手に持っていた書類の控えを渡した。
何事かと受け取ったルクアは書類に目を落とすと驚いた表情になり、書かれている内容を穴が開くのではないかと心配する勢いで読み始め、最後まで読み終わった際には弾けるような笑みをレリアーノに向けた。
「やったじゃない! レリアーノが英雄になるための第一歩が踏み出せるわね。パーティーから追放され、失意の中、美貌のエルフと知り合うことから幸運の女神が宿る。そしてゴブリンジェネラルを討伐してからの大進撃! いいじゃない、どん底からの大逆転なんて物凄いサーガが出来るわね。さっそくシャルたちに近況報告を書きなさいよ。それとルイーゼも喜んでくれるから、ちゃんと2人宛に別々に手紙を書きなさい」
「分かってるよ。ユリアーヌたちやマリウスの爺さん、ゲートハルトさんにも冤罪が晴れたことを報告しないとな。あの二人が色々と動いてくれたから、この手紙につながっているんだろうし。それにしてもランクが元に戻るどころか、逆に上がっているし、まさか街に到着する前にこれほど嬉しい出来事があるとは思わなかったよ」
背中をバンバンと叩きながら嬉しそうにしているルクアに、レリアーノも嬉しそうしながら答えていた。
「どうりで、周りの冒険者たちが私を見てニヤニヤと嬉しそうな顔をしていたわけだわ。きっとベルトルトから事情を聞いたけど、レリアーノ自身に報告をさせたかったんでしょうね」
レリアーノが冤罪を受けランクが落とされ追放されたのはベルトルトから説明を受けていたようであり、それが晴れたと聞かされた冒険者たちは自分のことのように喜んでくれていた。
「やったじゃねえか!」「これからは町のために働いてもらうぞ!」「Cランクなら依頼が色々と選べるぞ」
「ありがとう! 嬉しいよ」
一同から手荒い祝福を受けながらレリアーノは泣きそうになるのをこらえ、ルクアに保管してもらっていた食材を大量に出してもらうと豪勢な食事を作り始める。
「おおー」「なんだよこれ。凄いじゃないか!」「ベルトルトさん。見張り以外は酒飲んでいいだろう。レリアーノ復帰祝いだ!」
今までの中で一番の料理が所狭しと並べられており、それを見た冒険者たちは目を輝かせながら喝采を上げる。
そして恨めしそうにしている見張りを放置し、ゲートハルトの町で仕入れた酒樽を馬車から何名かの冒険者たちが運び出すと勢いよく開けられ次々と注がれていく。
そして祝宴が開始された。
「レリアーノの冤罪が晴れたことと、正当な評価を受けてのランクアップを祝して!」
「「「 乾杯! 」」」
「ほら! 主役のレリアーノが飲まなくてどうするんだよ」
先ほど、ベルトルトの特別訓練の内容を教えてくれた冒険者がエールを片手にやって来る。
そして手にしたジョッキを手渡すと、勢いよくジョッキをぶつけてきた。
「ありがとう。今日は飲むよ」
「はは! もちろんだ。主役が飲まなくてどうする。それにしてもランクかCになったんだよな。これで一人前の依頼が受けられる。ルクアは冒険者登録していなんだろう? リーダーなのに登録しなくてもいいのかよ?」
「え? しているわよ。ほら、カードもあるわ」
冒険者からからかわれたルクアが、懐にしまっていたカードを取り出す。
覗き込んだレリアーノと冒険者たちは、そこに書かれている情報をみて驚きの表情を浮かべた。
「なっ! ランクAだって?」「嘘だろ!」「俺より高ランク冒険者なのかよ!」
「え!? ルクアってAランク冒険者だったのかよ!」
驚いている冒険者たちと、驚愕の表情になっているレリアーノを見て、ルクアが胸を張って答える。
「ふっふっふ。レリアーノがびっくりすると思って内緒にしていたのよ。ちなみに商人ギルドのランクはBよ」
「なんでそんな無駄なことを……」
胸を張っているルクアにレリアーノがあきれた表情になる。
普通の商人は冒険者ギルドには登録しない。ランクを上げるためには依頼を数多くこなす必要があり、そんな時間があるのなら稼ぐために使うからである。
規格外のルクアに、ベルトルトも驚きの表情を浮かべていた。
「商人としてのランクは高いと思っていたが、高ランク冒険者でもあるとは」
ルクアが魔法を使えることや、実はエルフであり普段は隠蔽魔法で姿を偽っていることは知っていたが、冒険者として登録しているとは思いもよらなかった。
「人は見かけによらないものだな」
「でしょ? ベルトルトも油断していると私に追い抜かれるわよ」
ベルトルトのつぶやきを聞いたルクアが茶目っ気を出した表情を浮かべた、そして軽く片目をつぶるのだった。
◇□◇□◇□
「……アーノ。レリアーノ。そろそろ起きなさい」
「んん? なんだ? もう朝か?」
体を揺すられたレリアーノが軽く伸びをしながら、凝り固まった体をほぐそうとする。
どうやら宴会の途中で酔いつぶれて寝てしまったようであり、すでに野営していた場所からは出発しており、馬車が動く振動がレリアーノの身体を揺すっていた。
「ほらほら。さすがのルクアさんも足が痺れてきたから起きてくれると嬉しいわ」
ルクアの言葉を聞いて、自分がどういう状況かを理解すると、慌てて飛び上がって起きるレリアーノ。
「な、な、な――」
「『なんで?』ってとこかしら? 宴会で盛り上がったレリアーノが酔いつぶれて、私に抱き着いてきたら馬車まで運んだのよ。冒険者たちの囃し立てる声が凄かったわねー」
楽しそうに説明をしてくれるルクアを見ながら、レリアーノの顔は真っ赤になっていた。
そんなレリアーノの顔を見て楽しそうに笑うルクアの姿はエルフの姿になっており、理由を聞くといつもの姿では膝枕ができなかったとの回答に、レリアーノがさらに羞恥で悶える。
「ご、ごめん」
「いいわよ。気持ちよさそうに寝てたからね。可愛らしい寝顔だったわよ」
「も、もういいって!」
にやにやと笑っているルクアから顔を背けると、気分を変えるようにレリアーノは窓を開けて眠気を覚まそうとする。
爽やかな空気が室内に流れ込み、大きく深呼吸をするとレリアーノが窓の外に広がる風景に心を奪われていた。
眼前に青い海が広がり、空には小型の鳥が群れを組んで飛んでいるのが見えた。
「おお! 初めて海を見た!」
「あら、そうなの?」
海を眺めながら目を輝かせているレリアーノにルクアが問いかける。
「ああ。俺は山育ちだったからな」
上の空でルクアに返事をしながら、レリアーノは海をいつまでも眺めていた。




