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移動開始

敵国の状況を把握するための偵察作戦だ。

今回の目標は相手国の位置の把握、戦力の把握、状況の把握の3つほどだ。

敵国にの戦力は聞いた話では相当な戦力だろう。

魔道兵を複数所持していると言う事だからな、物量もとんでもない。

だが、悲観してばかりもいられないな、今は敵国の前哨基地の可能性がある場所を目指そう。


「どれ位の距離がありそうですかね?」

「えっと、ここから確か・・・・200km程先です」

「200km!? 随分と距離がありますね」

「前哨基地が近ければ攻撃をされますから」


まぁ、当たり前だよな、敵国の近くに前哨基地なんて置いたら攻撃されるよな。

だが、仮にそうだとしても200kmって結構な距離だぞ。

その距離を俺達は歩いて移動するというのか、かなりしんどいぞ、これは。


「まさか200kmも歩かないといけないとは」

「私達がここに攻撃を仕掛ける際にかかる時間は長いときには1週間です、早くても5日ほどですね」

「はぁ・・・・移動手段があればな」

「残念ですけど、ミストラル国にはそんな長距離移動用の道具はありません

 ですが、安心してください、保存食は3人分で2週間分は用意していますから」

「2週間分もあるのか? そんなに無い気がするんだけど」


俺達のリュックに入っているのは、保存食が精々1週間分程度だ、かなり重い。


「1週間分くらいしか」

「大丈夫です、私のリュックにもう1週間分用意していますから

 備えあれば憂い無しで、現地調達用の刃物も2本あります」

「重くないのか?」

「重いですよ、でも大丈夫です、私は力はありますから」


こう言う力仕事の時はかなり頼りになるな、こいつって。


「ただ、1つだけどうしても足りない物があるんですよ」

「なんだ?」

「それは・・・・お風呂です」

「お風呂?」

「はい、遠征する関係上、体を洗うことが出来ません、火で暖めればお風呂に出来るんですが」

「風呂の湯船にする道具なんてあるのか?」

「あ、一応ありますよ、リオさんとマルさん用の小さなお風呂入れです」


アルルがリュックの中から結構小さなバケツのような物を出した。


「これはなんだ?」

「これは伸縮自在なんですよ、ここを引っ張れば大きく開きます、熱だって通しますから

 お湯を温めることも出来ますよ、まぁ、時間は掛りますけどね」


縦方向に引っ張れば縦に大きくなり、横に引っ張れば横方向に広がる。

結構便利そうな道具だな、縮小型のドラム缶風呂という感じかな。

しかし、精々入れても俺やマルの様な幼女が1人入れる程度の大きさだ。

これだとアルルが風呂に入る事が出来ないと言う事になる。


「だが、これだとお前が」

「そこは大丈夫です、私はお2人が入った後のお湯で軽く体を洗いますから」

「良いのか? 風呂に入れないぞ?」

「それは我慢します、これ以上荷物が多くなると動きに支障が出てしまいます

 私1人の為に国を危機に陥れるわけにはいかないんですよ」


確かに荷物がかさばればそれだけ移動に時間が掛る。

この敵がいつ動くか分からない状況で、そのタイムロスは命取りになりかねないか。


「そうか、すまないな、そんな不憫な立場にしてしまって」

「いえ、大丈夫ですよ、それにそうすれば!・・・・あ、何でもありません」


少しだけこいつの顔が邪悪その物になった気がするが・・・・気のせいという事にしておこう。


「あぁ、えっと、それじゃあ行くか」

「はい!」

「う、うん」


俺達はようやく敵の前哨基地に向うために行動を始めることが出来た。

速さが重要な今回の旅路、200kmを歩くという辛さ。

でも、やらないとな、自分で言ったことだし仕方ないが。

しかし、俺の体力は何処まで持つかな・・・・鍛えてないのにさ。


「中々しんどいな」


俺達が歩き始めて30分ほど時間が経った、今は近道という森の中を抜けている状況だ。

周辺には大きな木々が生えまくり、足下には太い根が張っている。

この根に足が取られたりして、移動にいちいち体力を使う、子供の身長だと特にな。


「はぁ、ふぅ、全くさなんでここが近道なんだ?」


俺はアルルの後ろに隠れ、少し遅れて付いてきているマルにその疑問を問い掛けた。


「ここを通れば50km位、近道できるって、はぁ、言ってました」

「あー、そう・・・・所で、なんでお前まで息が上がってるんだ?」

「私は、長期移動とここを通るときは、背負って貰ってたので、体力が」


あぁ、なる程ね、通りでこんな距離を移動してきた奴にしてはひょろかったわけだ。

まぁ、そもそも今回は荷物も持ってるし、体力消費が激しいのもうなずけるが。


「やはり、荷物を持っての長期移動は疲れました? なら、私が荷物を持ちますよ?」

「いや、良いさ」

「そうですか? まだまだ私は余裕があるのでいつでも言ってください、持ちますよ」

「分かった」


と言っても、もうアルルは重たい荷物を持ってるし、これ以上負担を掛けるわけにはいかないよな。

俺達が持てる物は、俺達でもって移動しないと、甘えてばかりじゃ鍛えられないしな。


「はぁ、はぁ、ふぅ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「随分と疲れてきましたね」


うーむ、時間が経つにつれて足が重くなっていく気がする。

最初以上につまずきやすくなってるし、畜生。

そろそろ、体力の限界なのかも知れない。

あー! もう! まだ2時間程度しか経ってないってのに!


「少し休みましょう」

「あぁ!? いや、まだ、まだ行ける! まだ2時間だぞ!?」

「リオさん、無理しないでくださいよ、表情に全く余裕がありませんよ?」

「う、うるさい、はぁ、まだ、いけるって・・の!」

「プライドが高いですね、ではこれはどうでしょう、そろそろマルさんの体力も限界ですよ?」

「へ?」


その言葉を聞き、急いでマルの方に視線を移すとマルが木により掛って座り込んでいた。

汗も凄い量だし、少しだけ足が震えている気もする。

表情に一切の余裕は無く、若干目も虚ろだ。


「マル、お前」

「はぁ、ご、ごめ・・なさい、大丈夫です、まだ、いけます・・・・まだ、いけます・・まだ」

「な、なんでなるまで何も言わなかったんだよ」

「言えなかったんでしょうね、リオさんに怒鳴られたのがトラウマになって」


あ、あぁ、最初にあったときこいつに全力で怒鳴ったんだっけ。

そうか、それがトラウマになって移動の時も距離を取ってたし、怯えていたのか。

怯えている相手に対して、自分の意見を言うなんて、かなり勇気がいるからな

こんな小さな子にそんな真似は出来ないか。


「あぁ、そうか、だから何も・・・・」

「リオさん、指揮官たる物、部下の状況には常に目を配るべきです」

「まさにその通りだな・・・・部下の状況に気付けないなんて、指揮官失格だ」

「いいえ、そう落ち込まないでください、リオさんはただ単に部下を気遣う余裕が無かっただけでしょう

 良いですか? 急ごう、急ごうなんて気張りすぎて余裕を失えば戦場では死にます

 常にどんな時も周囲を見れる余裕が無ければ活路などは見いだせませんからね」

「そうだな、余裕を持って行動しないと駄目か」


そうか、俺は少し気を張りすぎていたのかも知れない、少しは余裕を持たないと盲目になってしまう。

今回のこれが良い例だ、俺は急ぐあまり余裕を無くし、マルの状況に気がつけなかった。

同時に・・・・自分の状況にも、こうやって立ち止まってようやく気がついた・・・・足が震える。

更に力も抜けて、足に凄い激痛が走っている。


「はぁ、はぁ、マズったな、無理しすぎたか」

「ほら、無理をするからです、休めそうな場所に運びますから背中に」

「あぁ・・・・でも、マルは? マルはどうするんだ?」

「マルさんは抱いていきますよ、おいていくわけ無いじゃないですか」

「そりゃそうだ」


アルルは俺を背中に乗せ、マルを抱き上げた状態で移動を始めた。

あれだけの距離を移動したというのに、まだ俺達を運べる体力があるのか。

流石は鍛えているだけはあるな、凄い体力だ。


「それではここら辺ですね、広いですし座れますよ」

「あぁ、ありがとう」


森の中の小さな湖がある場所で、アルルは俺達を椅子になりそうな切り株の上に座らせてくれた。

今、俺とマルは背中合わせの状態で座っている・・・・マルの呼吸が荒いのも分かる。

かなり辛そうな小さなうめき声も上げている、俺のせいでこんな事に。


「・・・・マル、ごめん、俺が不甲斐ないばかりに」

「・・・・・・」

「全く、情けないよな、何かと強い言葉を使ったり、偉そうなことを言っても実際はこのザマだ

 体力も無い、周りを見る余裕も無い、自分を見ることすら出来てない

 いつもあんな風に部下に助けて貰って、1人じゃ何も出来ちゃ居ない」

「・・・・そうだよ、酷いよ、私はあんなに辛かったのに何も言ってくれない

 私の方を見てくれてもいない、重たい荷物を運ばされて、こんな長い間歩いて

 褒められないで、ただ道を案内して・・・・」


・・・・なんの反論も出来ないな、こいつはまだ子供なんだよな。

かなり辛かっただろうし、休みたいと言いたかっただろう。

でも、俺は声を掛けずにこいつを働かせてたんだよな。


「ごめんな、そうだ、お詫びにお前のお願いを1つ聞いてやろう」

「本当?」

「あぁ、ただし逃がしてくれとか、俺に死ねとか言わないでくれよ? 流石にそれは無理だし

 あくまで俺に出来そうな範囲だからな」

「それじゃあ・・・・今日はもう休みたい」

「それで良いのか?」

「良いよ、私は少しだけ話して貰って、今は満足だから」

「そうか、じゃあそうしようか、ま、そもそもこの足じゃ動けないだろうしな」


俺達の足はまだ痙攣しているからな、こんな状態で動けるわけが無い。

移動速度が落ちるが、それでも休まない方が遅れると分かった以上、休むしか無いか。


「あ、私はリオさんと同じ布団で1日だけ寝る権利をください」

「・・・・は?」

「お願いですよ、お願い、私にもお願いをする権利をください!」

「嫌だ」

「やっぱり冷たい! ふふ、ですが今回ばかりは私の大勝利になりますよ!」

「どういうことだ?」

「簡単です、だって、遠征用のテントは1つしか無いのですから!」

「な、なにぃ!?」


マジで!? 1つしか持ってきてないの!? 何でだよ!


「なんで!?」

「少しでも多く沢山の物を運ぶためにですよ、テントは1つあれば3人で寝られますからね」

「お前-!」

「うふふ~、理解してくださいよ~、私も渋々だったんですよ~?

 本当は~、2つ持ってこようと思ったんですよ~? でも~、大きいし~

 他にも色々と持って行かないと行けない物もありましたから~、仕方ないんですよ~、うふふ~」

「こいつぅ! その軽い話し方を止めろぉ!」

「うふふ~、あはは~」


畜生! この変態女め! 何て嬉しそうなんだ! 畜生! あぁ、最悪だ。


「それじゃあ~、張っちゃいますね~、1つだとテントを立てるのも楽で良いですね~

 いやぁ~、1つだけで良かったですわ~」

「このぉ! 確信犯だろう!」

「効率を突き詰めたら、この結論になっただけですよ~、決して! 決して!

 リオさんの寝息を聞いて寝たいとか! リオさんの温もりに包まれてみたいなぁとか!

 リオさんを抱いて眠ってみたいな~とか! リオさんの匂いクンクンして安眠したいとか!

 そんな不純な事は決して、けーっして! 思ってません!」

「ふざけんなぁ! もう良いし! テメェと一緒に寝るくらいなら! 俺は外で寝るからな!」

「風邪引きますよ?」

「構うもんか! テメェのおもちゃにされるよりはマシだ!」

「もー、わがままなんですから」


畜生! これから毎日テントの外で寝る事になるなんて、だが、こいつと同じ場所で寝るよりはマシだ!

絶対にそうだし! こんな変態クソ女と同じ場所で寝られるかっての! 精神病むわ!

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