『孫も殺しちゃいなさい』
「おじいさま……?」
『ホッホッホ、若い姿なのに良くわかったのぅ』
目の下に隈を作り、髪もボサボサで囚人服を着たアイは目の前の状況に困惑していた。
「どうやら、間に合ったみたいだね」
「お前は!?」
アイの後ろから現れたのは白衣を着たミカだ。
「やぁ、僕からの手紙はどうだった?」
「この手紙の主……お前か」
「そう。君が知りたい答えを、彼は知っている」
「おじいさまが……?」
アイはゆっくりと、自らの祖父へと歩み寄る。
『ここに来たのなら、お前も儂を手伝ってくれるという事であろう?』
「手伝う?」
『こやつらは悪じゃ。殲滅しておかねばならん』
「……悪……」
もう一度周囲を見回す。
限界が来て気絶しそうな代表騎士の2人。
最後の人類を守る為に自分を犠牲にしている国王。
そして、それを支える女王。
それら全てを悪と呼ぶ自分の祖父。
そして、真っ直ぐにマクリの赤い瞳を見据えた。
「お爺さま……“悪”とは何でしょうか」
『何を言い出すかと思えば……悪とは“己の道を邪魔する奴”のことだ』
「……え?」
『自分の決めた道は正義、その邪魔者は悪、簡単な話じゃろう?』
「ならば今、お爺さまはどこへ向かおうとしているのですか!」
『決まっておる。人類の殲滅だ』
「どうして!?」
『どうして、か……ふむ、確かになぜ儂はこんなことを決めて進んでおるのだろうな?』
マクリは頭をぽりぽりとかきながら答える。
「……は?」
『理由は思い出せぬが、そうせねばならんと儂の心が告げておるのだ』
ちぐはぐな言葉に、アイは違和感を覚える。だが口を開いた。
「では、人類を殲滅したその先はどうするのですか?」
『さぁな。だが“悪”は殲滅せねばならん!』
――呪い。
アイは悟った。祖父は呪いに囚われている。だが同時に、自分の過去を重ね合わせる。
今の祖父と何が違うのだろうか……正義を自分勝手に決め、疑いもせず突き進んでいた、かつての自分。
「……私と戦いながら問いかけて来ていたアオイも、きっとこんな気持ちだったのかな……」
『?』
小さく呟いた後、囚人服の上半身を破き腰に巻き、アイは構えを取った。
「お爺さま……私は、アナタの“正義”を否定します!」
『ほう、儂に仇なすか。……貴様の父のようにな』
「そうです!」
自分は人間は嫌いだ。
だが、祖父が行なっている事は絶対に正義__いや、それが正義なのか理解できないが、絶対に違う!
アオイ達に敗れ、気づけばアバレー王国の牢の中。何もかもを失い、ただ死を待つだけだった自分。
「だけど、まだ死ねない……! 私は、生きている限り探究し続ける! 何が正義で……何が悪かを!」
だからこそ、今は獣人を……人間を……人類を守る為に闘う!
ドゴォォン!!
大地を割るほどの轟音と共に地震が起きる。
マクリが地面を思い切り踏み抜き、威圧を叩きつけたのだ。
「っ……!」
だが、恐怖を押し殺し、アイもまた地を踏みしめる。
「――行きます!お爺さま!」
『――来い!』
__こうして、かつて世界を変えた男と、その孫娘との壮絶な戦いが幕を開けた。





