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異世界転生したら女になっていました!  作者: しぇいく
第九章

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『仕方ないから助けてあげる』


 クロエとルカが殴り合いを始めてから、すでに四時間。


 美しい顔立ちに青あざを刻み、鼻と口から血を流しながらも、互いに拳を打ち込む。


 「うおりゃぁぁぁあ!」


 「ガ、ハッ……のじゃ!」


 だが、その戦いに差は出始めていた。


 「あぁ? なんだよそのヘボパンチは!」


 「っ!」


 ルカの拳を受けても、クロエは微動だにしない。

 逆に、カウンターで放った渾身の一撃がルカの頬をとらえ、彼女の身体は地面へと叩きつけられた。


 「ほら! んなもんじゃねぇだろ? 立てよ……お前の番だ」


 しかし、ルカは倒れたまま動かない。


 「……」


 「おい」


 「……」


 返事はない。嫌な予感に駆られ、クロエは駆け寄って髪を掴み、顔を覗き込む。


 「……嘘だろ……」


 ルカは気絶していた。


 「は? ……おい……おい! 起きろ!」


 クロエの息はまだ荒れていない。

 体力にも余裕がある。

 だからこそ、この程度で気絶したルカに困惑を隠せなかった。


 「おい!」


 「……」


 返答はない。


 「っ……!」


 クロエは奥歯が欠けそうなほど強く食いしばり、最後に渾身の拳をルカの顔面へ叩き込んだ。


 「俺が求めてたのは、そんなお前じゃないんだよ!!」


 「……」


 「こんなもんでくたばったなんて……嘘だろ? あの圧倒的な強さは、どこに消えたんだよ!」


 手を抜いていたわけではない。

 ただ――普通の人間であろうとしたルカの身体と、普通を捨てたクロエの身体。

 その差が、如実に現れていただけだった。


 「……」


 「俺は……何のために……」


 「……」


 クロエはポケットから一枚の魔皮紙を取り出すと、指先で弾いてルカの身体に貼りつけた。


 「チッ……」


 魔皮紙が起動し、ルカが目を覚ます。


 「!……」


 「勝負は俺の勝ちだ。さっさと傷を治せ」


 「どうして……トドメを刺さなかったのじゃ?」


 「あ? 今のはあくまで“勝負”だ。殺し合いじゃねぇ」


 「………後悔することになるのじゃ」


 「…………させてみろよ」


 「……」


 「俺の人生はお前に狂わされた……クリスタルドラゴン討伐。あの時、俺達はそこに居た」


 「……あの場に……」


 「そうだ。てめぇにとっちゃ、周りに群がる虫と同じだったかもしれねぇ。だが、俺にとっちゃ……人生を変えられ、いや、終わらせられた出来事だったんだ」


 「……」


 「だから後悔させてみろよ! お前は……こんなもんじゃねぇだろ!」


 「…………本来の姿になれ、そう言いたいのじゃな?」


 「そうだ。あの日より俺達は強くなった……それを証明――」


 「断るのじゃ」


 「……は?」


 「ワシは今の姿で……お前達を――」


 言葉を最後まで言い切る前に、クロエはいつの間にか手にしていた大鎌を振り下ろしていた。


 「っ!」


 ルカは咄嗟に両手へクリスタルブレードを展開し、辛うじて受け止める。


 「てめぇ! 解ってんのか!? その姿じゃ、こんな単純な力比べすら勝てねぇんだぞ!」


 クロエの力が圧し掛かり、ブレードにヒビが走る。


 「くっ!」


 ルカは足元からクリスタルを生み出し、衝撃でクロエを押し退け距離を取った。


 「それでも! ワシはこの姿で――!」


 言葉を吐き出す直前。


 ルカの片腕が吹き飛んだ。


 「……な!?」


 「もういいよ、お前」


 隙を見逃さず、クロエは瞬時に間合いを詰めると、もう片方の腕も容赦なく刈り取った。


 「ぐ……!」


 両腕が落ちるよりも早く、足元から伸びた【黒い鎖】がルカの身体を絡め取り、拘束していく。


 「これは……」


 「卑怯だなんて言うなよ? さっきの勝負はもうついてた。それに、俺達は“お前の本来の姿”と戦うことを前提に準備して来てるんだ」


 その時、空間が揺れ、転移の光と共にルコサが現れた。


 「そういうこと。君達が殴り合ってる間に、こっちは準備させてもらったよ」


 「……流石はルコサ先生なのじゃ、自分の教え子に手を出すつもりなのじゃ?」


 「変な言い方しないでくれる?まるで俺が変態みたいじゃん」


 「……」


 「なんで黙るんだクロ」


 ルコサはオリバから借りた片手銃を取り出し、ルカの眉間に構える。


 「君の核は“ここだ”」


 狙いは見事に捉えていた。


 「……………」


 「最後に言い残すことはあるかい? 懺悔なら神の使徒である俺達が聞いてやろう」


 銃口を突きつけられながらも、ルカの口元には不気味な笑みが浮かんでいた。


 「お主らが使う【神】と、ワシの『神』はちと違うての。その神が言うのじゃ……」


 ルカは小さく息を吸い込み、狂気を孕んだ目でルコサを見据える。


 『――ヤバい時は助けに来るよ♪ ってね♪』


 「!!!!」


 突如、アオイの声が天から響き渡る。直後、ルカを中心に足元から巨大な魔法陣が奔り、光が一気に広がっていった。



 「っ!この!」


 ルコサはとっさに引き金を引いた。だが、指の動きを読んでいたルカは僅かに体をずらし、弾丸はその頬を抉って抜けた。


 「ハズレなのじゃ!」


 『――魔法陣の効果により【神の鎖】は無効化された』


 「っ!この魔法は……神の……!クロ!」


 「あぁ!」


 状況を悟ったルコサはクロエの手を掴み、一気に転移。遠くに居たオリバルのもとへ飛んだ。


 「一体何が――」


 「オリバ!緊急事態だ!『女神』が干渉を――」


 「おい……ルコ……」


 「何だ!」


 「その手に……掴んでるのは……」


 「え……?」


 ゆっくりと視線を落とす。


 そこにあったのは――確かにクロエの腕。

 しかし、腕だけだった……

 

 

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