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葉隠桜は嘆かない  作者: 玖洞
三章

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67/212

64.政府からの発表

 鶫が足早にベルの下へ戻ると、ベルは少し難しそうな顔をして口を開いた。


「技巧は確かに優れていた。怪我を負わなかったことも褒めてやる。……だがあれは、あくまで魔獣が上手く罠に掛かることを前提とした策だ。もし罠の存在を魔獣に見破られていたら、貴様はどう対処した?」


 ベルのその言葉を聞き、鶫は地面を見つめながらぐっと右手を握った。


――痛いところを突かれたな。鶫はばつが悪そうに表情を曇らせながら、そう思った。


 確かにあの策は、魔獣が鶫の予想通りに動くことを前提としたものだ。魔獣が少しでも違う動きをしていたら、そもそもあの罠自体が成り立たない。

 だが、念のため失敗した時の策だって一応は考えていた。……まあ、前の策と違ってかなり脳筋な方法になってしまうが。


「その時は作った毛玉の檻と一緒に転移して、直接魔獣を捕まえに行ったと思う。居場所は壁に張り巡らせた糸で把握していたから、数回も繰り返せば捕まえられるだろうし」


 上手く魔獣が檻の中に入れば御の字。転移場所が多少ずれたとしても、相手にぶつかった瞬間に檻の糸を緩めて手足を絡み取れば、少なくとも魔獣の行動は封じることができる。

 動かないクラーケンなど、まな板の鯉に過ぎない。……あまりスマートな方法ではない上に泥だらけになるので、鶫としては出来ればやりたくはなかったが。


 そんな鶫の返答に、ベルは不満そうに目を細めると、小さくため息を吐いた。


「……本当に上手くいって良かったな。流石に後者は少し情けないからな。ただでさえ華がないのに、これ以上雑な戦いになったら困るぞ」


「まあ、取りあえず今は数をこなすのを優先するということで。このまま戦いを続ければ、そのうち期待値には追い付くと思うしさ。――それに華がないって言い方は酷いんじゃないかな。華なんて、此処に可愛い桜ちゃんがいるんだからそれで十分じゃないか?」


「貴様、自分で言っていて恥ずかしくないのか?」


「……うん、今ちょっと後悔してる」


 じわじわと羞恥で顔に熱が集まってくるのが分かる。……自覚はないが、B級の魔獣を倒した高揚感で少しテンションが上がっていたのかもしれない。

 そして何よりも悲しかったのは、ベルがにこりともしてくれなかったことだ。場を和ませるための冗談のつもりだったのだが、どうやら外したらしい。地味にショックである。


 気落ちして肩を落す鶫に対し、ベルは呆れた様にため息を吐きながら、鶫の肩を尻尾でぺしりと軽く叩いた。柔らかい感触が、妙にこそばゆい。


「別に貴様自身に華がないと言っているわけではない。……まあ今はそれを言っても詮無きことか。――そういえば、例の白兎とは最近どうなのだ? 随分と仲が良いようだが」


 話を変えるかのように、ベルは白兎―千鳥の契約神のことを口に出した。


――普段は一切触れようとしないのに、珍しいな。鶫はそんなことを考えながら、口を開いた。


「ああ、兄さん(・・・)のことか。確かに仲は良いよ。この前の週末は一緒にスノーボードに行ってきたし」


「に、兄さん? 貴様、本当に奴のことをそんな風に呼んでいるのか?! それよりも、一緒に出掛けた? 我に断りも入れずにか?!」


 鶫がさらりと告げた一言に、ベルは過剰な反応をみせた。

……そんなにも変なことを言っただろうか。鶫は不思議そうに首を傾げながら、ベルの問いに答えた。


「いやだって、そう呼べって本人から言われたから……。それに先週はベル様も出かけてて連絡取れなかったし。しょうがないと思うんだけど」


――通称シロと呼ばれる神様が鶫たちと一緒に住むようになって、約二週間の時が経過していた。

 最初は戦々恐々としながら対応していたのだが、人間の順応性とは凄まじいもので、今ではもうすっかり気安い感じになってしまっている。シロも別に気にしていないようだし、今のところは特に問題はない。


 それと一緒に出掛けた件だが、別に特別な理由があった訳ではないのだ。先週の週末は千鳥が私用で出かけたため、暇になったシロが鶫に声を掛けてきた、というだけである。


 寒い中、電車とバスに乗って遥々雪山まで一人と一柱で出かけたのだが、思っていたよりも楽しかったのは確かだ。

 基本的にシロは会話が少ないので無言での行動が常だったが、別に疎まれているというわけではないので、鶫としてはそこまで気にならなかった。


 その時、白兎は周りの人間からはぬいぐるみのように見えており、白兎を頭の上に乗せて颯爽とゲレンデを滑り降りていく鶫の姿は、ある意味で注目の的だったかもしれない。ゴーグルを掛けていて本当に良かった。


 中には可愛い物好きの女の子たちが声を掛けてくることもあったのだが、鶫が真面目なトーンで白兎を「俺の兄さんです」と紹介すると、彼女達は引きつった笑みを浮かべてその場から去ってしまった。もしかしたら、頭がおかしい奴だと思われたのかもしれない。


……まあ、ちょっと残念だったが気にはしていない。今は恋愛をしている時間も無いし。


 鶫がそんなことをつらつらと話すと、ベルは不可解な物を見るかのような目で鶫を見つめた。


「よく耐えられるな……。肝が太い、いや、鈍いのか? ……それにしても、奴も奴だ。よりにもよって【弟】が欲しいなどと、我は理解ができん。弟なんぞ、兄の命を狙ってくるだけの害獣ではないか」


 そう吐き捨てるように言い放ったベルに、鶫は苦笑を返した。

 ベル――崇高なる神バアルは、弟神モートと骨肉の争いを繰り広げたという逸話がある。一度は殺されて体をモートに飲み込まれ、妹であり妻でもあった神アナトの協力もあり、事なきをえたのだ。

 まあ、その話は今は関係ない。


「酷い言い草だなぁ。別に兄さんは俺と千鳥に対して無理難題は言ってこないし、それなりに良い神様だと思うけど」


 そんなこと言いながら、鶫は軽く首を傾げた。姉役の千鳥に関しても、特に変な要求はされていないようだし、問題があるようには思えない。

 膝に乗せてのブラッシング。手ずから食事を食べさせたり、手作りの洋服をねだるなど、白兎がするのはささやかな願い事ばかりだった。……姉役というよりは、ペットの飼い主の様にも見えるが、それは言わぬが花だろう。


「別にそれでベル様のことを蔑ろにしているわけじゃないし、機嫌を直してよ。それに先に『白兎の言うことを聞け』って言ったのはベル様だしさ」


 鶫だって、白兎にかまけてベルのことを放置しているわけではない。魔法少女としての戦いや勉強などが無い時は、全国の行列ができる店に赴いて、ベルの為にお持ち帰りができる食べ物を大量に購入している。

 最近だと、三時間並んで評判のタピオカミルクティーを入手してきたりした。まあ、評判の割に味は並みだったようだが。


「そういう問題ではない!! まったく、これだから人間は!」


 ベルはイライラした様子で、尻尾を使い鶫の頭を連続で叩いてきた。先程の労わるような接触とは違い、しなった鞭で叩かれている様な鋭い痛みを感じる。


「ちょ、ベル様、痛いって!」


「ふん、危機感の足りない貴様にはそれがお似合いだ。――そもそも、貴様は神というモノを分かっていない」


 ベルは不遜に腕を組み、高い位置から鶫を見下ろすようにして言った。


「いいか、よく聞け鶫。神と人間は、本来は相容れない相手なのだ。共に在るには、存在の強度があまりにも違いすぎる」


「……それは、そうだろうけど」


 確かに神様と人間では、立ち位置そのものから異なってしまっているのだろう。だが、中には鶫やベルの様に友好的な関係を築ける者もいる。一概にすべてを相容れないと言い切るのは、少しどうなのだろうか。

 そんな鶫の不満な様子が滲み出ていたのか、ベルは軽く苦笑し、優しげに言った。


「我と貴様の関係が良好なのは、上下関係がはっきりしているからだ。我が上で、貴様が下。貴様ら日本人は良いも悪いも一緒くたにして祀る癖があるようだが、それはあくまで主従の関係の域を出ない。それ故に――あの白兎の奴が望むような対等な『家族ごっこ』は、いずれ破綻が見えている」


――だから、深入りはするな。鶫は言外にそう言われた気がした。

 恐らくベルは、本気で鶫のことを心配してくれているのだろう。


……けれど、シロは本気で千鳥や鶫と『家族』になるつもりは無いのだと思う。


 鶫はゆっくりと首を横に振り、ベルに向かって笑いかけた。


「大丈夫だよ、ベル様。ちゃんと自分の立場は弁えているから。――きっと兄さんにとって、鶫という弟はただの代用品に過ぎない。おそらく姉役である千鳥もね。……自分達が本物になれない事くらい、最初から分かってるよ」


――初めて会った時、シロは愛憎が混じった複雑な目で『姉君』のことを語っていた。あの目を見れば、彼の心が誰に向いているかなんて、鈍い鶫にだって分かる。

 現実がままならないのであれば、虚構の中で安寧を望むくらい、神様にだって許されてもいいはずだ。


 鶫がそう答えると、ベルは目を細めて鶫を見つめた。


「ならばいい。――さて、そろそろ帰るとするか。貴様は明日も学校があるのだろう?」


「うん。朝も早いし、帰ったらご飯を食べてすぐに寝るよ。怪我はしなかったけど、何だか気疲れしたしね」


 そう言って、鶫は背筋を伸ばすように両手を上げて伸びをした。悲しいことに、ぐいっと後ろに反っても、特に胸は強調されない。

 ……果たしてこちらは成長することがあるだろうか。それこそ神のみぞ知ることだろう。


「ん? どうかしたのか?」


「――いや、何でもないよ」





◆ ◆ ◆




 四月三十日。夕方五時、葉隠桜専用スレッドにて



【A級】葉隠桜専用スレ【十位】


1:名無しの国民

ここはA級魔法少女葉隠桜の総合スレッドです

雑談・考察等々ご自由にどうぞ

・他の魔法少女の話題は専スレへ

・荒し禁止/スレチ禁止


最新戦闘記録『B級:がしゃ髑髏戦』

http:****~


~~~


430 :名無しの国民

葉隠さん今回もめっちゃカッコよくて可愛かった……

最近供給過多だから、そろそろ心臓が壊れそう


431 :名無しの国民

確かに最近は戦闘の頻度が高いな

週一ペースでB級の魔獣と戦ってるし


432 :名無しの国民

毎回本当に格好いいんだよなぁ

そしてときどき覗く無邪気さが愛らしい


433 :名無しの国民

>>432

ふとした仕草があざといよな

でもわざとらしさは感じないから、たぶん素だよ(願望)


434 :名無しの国民

クールで強くて可愛くてちょっと天然とか最強かよ……

何処へ行ったら課金できるんです?


435 :名無しの国民

>>434

諦めろ。できるなら俺もしたい


436 :名無しの国民

葉隠さんCMとかも出てないからなぁ。買って応援とかもできない


437 :名無しの国民

つくづく六華に選ばれなかったのが悔やまれる

選ばれてたら今頃もっとメディア露出が増えてたのに……


438 :名無しの国民

ていうかさ、葉隠さん本当に強くなったよな

そろそろA級に挑むんじゃないか?


ラドン戦?あれはある意味ノーカンだから


439 :名無しの国民

前までは戦いに粗が目立ってたけど、今は技というか戦略が神がかってるもんな

やっぱりラドン戦から見たら一皮剥けたよ


440 :名無しの国民

俺さぁ、クラーケン戦を見るまで透明化のスキルはハズレ枠だと思ってたんだよね

素直にごめんなさいするわ。要は使い手次第なんだな……


441 :名無しの国民

>>440

俺もだ


442 :名無しの国民

>>440

俺も

転移能力が強すぎるから他が目立たないのかもな


443 :名無しの国民

そういえば今日の夜に政府から重大な発表があるらしいな


444 :名無しの国民

>>443

生放送みたいだしかなり気合が入ってるっぽい


445 :名無しの国民

六華の誰かが引退とかそんなんじゃね?

まあその理論だと一番有力なのは柩さんだけど


446 :名無しの国民

>>445

おい止めろ。まだ心の準備が出来てない


447 :名無しの国民

どうせイレギュラー関係の発表だろ

遊園地の事故からもうすぐ三か月になるけど、あの後も似たような事例が何回かあったからな。政府としても本腰をいれなきゃヤバいだろうし


448 :名無しの国民

今のところは魔獣の出現時間のズレくらいか?

せめて結界に巻き込まれるメカニズムくらいは発表してほしい


449 :名無しの国民

最近は政府主導で護身グッズを作ってるみたいだぞ

どこだっけ、ほら、いぶき?とかいう名前のメーカーと提携したらしいし


450 :名無しの国民

お、生放送始まったみたいだ


451 :名無しの国民

は?


452 :名無しの国民

おいおい、嘘だろ


453 :名無しの国民

俺は夢でも見てるのか?


454 :名無しの国民

なあ、――なんで葉隠さんが政府の生放送に一緒に出てるんだ?




◆ ◆ ◆



――四月三十日。その日政府は三つの重大な発表をした。


一つ、イレギュラーな事例に対応するために六華の制度を一部変更し、人員を四人増やして名称を【十華】と改めること。

二つ、資金を投入し、数多くの企業と大学と協力して魔獣研究機関を立ち上げること。

三つ、国民全員に対し、魔法少女――巫女としての適性があるかどうかの検査を実施すること。


 そして政府が用意した生放送の場には、新しく選定された四人の少女たちが並んでいた。その一番左端にいる少女――葉隠桜はいつもの様に穏やかに微笑んでいた。








補足説明。

2月の頭――遊園地の事故。

2月中旬――今回のB級戦。

4月30日――今回の掲示板+政府の記者会見。といった時系列になります。

若干分かりにくかったみたいで申し訳ありません。


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[良い点] 可愛い自覚いいぞぉ
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