予期せぬ出来事
ストラさんに案内されてやってきたのはひと際大きくて目立つ建物だった。聞いた話ではここが聞いていた魔術学院の校舎らしい。この国で一番大きくそして歴史のある建造物だそうで国のシンボル的な場所なんだそうだ。
「この国はほかのどの国よりも魔術で栄えた国なんです。なのでここにこの魔術学院、通称ガーデンと言われる巨大な育成施設と共に魔術の習得を目指すものやそれに関する職業を目指す者たちが大勢集まるんですよ」
なるほどそれでここにいる人たちはみんな同じような格好をしていたり、見たこともないような道具を持ち歩いたりしてるんだな。
「じゃあここにいる人間はこのガーデンが目当てにこの国に来ている人がほとんどなんですね」
「えぇ、ここに住み込みで暮らしている者もいれば他国から来国する人まで様々です」
なるほどねぇ。あんなワープみたいな便利な力を習得できるかもしれないなら俺だって欲しいもん。現代の日本みたいな高度な技術がないかわりにそれをある程度補うことができる力ってのがこの世界の魔術ってやつだもんなぁ。まぁものによってはこっちの方が断然高度な技術なんだけど。
そんなこと考えながらすたすたと歩くストラさんについていく。しばらく大人しくついていった俺だったが途中ストラさんがだんだんと人気の減る方へと進んでいっていることに気が付いた。
「あのストラさん。なんか結構歩いてきましたけどこれどこに向かってるんですか?」
そう質問するとストラさんは突然歩みを止めた。そしてこちらに振り返り突然俺の耳元に近寄ってきた。
「私達が今から向かっているところは普通であれば人が通うことのできない一室です。そこにアラザキ様をお待ちしている人物がいます」
そう小さな声で伝えてくるストラさん。突然急接近してきたので思わずたじろいでしまったがなんでそんな小声で言わなければならなかったのだろうか。そんなに周囲に聞かれたくないような内容でもなかったように思うのだが。
「な、なんでそんな小声なんですか?」
「まぁその……あまり知られると面倒なことになるかもしれないので」
……今から俺が会う人って本当に大丈夫な人なんだろうか。そんな言い方をされてしまうと非常に不安なんだけど。
「安心してください。アラザキ様に危害を加えるようなかたでは決してありませんので」
安心してくださいねぇ……。益々分からなくなってきたがとにかくここまで来たら行ってみるしかない。俺は再び歩き出したストラさんの後を追って更に学院の奥に進んでいくことにした。
しばらくして俺とストラさんは今まで見てきた廊下とは少し違う雰囲気の場所にたどり着いた。床には豪華なレッドカーペットが敷かれており、いかにも一般人が通ることのなさそうな場所だった。
「さぁ着きましたよ。こちらです」
そう言われた場所の目の前には先程までとは雰囲気の違う豪華な装飾が飾られている扉が一つある。
「ここですか」
「はい。アラザキ様少々お待ちいただけますか?」
そう言って扉に近づくストラさんはおもむろに扉につけられている蝶の形をした飾りに顔を近づける。すると蝶の羽の部分にある模様の一つが動き出しそこからほのかに青白い光が漏れだした。ストラさんはその光に自分の髪をかき上げ覗くように目を近づけた。すると扉からなにか鍵のようなものが外れたような金属音が鳴り響く。
「もしかしてそういうセキュリティかなにかですか?」
「詳しくはお答えできませんがそのような感じです」
まさかこの世界で虹彩認証がみられるとは……。これも魔術が関係するなら高級マンション顔負けの厳重セキュリティだな。
ストラさんに案内され扉の中に入るとそこは広々とした空間があり、扉の向こう側には大きな机と豪華そうな椅子、そして外が一望できそうなほどの大きな窓がある。部屋の両脇には分厚い本が並べられたいくつもの本棚や高価そうな装飾品や絵画などが飾られていた。
いかにも普通の人間がいる部屋という感じではないのがひしひしと伝わってくる。
「失礼いたします!お客様をお連れ致しました!」
ストラさんは部屋の中に向かいそう声を張り上げる。しかし今この部屋には俺とストラさん以外の人影は見当たらない。
「あの……ストラさん?なんか、誰もいないように見えるんですけど?」
俺がそう彼女に問いかけた瞬間だった。突如明かりがさしていた窓のカーテンが勢いよく閉められ部屋に取り付けられていた小さな照明などが一斉に消えだした。そのせいで部屋の中は一気に暗くなり目の前にいるはずのストラさんの姿ですら見えなくなってしまった。
「な、なんだ!?ストラさん!どうなってるんですか!?」
暗闇に向けて声を張り上げるが返事は帰ってこない。突然の事態に鼓動が早まり冷汗がでてくるのがわかる。とりあえず落ち着いてなにか行動を起こさないと。そう考え俺は先ほど入った時のすぐ後ろにあるはずの扉に触れようと踵を返しゆっくりと歩みを進める。手を伸ばしながら数歩ほど進むと手に何かが当たる感触が伝わる。それを頼りに辺りを探ってみるがそこで俺はふと気が付いた。
「……さっきのドアノブがない?」
部屋の中に入りほとんど扉の近くから動いていなかったはずなのでこの辺りにドアを開くためのドアノブがあるはずなのだがいくら探ってみてもそれらしいものに手が触れない。
「一体どうなってんだ?」
俺がそう口にしたときだった。
「お待ちしておりましたアラザキ様」
突如闇の中から誰かの声が部屋の中で響く。
「だ、誰だ!?」
壁に手を付けたまま俺はその声の主に尋ねる。そろそろ目が慣れて少しでも視界が戻りそうなものだが一向にその気配はない。広がっているのはどこまでも暗闇だった。
「驚かせてしまい申し訳ございません。今すべてお戻しいたします」
その声の主が言うと先程まで消えていた証明が一つ、また一つと灯りをともしていく。相変わらず窓のカーテンは閉じられたままだがそれでも部屋の中を見渡せるほどの淡い灯りが部屋を覆った時、ついにその声の主が目の前に姿を現した。
「お待ちしておりましたアラザキ様。私ガーデンの学園長を務めさせていただいております‘ジェンシー・フローレンス’と申します」
俺の目の前に立っていた初老の女性はそう挨拶をすると丁寧な会釈をしていた。
色々パニックになりそうだったが俺はとりあえず色々と落ち着くためにと彼女に案内され部屋にあったソファに腰をかけ、いつの間にか用意されていた華やかな模様のティーカップにお茶を注がれていた。
色々と衝撃的な初対面を果たした二人だったがジェンシーと名乗るこの女性がどうやらここの学園長らしい。長くてきれいに整えられた白髪に優しそうな目元が印象的な見た目だけ見れば普通のおばあちゃんといった感じだ。いい意味で権力者的な威圧感は感じられないとてもいい人そうな印象というのが正直なところである。
「本当に先ほどは突然の御無礼申し訳ありませんでした」
そう言って彼女は深々と頭を下げる。
「いえいえ!突然で驚きましたけどもう気にしてないのでお気になさらず」
むしろあの瞬間になにもされなくてよかった。危害を加えないとかなんとか言ってたのにまさか……とか思ったけど杞憂で終わってほんとによかったよ。そう思っていた時ふと俺は気づく。
「あの、そういえばストラさんの姿が見えないんですが彼女はどこに?」
「ああ、ご心配なさらないでください。彼女ならもう自分のお部屋に帰られましたよ」
「え?そ、そうなんですか?」
いつの間に帰っちゃったんだろうか。せめて一言くらい何か言ってくれてもよかったのになぁ。そうちょっと残念に思いつつそこで俺はもう一つあることに気づきその疑問を彼女にぶつけた。
「あとさっきから気になっていたんですがここに入ってきたときの扉があった場所に今その扉がないのってこれはどういう仕組みなんでしょうか?」
その質問を聞いた途端ジェンシーさんは突然神妙な面持ちに変わる。
「……どうか落ち着いて聞いてほしいのだけど、実は今この部屋はさっきいた場所とは別の空間に存在しているのよ。だから一時的にこの部屋には誰も出ることはできないし入ることもできないの」
その彼女の言葉に思考が止まりかける。何を言ってるのか理解できないとも言えるだろうか。
「別の空間?部屋から出れないって一体どういうことですか?」
「大丈夫、落ち着いて。もちろんあなたを一生この部屋に閉じ込めておこうなんて気はないし、お聞きしたいことを全て聞くことができればすぐにお帰り頂けるようにするわ」
彼女はそう言ってティーカップのお茶を一口飲んだ。一体何を考えているのか分からないがこの人の質問とやらに答えれば俺は帰れるらしい。それも本当にそうなのか疑わしいところではあるが……。
「……わかりました。それで聞きたいことというのは一体どんなことで?」
「質問はいくつかあります。一度に全部お聞きするのは大変でしょうから順番にさせていただくわね」
そう言うと彼女は胸ポケットから眼鏡を取り出しそれをかけると懐から一枚の紙を取り出す。
「まずあなたの出生からの質問をさせていただきます。アラザキ様は一体どこのご出身なの?」
なんてこった。一番初めから難しい質問が着てしまった。俺の出身はもちろん日本な訳だがこの世界にもちろんそんな場所はない。もしかしたら似ているような場所がどこかにあったりするのかもしれないがもちろん俺はその場所の名前すら知らない。さて、どう答えたものか……
「俺はその……モートリアムの出身です」
とりあえず俺が最初に訪れた国の名前を挙げてみる。出生とはまた意味が違うがこの世界に来た時にいた場所と言えばそこなのでまぁ似たようなものだろう。
「ふふ……アラザキ様はどうやらあまり嘘がお上手ではないようね」
彼女はそう笑みを浮かべながら言う。その一言に動揺を隠せず俺は目を丸くすることしかできなかった。
「う、嘘じゃありませんよ!本当です!」
声が若干上ずりながらもそう反論を返す。自分で言うのもなんだがこんな下手な芝居しかできない俺は絶対ポーカーフェイスにはなれないんだろうなぁ……。
「アラザキ様、どうか隠さずに全部教えてほしいの。これはとても大事なことだから」
彼女は諭すような優しい声で俺をまっすぐ見つめながらそう言った。その視線に俺はこの人には嘘をついても無駄なのかもしれないと半ば諦めの境地に立たされながらも考える。本当に話したところで信じてくれるのだろうか?頭のおかしい変人だと思われないだろうか?色々なことが頭をよぎる。しかし、悩んでいても話は進まない。ならばもう俺がすべきことは一つ。
「……はぁ、わかりました。全部正直に話します。でも今から言うことは多分信じることができるかどうかは保証できませんよ」
そう前置きをして俺は彼女に全ての経緯を話した。自分がこことは違う世界で生きていた人間だということ。そこでトラックという乗り物に轢かれ一度死んだということ。そして神様のようなよくわからない存在にこの世界に新しい自分として生き返らせてもらったこと。その際にこの力を受け取ったこと。何から何まであったままを話した。ジェンシーさんはその話を茶化すことも怪しむこともせずに最後まで無言で真剣に聞いてくれた。
「……これで全部です、俺から話せることは」
「…………」
彼女はその後も一言も話さずただ黙りこくっていた。客観的に見れば今俺が言ったこと全てがあまりにもぶっ飛びすぎていてそれを信じることなんてできるはずもないだろから無理もないだろう。沈黙の時間が痛い。ジェンシーさんは今何を考えているのだろうか。
――しばらくして口を閉ざしていた彼女の重い口が開かれる。
「……あなたの今教えてくれたことを正直に話すと、全部が全部信じることができるかは非常に怪しいところではあります。けど、あなたが何らかの理由でこの世界とは別の世界で起こった事がきっかけでこちら側に来てしまったというのは可能性としてはありえるというのも事実です。その際にあなたが今持っているその力が何らかの因果によってあなたに宿った。私は、あまり神という存在を信じ切っているほど信仰深くはないのでその存在が一体何なのかは謎に包まれたままではありますが、今はとりあえず置いておくことにしましょう」
あ、そこは置いとくんだ。結構気になるところだと思うけど……まぁいいならいいか。
「信じるも信じないも自由ですが全部真実です。それ以上でもそれ以下でもありません」
どう思われようが俺は全部話したんだ。さぁ、これでここから帰してもらえるはずだがどうなるのか……俺は彼女の回答を待った。
「なるほど……どうやら嘘はつかれてないみたいね。つまりアラザキ様は色々と私の理解を超えるような存在だということでいいのかしら。少なくともその膨大な魔力と力に関しては我々が気づけないはずがないんだもの」
納得とまではいかないが、どうやら彼女なりに俺の話を飲み込もうとはしてくれているみたいだ。
「どうですか?俺から聞きたいことはこれでおおかた聞けたんじゃないでしょうか」
「そうね。まだまだ謎も多くありますが、とりあえずそれに関して深堀するには私達はまだあまりにも関係が浅すぎるもの。今日のところはこれくらいにしておきましょうか」
そう言って彼女は立ち上がるとおもむろに部屋の中央に立った。そして両手を広げると
―――――パンッ!
彼女が手を叩いた瞬間部屋の灯りが再び消え辺りは闇に包まれた。
次にこの部屋に灯りが戻ると先程の扉が部屋の中に現れていた。どうやら元の場所に戻ってこれたようだ。
「色々とお話が聞けて楽しかったわアラザキ様。またこのことに関してはこちらで内密に調査をさせてもらうことになるかもしれないけど、その時はよろしくお願い致します」
「は、はぁ……」
どうやら彼女との対談はこれが最後にはならなそうだ。俺は内心困ったことになったと思いながらも最後に彼女と握手を交わし部屋を後にした。
「一体なんだったんだ……」
そうぼやきつつ外に出ると既に日は傾き始めており、辺りは夕暮れに包まれていた。
「アラザキ様、お待ちしておりました」
学院の入り口でそう声を掛けられ振り返るとそこにはいつからいたのかストラさんの姿があった。
「ストラさんいつからそこにいたんですか?」
「学園長から本日はもう遅いのでこちらの宿泊施設にお泊り頂くようにと手配されておりましたのでそのお迎えに参りました」
「宿泊施設?」
「はい、ここでは住み込みで魔術を学ぶための学生のための寮とは別に外部からお越しいただいた方のための施設も揃っていますので、そちらに本日はアラザキ様をご案内させていただきます」
どうやら今日はここで一夜を過ごすことになりそうだ。なるべく早く帰りたかったが、せっかくそのような場所が用意されているというのだ。今回はそのご厚意に甘えるとしよう。
「こちらです」
そうストラさんが歩き出そうとした時だった。
「ん?」
なにやら遠くにまるで何かを囲うようにしてがやがやと人だかりができているのが目に入る。
「あれは?」
「いったいなんでしょうか……」
気になった俺達はその人だかりに近づいてみる。
人と人の隙間から視線を凝らして人だかりの視線の先を見てみる。
するとそこには――――――
「うーん、お主はもっとこうした方が魔力をうまく使えるな。それとこの魔術はもう少しこの過程を大事にした方がいい」
「はい!ありがとうございます!」
「次は私にもご指導お願いします!」
「わ、私にもどうかご助言いただけないでしょうか!」
「お、おいおい我はおまえらの先生ではないんだぞ。そういうことはちゃんとしたここの指導者にだな……」
俺はその光景に目を疑った。その人だかりの中央で代わる代わる言い寄られていたのは俺のよく知る人物だったからだ。
「セ、セルツ!?」
なんであいつがここにいるんだ!?ピィタと一緒にちょっとした旅に出るといっていたはずじゃなかったのか。
「お、主!そこにいたのか!」
セルツが俺に向かいそう叫ぶと周囲の視線が一斉にこちらに向けられる。先程まで騒いでいた生徒のような子供たちも一気に静まり返り、周りからは微かにどよめきが聞こえてくる。
「おま、ちょっとこっち来い!」
その空気に耐えられなかった俺はセルツの手を掴むと強引に引っ張りだし、少し離れた建物の裏まで走った。
「なにやってんだよここで!ピィタと一緒に出掛けたんじゃなかったのかよ!」
「お、落ち着け主よ。私もここに来るのは計算外だったんだ」
「計算外?一体どういうことだ」
「実はピィタと共に人の寄り付かない辺境の地まで行き、そこで狩りの練習でもしてやるかと思っとたんじゃが……あのチビ助少し目を離したすきに勝手に飛んでいきおったもんじゃから慌てて追いかけてたんじゃ。そしたらあのチビ助いつの間にか物凄い速さで飛ぶようになっててのぉ。ずっと後ろをついてはいたんじゃがこの辺りで見失ってしまったんじゃ」
「見失ったって、じゃあピィタは今どこに……」
「それを探そうとしてここに来たんじゃよ。そしたら空から降りるところを見られてしまってなぁ。人の姿に化けていたからよかったもののあんなに綺麗に飛べる人間は中々おらんとか言うて話しかけられてからあの有様じゃ。仕方ないから適当に話を合わせて抜け出そうとしたんじゃがそれが逆効果だったかのう?」
そう言ってセルツはボリボリと頭を掻く。
「それであんなことになってたのか。いや、まぁそれはそれとしてじゃあピィタを探さないと……」
その時だった――――
「ん?今チビ助の声が聞こえなかったか!?」
「え!?どこだ!」
セルツにそう言われ辺りをキョロキョロと見回す。今のところピィタの姿らしきものは見当たらないが……。
「セルツ、本当に聞こえたのか?何かの聞き間違えとかじゃ?」
「いや、確かに聞こえたはずじゃ。というかなんだか近づいてきとる気がするんじゃが……」
セルツは空を見上げた。
「……あ」
そう声を漏らしたセルツの視線の先を俺も見上げる。すると空にうっすらとだが動く何かが見えたような気がした。
「主よ、腕を広げて踏ん張る準備をしろ」
「え?な、なんで」
「いいからそうしていろ」
言われるがままに俺は空を見上げたまま両腕を広げ腰を少し落とす。するとその動く何かはだんだんと大きさを変え、まるでこちらに近づいてきているようだった。
そこで俺は察した。
「まさか……」
「全く心配かけさせおって」
もはやそれが何なのか俺でもハッキリとわかる大きさになり確信が持てた。一直線に主に俺めがけて落ちてくる何か。その正体は―――――
「ぴぃいいいいいいいいい!」
「ピィタ!?」
全力で突っ込んでくるピィタを俺は両腕で掴む。その衝撃に踏ん張ってはいたものの耐えきれず背中から地面に倒れこんだ。
「どわっ!?」
背中から腰に掛けて鈍痛が走る。ある程度直前に減速していたように見えたがそれでもとんでもない勢いだった。
「あぁー……腰がぁ……」
痛みに悶える俺とは裏腹にピィタは嬉しそうに俺の腕の中で翼をバサバサと広げている。
「こらチビ助!おまえもう少し加減というものをせんか!」
セルツがそう叱りかけるがピィタはあまり気にしていないようだ。
「ゲホゲホ……ピィタ大丈夫だったか?」
「ぴぃいいいいい!ぴぃ!ぴぃいいいいいいい!」
どうやら怪我はなさそうだ。背中を軽くたたいてやると嬉しそうに鳴き声をあげている。体を起こしよろよろと立ち上がると俺は砂まみれになった背中をはたきながら改めてピィタを抱っこする。
「とりあえずどっかに行ってなくてよかったけど……これからどうするんだこれ」
まさか二人ともここまで来るとは思ってなかったのでこれからどうしようかと考えようとしていたのだが……。
「アラザキ様……これは一体どういうことですか?」
いつの間にかストラさんがその様子を見ていた。
「あ、もしかして……いちど我と離れすぎたからチビ助の姿が見えてるのか?」
「え!?」
「ぴぃ?」
ストラさんは固まったまま動かない。その視線はピィタに釘付けになっていた。
「ッスーーーーーーーーーーーー……」
俺はそんな彼女に対してごまかすように深く息を吸い込むことしかできなかった。




