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転送

結局俺はストラさんの頼みを断りきることができず彼女の言う学院のある都市、‘ガーデン’という場所へと向かうことになった。その前に色々と準備や家にいるみんなにそのことを伝えるため一度家に戻らせてもらうことになり足早に城から自宅へと戻ったのだが……。


「……ということだから少しの間、家を空けることになるんだけどみんな大丈夫か?」


「ふむ、事情は分かったが本当に主一人で大丈夫なのか?やはり我々も一緒に行った方が……」


「ぴぃいいい……ぴぃいい……」


家で待機していたみんなに事情を話してみたもののセルツとピィタはどうやら俺が一人で向かうことには反対らしい。ピィタに関しては俺にしがみついて離れないし、セルツも明らかな不満顔である。


「私は大丈夫ですけど……でもこの体の状態で一人でこのお家を任されるのは少し不安があるのも確かですね」


フラウは一人で向かうことにはそこまでの問題は感じてなさそうだが、俺が家を空けることに対しての不安は残るようだ。確かにこの姿では一人ですべての身の回りのことをこなすのは難しいだろうなぁ。


「そうだよなぁ。今までもなんだかんだみんな一緒に行動してたし完全に離れ離れになるのは初めてだもんなぁ」


だけど、ストラさんにあんなこと言っちゃった手前こんなとんでも面子のオンパレードを一緒に連れて行くのは難しいだろう。いや仮に連れて行ったとしてもまた色々質問攻めにされる未来しか見えないから厳密には俺がそれが嫌なだけなんだけど……。


「最悪私はしょうがないにしてもピィタだけでも一緒に連れていくことはできないのか?」


「うーん……さっきも話したけど今回のこの件に関して一応ピィタのことも関りがないわけではないから万が一にでも彼女にピィタのことがばれたらかなり面倒なことになるんだよ。もちろん俺だって連れて行きたくないわけではないんだけど今回は色々不都合が多すぎてなぁ」


そう説明しながらピィタの頭を撫でてやる。気持ちよさそうに喉を鳴らし顔を胸にすりすりと擦りつけてくる仕草を見ると心が揺るぎそうになるが、やはりこの子のことが無闇にバレて問題が起こることは極力避けたい。


そう悩む俺を見てセルツは諦めたようにため息を吐いた。


「まぁしょうがない。お主も我々のことを考えてそう決めたのだろうからこれ以上考えても仕方あるまい」


「そうですね。それにご主人様もずっとお帰りにならないわけじゃありませんしこちらのことはなんとかなりますよ!」


「……本当に大丈夫なのか?」


自分から言っといてこんなこと言うのもどうかと思ったがやはり心配なことに変わりはない。なんとかいい方法はないだろうか?と、考えた結果俺はふと一人ある人物が頭に浮かんできた。


「頼んでみるだけ頼んでみるか……」








それから少しして、俺が城に戻ったのはもう日も昇りきりそうという頃だった。結局あの後俺はこの国で交流のある数少ない人物のうちの一人であろうベイㇽの家を訪ねた。詳しい事情を話した後少しの間だけ家の面子を見ててくれないかとお願いしたところフラウはベイルの家でお世話になることになった。


そしてセルツとピィタはというと、これを機にピィタに色々とドラゴンとしての生き方や様々な知識を教えるためにちょっとした旅に出るといってそのまま出かけて行ってしまった。そこまで遠くには行かないしいつでも帰ってこれるから安心しろとは言っていたけど……なんだかちょっと不安だ。これでピィタが滅茶苦茶強そうなドラゴンにでも変わっていたらどうしよう……。


と、多少心配事もあるがまぁなんとかなるだろう。それに誰かの心配ばかりしているような状況でもないようだし。


「ではアラザキ様、こちらの方へ」


城に戻った後、俺はストラさん達に案内されて広い中庭のような空間に来ていた。そこには石畳が敷かれた四方形のスペースが用意されており、そこになにやら大きな模様が白い塗料で描かれていた。そんな場所に俺は今まさに案内されようとしてる。


「あの、ストラさんこれは一体?」


「これはそうですね……わかりやすくご説明しますと物体を転送する魔法陣と言えばいいでしょうか。これを使い今から我々とアラザキ様を学院のあるガーデンまでお送りいたします」


物体を転送する?またすごいことを突然言われたような気がするがそんなこと可能なのか?

いや、でも魔法陣って言ってたってことはこれも魔術の類の一種ってやつなんだろう。


「つまりこれはこの場所とその学園を繋ぐワープ装置みたいなものってことですか?」


「はい、そのような認識でも問題ないと思います」


まさか生きているうちにワープという行為を実際に体験する日がこようとは……。昔よくやっていたゲームでも便利機能としてこういうのがあったがいざそれが目の前にあると分かると少しだけ興奮してしまう。一体どういう感覚になるのだろうか。


「では早速、転送を開始します。全員お互いの手を繋いでください」


言われるがままに魔法陣を囲むように立った俺とその他数人はお互いの手と手を繋ぐ。緊張しているためか自分の手は少し汗ばんでいるように感じたためストラさんと手を繋ぐのは少しためらったのだが、そんなこと気にしないかのように彼女の方からしっかり握られてしまった。


「転送する前にアラザキ様に一つだけお伝えしておきたいことがあります」


「はいなんでしょうか?」


「これを初めて使った人間は向こう側に着いたとき一瞬の間だけ平衡感覚が不安定になったり軽微の不快感に襲われることがありますのでご注意ください」


「え、そ、そうなんですか……」


それを聞いて俺が昔、無理やり絶叫マシンに乗せられた時の苦い思い出が蘇る。内心ワクワクしていたテンションが一気に下がり代わりに不安が押し寄せてくる。


「それではいきます!」


ストラさんはそれを合図に俺には聞き取れない言葉で何かを唱える。それに続くように他の人達も同様の言葉を唱え始める。すると床に描かれた模様が突如強く光りだし周囲の光景が見えなくなるほどの白い光が自分たちを包み込んだ。

一体何が起きているのか理解などできるはずもなく俺はあまりの眩しさに目を閉じる。それによって感覚が敏感になっているのかまるで自分が落ちているのか浮かんでいるのかわからなくなるような奇妙な感覚が体を襲う。内臓が浮くような落ちる感覚。しかし、手を繋いでいるのでしっかり立っている感覚もある。いや、もしかしたら今自分の足元に地面はないのだろうか?確かめたいがそれも叶わない。俺は繋いでいる手を必死に握りしめることしかできなかった。





それからどれくらい時間が経ったのだろうか?数分かもしれないし数十分だったかもしれない。突如俺の体を襲っていた不思議な感覚が薄れていくのを感じる。恐る恐る目を開けると先程までは眩しくて直視することもできなかった程の光が弱まり、うっすらとだが周囲の景色を見渡せる程になっている。そして完全に光が消え去り自分の足元に地面があることを確認できるようになる頃には俺はここが全く見たことない知らない土地であることを確認していた。


「お疲れ様でしたアラザキ様。そして、ようこそガーデンへ」


ストラさんにそう言われ改めてここがあのガーデンと言われる場所だということを認識する。目の前にはまるで西洋の建築物のような複雑で巨大な建築物の集合体と同じような色のローブの服を身にまとった様々な人達がこちらを気にするようなこともなく行きかっている。


「ここが……ガーデン」


モートリアムとはまた違う歴史のありそうな建築物やなにより道を歩く人々の人相や服装などががらりと変ったためか本当に海外にでも来たのかと錯覚してしまいそうになる。


「アラザキ様、お身体は大丈夫ですか?」


ストラさんにそう言われハッとなる。そういえば平衡感覚がとかそういう話が合ったっけ。しかし、本当に見知らぬ土地に一瞬で来れてしまったことと全く違う景色に驚いてしまいそんなことは忘れてしまっていた。


「え、えぇなんだか色々とびっくりしてしまってそれどころじゃなかったといいますか」


その回答に安心したのかストラさんはよかったと微笑んでくれた。


「それでは早速で申し訳ないのですがアラザキ様にお会いして頂きたい方のところまでご案内いたします」


そう言ってストラさんは足早に歩きだした。どうやらゆっくり観光できるのは少し時間がかかりそうだ。そう思いながら俺はストラさんに案内されガーデンの地に足を踏み入れるのだった。





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