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生涯で行ってみたい場所と行ってみたくない場所ってあるよね

こうして無事始まったパーティーなわけなのだが、思ったよりもみんな緊張感やぎこちなさは早々に薄れそれぞれが満喫しているようだった。ファリアなんかに関しては身分のまったく違う人と会話するのが楽しいのか自分から積極的にベイル達に話しかけている。もしかしたら自分からこの場の空気を変えるために働きかけてくれたのかもしれない。そういったところはやはり経験の差というものがあるんだろう。


「にしても本当にうまいなこの料理。やっぱり新鮮なものっていうのはいいね~」


そんな周囲に意識を向けつつも綺麗に盛り付けられた料理に舌鼓をうちながら俺は逐一感激していた。テーブルには魚のムニエルのような料理や肉厚な貝類やイカ、タコの出汁が詰め込まれたクリームリゾット。丸々茹でられ半分に割られた巨大な海老に、バジルのソースと味噌の部分で作られた程よい苦味のあるソースがかけられた少し大人な料理などなどバリエーション豊かである。こんなもの向こうの世界で食おうと思ったらかなりお高いフレンチ料理の店とかじゃないと食えなかったんだろうなぁ。一切縁のない世界だったからそう考えるとより一層おいしく感じるわ。


「そうですね、荒崎さんがたくさんいい食材を持って来てくれたおかげで美味しいお食事とこんなに楽しいパーティーを催せて私もすごく楽しいです!」


「そ、そうか?」


ま、眩しい! 屈託のない笑顔が目に痛いです王女様! 本当に嬉しそうだなファリア。なんか今までこんなに純粋な子に本当会ったことないから是非ともこのまま育っていってほしいわ。むしろ俺が守ってあげたくなるわ。……そんなこといえないけどね?


「こんな量の食材自分で買おうと思ったらいったいいくらになるのか……」


「まぁ、そんなことしたら財政難まったなしだけどね」


そう遠い目をして言うベイルとカルラちゃん。あ、こっちには庶民派の味方がいたわ。っていうかカルラちゃんの口から財政難なんて言葉聞きたくなかったよ……。


「確かにねぇ。でも私も荒崎さんとあの時出会えてなかったらこんなすごいところには一生来られなかったんだろうし、そう思うと人生何があるのかほんと分からないものよね」


そんなエストニアさんの言葉にその場の全員がうんうんと頷く。それに感しては俺もすごく同意見だ。なんせ散歩してただけなのにめぐりめぐって今こんな異世界にいるんだからな。多分ここにいる誰よりもよく分からない人生を歩みつつあると思うぞ俺は。そう思っていた時だった……


「ピィ! ピィイイイイ!!」


「ぬお! どうしたピィタ。いきなり飛びついてきて」


突然大人しくしていたピィタが俺の方めがけて飛びついてきた。そして顔をすりすりとこすり付けてくる。


「どうやらピィタは主に会えてよかったという意思表示をしているみたいだな。まぁ偶然だったのか必然だったのかは分からないが、我も主に出会えたことには一応感謝はしているつもりだ」


「ピィイ!! ピィイイイイイ?」


「ふふ、大丈夫だよピィタちゃん。私達もご主人様に出会えたことには感謝してるんだから」


そして再びうんうんと頷く一同。え、なんですかこの空気。そんな急にしんみりされても困るんですけど! やめて! なんかすごくむずがゆくなってくるから!!


「あぁ!! 料理が冷めちゃうぞ! みんなどんどん食べないと!!」


ごまかすために俺は料理を口にかきこんだ。あぁ美味しい! ほんと海鮮最高だわ!! ぱねぇわぁああああ!! 

そんな様子を見てみんなは笑っていたけれども俺はあえて気にせずにどんどん皿の上を空にしていくのだった。







それから数時間経っただろうかという程になってほとんどの料理が食べつくされ、そろそろお開きにしようということになった。ファリアはそれが物惜しかったのかまさかの城に全員泊まらないかという提案をしていたが流石に却下されしょんぼりモード発動中になってしまった。


「まぁまぁファリア様。また先生が皆様とのお席を作ってくださいますって」


「そうだぞファリア。別にいつでも会おうと思えば会えるんだから……な?」


楽しかったのは分かるがここはファリアに聞き分けてもらうしかあるまい。彼女はそんな言葉にしぶしぶと納得し、結局玄関先まで見送ってくれたところで自室へと戻っていった。何度も振り向いて手を振っていたのがなんか可愛かったな。


「さて、それじゃあ帰りますか」


そして城門に向かって歩き出そうと思ったその時、突然イホームに服の袖を引っ張られ軽く後ろにのけぞってしまった。


「お兄ちゃん、悪いんだけどこの後ちょっと時間ある?」


こそこそと耳元でそう言われ俺はなんだか嫌な予感を感じ取った。イホームにそう言われるときって大抵なんかあるときなんだもんな。


「……別にいいけど、なんかあったのか?」


「あ、いや別にそういうんじゃなくてちょっと紹介しておきたいことを思い出して」


紹介? 一体なにを? まぁ、色々疑問は残るもののとりあえず今回は何か事件的なものの匂いはしなさそうなのでいいとするか。


「おーい荒崎! 何をしているんだ? はやくしないと門番の方に迷惑だぞー!」


すでに門を潜り抜けていたベイル達がこちらにそう呼びかけてきた。どうやら話は俺にだけしておきたいみたいだし……。……しょうがない、みんなには先に帰っていてもらうとするか。


「ごめん! ちょっと用事を思い出したからみんな先に帰っててくれないか?」


そう大きな声で返すと彼女達は一瞬首を傾げていたが、隣のイホームが手を合わせて軽く会釈すると何かに納得したのかすんなり了承してこちらに手を振りながら街中へと戻っていった。


「フラウ達も戻ってたかったら先に帰ってていいぞ」


「そうですか? じゃあお邪魔にならないように先に帰ってましょうか」


「そうだな、ほらピィタ行くぞ」


「ぴぃいいいい~」


セルツにピィタを預け全員が城門をくぐり抜けるのを見送った後、改めて俺はイホームに向き直った。


「よし、それじゃあ話を聞こうか? その紹介したいものってのについて……」


「うん、それじゃあちょっと私に付いてきてもらえる? そこで詳しく話すから」


そう言われて俺はイホームに付いて城の中を歩いていくことになった。そこで話すということは何かを俺に見せたいのかな? イホームのことだから魔術の器具関係とかそんなところか? 考えつつも後を付いて進んで行くとだんだん今まで見たことのなかったような通路を通っていることに気が付く。なんだか周囲の明るさも心なしか減ってきているような気もするし……ちょっと気味が悪くなってきたな。


「な、なぁイホーム。俺こんな場所来るの初めてだと思うんだけどここは一体なんなんだ?」


「ここは城の地下牢に続いてる通路よ。といっても一時的に収容者を収監すだけの場所なんだけどね」


「地下牢!?」


なにその物騒な場所。そんな場所に案内されてたの俺!? ふと、通路に取り付けられていた窓の外を見るといつの間にか俺は王宮とはまた別の建物へと移動していたようだった。どうりで見たことないようなところばかり進んでると思ったよ。


「さぁ、後はこの階段を降れば地下牢に到着だよ」


「到着だよって……なぁ、イホーム一応確認するけどその場所って安全なんだよな?」


「もちろん! 城の兵士達の警備も万全だし、特殊な封印魔具を使ってるから確実に脱走なんかもできないしね」


万全ねぇ……。そういう言葉は大抵の場合期待を裏切る形になることが多い気がするんだが、そうならないことを祈るしかないか。

イホームに続いて薄暗い階段をどんどんと下りていく。結構な深さがあるのかしばらくしても段の終わりが見えてこない。一体どこまで続いてんだこの階段は。そう思いながらも黙々と下へと歩いていくとついに階段の終わりがが見え、そこにある重そうな鉄製の扉の前に二人の兵士が微動だにせず立っていた。


「ご苦労様、収容者への面会よ」


イホームがそう言って胸元から何かを出し、見せると兵士たちはすばやい動きで物々しい音を立てながらその扉を開いた。それを見ただけでもう俺は帰りたい気持ちでいっぱいになる。見るからにやばいもんここ。出来る事なら一生知りたくなかった場所だよほんと。


中に入るとまっすぐ伸びた通路を挟むようにして両側にまさしく檻のような鉄策で囲まれた部屋がいくつも並んでいた。よく見てみるとうっすらと埃をかぶっているような場所もあり、そこまで頻繁には使われていない箇所も存在するみたいだった。


「ここって作られてからどれくらい経ってるんだ?」


「うーんと、作られたのは城ができたのとほぼ同じくらいの時だから少なくとも百年以上は経ってるんじゃないかな」


百年以上……。わーお、なんとも年期のはいった場所ですこと。歴史を感じるいい場所ですね。うん、ほんと……できればもっといい場所で歴史を感じたかったなぁ……。

うっすらついた明かりの中を内心ドキドキしながら進んでいくと不意にイホームはある檻の前でその足を止めた。そこだけ何故か城の兵士が一人だけ見張るように立たされており、彼女が何かを話すと兵士は横に取り付いていたレバーのようなものを引いた。すると、その檻の中が急に明るくなりそこに収容されているのであろう人物の姿が鮮明に見えるようになった。


「さぁ、お兄ちゃん。この人がさっき言った紹介したいものだよ」


そう言われておずおずと中を覗いてみる。するとそこにいたのは……


「ん? あれ!? もしかして、ベンダーさん!」


そう、それは先日あの妹さんの暴走でよく分からない世界に一緒に飛ばされ戻ってきた彼であった。


「イホーム、これはいったい……」


「実はねお兄ちゃん、これは一つの提案なんだけど……これから彼にはお兄ちゃんを守る専属の護衛になってもらおうかなと思ってるの」


「…………はぁ!?」


イホームの言葉に俺はただそう返すことしかできなかった。




ベンダー護衛の件の詳細や条件は次話で書かせて頂きます

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