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船体の治療完了!

いままでのあらすじ。ある日不運にも事故に遭い死んでしまった主人公‘荒崎 達也’(あらざきたつや)。しかしそれがその地域を管理する女神的な人物のミスだと言われ、その償いに他の世界に転生させてくれるという。その際荒崎はどんな病気や怪我その他身体的異常などを一瞬で治す力を望み、それを与えられた状態で異世界へと降り立つ。それからというもの色々な人物や生き物との交流を力を使いながら果たしていくことになる。


現在はこの国の治療魔術の使える魔術師という肩書きを持ち舞い込んで来るトラブルを対応することになったりもしている。

コルヌ船長から聞いた話はこうだ。彼女達のこの船は数年前から問題視され始め、海の生態系に影響を与えているとされる凶暴な小型の鮫の群れを定期的に駆除しているそうだ。そして彼女たちはこの国の海域に辿り着く数日前のその日も海の警護にあたっていた。初めのうちはいつもと同じ穏やかな海の上を進んでいたそうなのだが突然船体に向かってくる無数の黒い影を見つけ、慌てて緊急措置をとったという。


「だが、その日はいつもと様子が違った。うちの乗組員が急いで確認したが、あんなに大きな魚影とそれに連なる無数の群れは今まで見たことが無かった。いきなりだったもんでうちの奴らも軽いパニックになっちまって回避行動が少し遅れちまったんだ。そのせいであたしらは完全に奴らに取り囲まれちまってね。急いで抜け出そうとしたらこのざまさ」


なるほどな、こんなにでかい亀に深刻な痛手を与えたんだ。本当に相当な数と大きさのやつがいたんだろう。


「それはなんとも災難だったわね……」


イホームがそう言うと再び船内に苦しげな声が響き渡る。うわぁ……聞いてるだけでなんか可哀想になってくるよ。


「ちなみに今この子の状態はどうなっているんだ?」


俺はたまらずコルヌ船長にそう尋ねた。


「正直言うとかなり良くないね。最悪なことにやつらの猛毒がある尾びれの針が無理やり砕かれた甲羅の内側にある本体部に何本も刺さっていて、一晩毒を体から抜こうと色々頑張ってはみたもののこいつは弱っていくばかりさ」


うげっ! 毒針とかもってんのかよ。しかもそれが刺さっちゃってるとか……想像しただけで鳥肌がたってくる。こんな呻き声をあげているんだから相当今もこの子は苦しんでるんだろう。


「なぁイホーム。今の話を聞く限りさっさと治してあげたほうがいいと思うんだけど」


「そうね、確かにそうなんだけどその前に彼女に確認しておきたいことがあるの」


そう言ってイホームは突然、懐から一枚の紙切れを張り付けた薄い木の板を取り出した。


「コルヌ船長。聞きたいのだけどもしあなたのこの船の治療をすることが出来ると言ったらあなたはどうするかしら?」


イホームのその言葉を受けたコルヌ船長は怪訝な顔でこちらを見つめる。っていうかイホーム急に何言い出してんだ?


「どうするって……そんなの決まってるじゃないか。もちろんお願いするさ」


「そう……じゃあまずはこれを読んでちょうだい」


イホームは先程取り出したあの木の板をコルヌ船長に渡し、ニコニコと笑顔を向けた。え、なに? なに渡したのこの人は。そして、その満面の笑顔に裏に何隠してんの!?


「おいイホーム、あれ何なんだよ?」


「うん? あれはねぇ……今からお兄ちゃんがすることに対して他言無用を誓ってもらえるか? とかそれからこの行為を行う代わりにあちらにしてもらう見返りの交渉なんかについてとか、その他にも色々書いてある紙だよ」


えぇ……いつの間にそんなもん作ってたんだよこいつは。いやまぁ大事だけど。そういうのは大事って分かってるけどね……なんか生々しいわぁ。


「ってかそんなもんがあるってことは最初から船長に見せる気満々だったんじゃ……」


「……てへっ!」


うわぁ、なんかもう色々と懐かしいリアクションというかなんというか。ちゃんと頭にこぶしをぶつけて舌とかペロッと出してるところが逆に様式を守ってて新鮮に感じるわ。





「なるほど、あんたたちの要求は大体分かった。でも正直言ってこいつを治せるって言うのはにわかに信じがたいね」


イホームに渡された紙をひらひらと揺らしながらコルヌ船長はそう言った。この船の乗組員総出で応急処置を一晩中したのにどうしようもなかった状態なんだ。向こうからすればそう思うのも無理はないだろうな。


「でも、本当にあんた達がこいつを……あたしらの相棒を助けてくれるというのならこの条件、全部承諾させてもらうよ」


そう言った船長の言葉に周りの船員達も力強く頷いた。それを見たイホームと俺は視線を交わし、それに返すように頷き返した。


「交渉成立だな。それじゃあ早速治療に取り掛かるとしますか」


すぐに楽にしてやるから、もう少しだけ我慢してくれよ。俺はそう気を引き締めて船の甲板部に再び戻った。





さて、それじゃあさっさと始めますか。大体中央部分程に立った俺は右手を掲げ意識を集中させる。頭の中でこいつが元気になった姿を想像し、深呼吸すると右腕が青白く光り始めた。それを見て後ろの方で見ていたコルヌ船長達がざわざわと声を上げている。


「あれは……どうなってるんだい?」


「私にも原理は分からないの。でも、あれが彼の力。全てを癒す奇跡の力よ」



そして、タイミングを見計らい俺はあの言葉を叫んだ。


「レイズ!!」


その瞬間、船体全域が暖かな黄色い光に包まれる。徐々に明るさを増しながらも広がっていく光は次第に少しずつ巨大な亀の体の中へと吸収されていく。


「姉御!! 一体何が起こってやがるんです!!」


「あ、あたいが分かるわけないだろう!!」


そんな現象にあたふたするコルヌ船長達。どうしていいのか分からずにひたすら視線をあちこちに彷徨わせている。そんな中、一人の船員が船から身を乗り出す。その瞬間、目をむき出し酷く驚愕したような表情で彼は大声をあげた。


「船長! 船の甲羅と傷跡が消えてってますぜ!?」


「なんだって!!」


コルヌ船長も慌てて船から身を乗り出し船体を隅々まで見て回り始める。その時には俺が放ったあの黄色い光はほとんど船体に吸収され終わっており、さっきまで響いていた苦しそうな呻き声は穏やかな呼吸音へと変わり始めていた。


「ふうぅ~、無事完了かな」


改めて周囲を確認し、おかしな挙動がないかを確認した俺はゆっくりと息を吐いた。そんな俺を見て船長達は口を開けたまま呆然としていた。いやぁ、いつも思うけどその顔を向けられたら俺は一体どういう反応を返したほうがいいんだろう。いっそのことドヤ顔でもきめてみるか? 


「一体あんたは……何をしたんだい?」


「さっきの書類に書いてあったでしょう? これが彼の能力よ。この子はもう大丈夫」


イホームはそう言ったもののそんなことすぐに信じられるはずがないだろ。明らかに動揺しまくっているしな。


「と、とにかく今すぐ船体を調べるんだ。あいつら全員船に呼んできな!!」


コルヌ船長がそう声を荒げると船員たちは大慌てで小型ボートへと走っていった。俺達も一緒に一度船を降りてから、彼らがこの子の状態確認をし終えるまで港で待つことにした。




「なんかすごいことになってるな」


数十名の男達が船の隅々までをくまなく調べている光景を見て俺はそう呟いた。よっぽど信じられないんだろうな、あそこまでするってことは。


「まぁ終わるまで気長に待つしかないよ。はい、これでも飲んでのんびりしてよう」


そう言ってイホームは小さい水筒とガラスのコップを背中のバッグから取り出し、飲み物を注いでくれた。


「おぉ、ありがとう。でもこれ何の飲み物だ?」


「これは城の中にある林檎畑から今朝採ったものを搾った100%の果汁ジュース! 私のお気に入りなの」


へぇー、城の中にそんな場所があったんだ。あそこは敷地が広いからまだ見れてない場所もたくさんあるんだろうな。そう思いながらそのジュースを一口飲んでみる。すると口の中が一瞬でフルーティーな香りに包まれ、程よい林檎の芳醇な甘さが広がっていく。


「うん! これはうまいな!! 今まで飲んできたフルーツジュースの中で一番美味しいかもしれん!」


そもそも100%果汁の飲み物をそこまで飲んだことが無かった訳なんだけど、それでもこんなに甘い林檎のジュースは初めてだ。100%の力ってすげぇな。


「でしょでしょ! いやぁこれのよさが分かってもらえて嬉しいよ私は」


うんうんと頷き満足げにイホームは笑う。確かにこれはいいものだ。また機会があったら飲ませてもらおうかな。そんなことを考えつつジュースをちびちびと飲みながら船長達が帰ってくるのを待つ。暖かい日差しの中ボーっとしていたその時、ふと俺はあることが気になりイホームに質問をした。


「そういえばさっきイホームが渡したあの紙に見返りの交渉条件が書いてあるって言ったよな? 一体どんな内容だったんだ?」


「んーとね、彼女達が言ってた凶暴な鮫の話覚えてる? 実は最近その鮫が他国との貿易船や遊覧船なんかを襲ってこの国にも少し被害が出始めていたの。もちろんこっちもなんとか対処をしようと色々動いているのだけど、それでも国の防衛隊だけでは手が回らないこともあってね……だから今後、彼女達の海族グループにもこの近辺の海域の警護を積極的にしてもらうようにっていう条件をだしたんだ。あんなに巨大な船を率いる海族たちなんだもの。最悪いてくれるだけでも多少の安心感が生まれて他国との貿易もより安全に行えるようになるでしょ?」


ってことはつまりイホームはこの辺の海の治安を守るためにコルヌ船長達の船団をスカウトしたってとこか。なんだ意外とまともな事書いてたんだな。

なんかもっと無茶苦茶なこと要求してるんじゃないかと一瞬思ったけど。助ける代わりに色々実験させてほしいとかなんとか。


「確かにあんだけでかいのが見張っててくれれば何かと抑止力にはなってくれそうだけどな」


ひょっとしたらこの海域のちょっとした名物とかにもなって意外と観光客とかも来るようになったりしてね。遠くから見ると意外とかわいい顔してるし、あの亀。


そんなことを考えながら更に数十分ほど待つと、海から小型のボートが一隻こちらに向かってくるのが見えた。よく見るとコルヌ船長と先程一緒に乗っていた船員数人が乗っている。


「どうやら確認し終わったみたいだな」


そして、船着場の桟橋に到着したボートから降りた彼女達はさっきの時とはうって変わって明るい表情でこちらに向かってきた。


「すまないね、待たせちまって。とりあえず船を隅々まで調べさせてもらったけど……驚いたことに傷一つ残っていやしなかったよ!」


そう言うとコルヌ船長は俺の肩を少し強めに叩いた。


「あんた、本当にとんでもない男だね!!」


バシバシと肩を叩きながら嬉しそうに笑う彼女と船員達。どうやらついに俺の力の効果を信じてくれたようだ。


「そ、それはどうも……」


ってか痛い! 肩、肩はずれるから! 俺は女性のものとは思えない程の力に苦笑いしながらも歓喜する彼女達にホッと胸を撫で下ろしたのだった



大雑把なあらすじを前書きに載せてみました。よろしくお願いします。

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