亀の船
更新本当に遅れました。申し訳ないです。またぼちぼちとよろしくお願い致します。
翌朝、早速イホームと合流した俺は一緒にあの港町のような場所を目指していた。
「なぁイホーム。一応聞いておきたいんだけど、今日俺がこの格好をしていることに意味はあるんだよな?」
そう言って俺はいつぞやにもらったあの変装グッズ一式のローブを指差した。実は、昨日もらった連絡の時にこの服を着てくるようにと指示されていたのだ。
「もちろん、そうじゃなかったらわざわざそんなこと言わないよ」
ですよねー……。ということはこれから俺はこの国の恐らく外部から来た誰かと会うことになるんだろう。
「どうやらお兄ちゃんも目撃していたみたいだけど、昨日うちの国が管理している港に緊急停泊の要請をだしてきた海族船がいてね。それでどうしたのかと調査をしたところ、どうやら船に異変があったみたいで手をかして欲しいと頼まれたそうなんだよ」
「船に異変? 船ってあの大きな亀みたいな奴のことだよな?」
「うん、正確には‘海進亀船’(かいしんきせん)って言うんだけど、まぁ詳しくは現場についてから説明するね」
いったい何があったんだろうか。一抹の不安を抱えながらも俺達は数分後港に到着し、例の船が停泊している近くの船着場に案内された。
港の管理者に着いていくとそこには海の方角を見つめたまま立ち尽くしている数十人の人影がずらりと横に並んでいた。
「うん? 姉御! 誰か来たみたいですぜ!」
「あぁ? 誰かって一体誰だい?」
俺達に気がついたその人影達がいっせいにこちらに振り向く。何というか、いかにも海の上で生活してますというような風貌や格好をしているのを見るにあの船の乗組員かなにかではないかと予想ができた。
「あんたら、一体何者だい?」
そう言って俺達に向かってきたのは先程姉御と呼ばれていた一人の女性だった。所々引き締まった筋肉を露出させた少々大胆な格好と茶色味がかったすこしぼさぼさな髪。そして印象的な大きい三角帽子をかぶった彼女は鋭い視線をこちらに向け、露骨な警戒心を見せていた。
「私達はこの国の王族関係者よ。昨日あなたたちが要請してきた停泊の許可をするために船内の調査をさせてもらった際、そちらが船に異常事態が発生しているとの報告を受けたので調べに来させてもらったわ」
イホームがそう淡々と言うとそれを聞いた彼女はすぐさま睨みつけるような視線を戻し、表情を柔らかく崩した。
「おっと、それは失礼したな。この国のお偉いさんだとは知らなかったもんでね。私は‘コルヌ’。あの船の船長を務めてるもんだ」
女性が船長の船なんてあるのか。自分としてはあんまり聞いたことがないし、イメージとしては船長ってもっと男くさかったりむさくるしそうな人がなってる感じが強い。
「私はイホーム、そしてこっちがジアート。国の専属魔術師よ」
イホームに紹介され俺は軽く会釈をする。すると彼女は俺を見て、ふーん魔術師ねぇ……と珍しいものでも見るかのようにまじまじと見つめてきた。
「さて、それじゃあさっそくだけど問題の船まで案内していただいてもいいかしら?」
「あぁそうだな。おい、おまえら! ボートの用意をしな!」
「「「へい!!」」」
コルヌ船長の掛け声でテキパキと動き始めた船員達は即座に準備を整え、俺達は小型の木製ボートであの巨大な船に乗り込んだ。
「近くで見るとほんとにでかいな」
大人しく佇んでいる亀の甲羅のすぐ横にボートを泊め、上から垂れ下がっているはしごをのぼりどんどんと船員が乗り込む。
「ここまでの船を見るのは始めてかい? まぁこいつはそんじょそこらの船とは違うからね。驚くのも無理はないさ」
どこか自慢げにそう言いさくさくとはしごを登る船長。さすがに慣れているからか、ものの数十秒で甲羅の上にたどり着いていた。
「なぁ、イホーム。俺って高所恐怖症だって教えてなかったっけ?」
「あれ? そうだったっけ? まぁ大丈夫だよ。仮にもし落ちたとしても下は海だから」
いや、そういう問題じゃないんだけど……。俺は一つ大きなため息をつき、いやいやながらも覚悟を決めはしごを登りはじめた。
数分後、俺は息を切らしながら何とか甲羅の上の甲板にたどり着いた。船に乗るだけでこんなに苦労するとは思わなかった。
「はっはっはっ! あんた大丈夫かい?」
そんな俺の姿が面白かったのかコルヌ船長は声を上げて盛大に笑っていた。どうやらなんとかウケはとれたようだ。俺はそんな余裕ないけどな。
「それで、異常とやらは一体どこにあるんだ?」
「あぁ、それならこっちだ」
コルヌ船長の案内に従い甲板から甲羅の部分につながるように付いている扉をくぐり、その中にあった階段を下っていくとそこには広く一直線にのびた廊下といくつかの船室。そして大きなのぞき窓が所々に存在していた。
「甲羅の中にはこんなスペースがあったのか」
「ここはこの船の重要な部分が詰まってるいわゆる心臓部的なもんだ。本来なら船員以外の部外者は簡単には入れないんだが今はそんなこと言ってる場合じゃないからな」
なるほど。ここはこの船にとってとても大事な場所なのか。そんなところに案内されるとは中々貴重な体験をしてるな。
「ほら、あんた達聞こえるかい? この声」
「声?」
彼女に言われて俺達は目を見合わせながら周囲に意識を集中させる。すると、少ししてどこからともなく何かのうめき声のようなものが廊下の中に
こだまし始めた。
「今の聞こえたか?」
「うん、確かに聞こえた。これってもしかして」
「そう、こいつが苦しんでる呻き声さ」
眉をひそめ苦々しい表情で彼女はそう言い、のぞき窓から外を見つめる。その視線の先には海面から半分ほど頭をだした亀の顔が覗いていた。
「まさかこんなことになるなんて……本当についていなかったんだ」
「ついていなかったって……一体何があったんですか?」
俺がそう尋ねると彼女は一緒に来ていた船員の数人と顔をあわせ、若干俯き気味になりながらもその理由を話し始めてくれた。




