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港町……というか港町もどき?

ど、どうしよう。これって普通に考えればまずい状況だよな。海の荒くれどもが街に向かってやってきてる。しかも、船は一隻じゃなくて数隻。もしあれが俺の知ってる海賊と同じようなものだとしたら、これから起きるのは強奪やら殺戮やら誘拐やらの最悪な連鎖だろう。そんでもって、その中にもれなく俺も巻き込まれたりしちゃったりなんかしたりして、そのままバッドエンド一直線の人生ゲームオーバーが!!

 

……いやいや、待て。冷静になるんだ俺。もしかしたらこの世界の海賊っていうのは、また違う認識なのかもしれない。とりあえず慌てるのはそれを確認してみてからにしよう。


「なぁ、フラウ。ちょっと聞きたいんだけど、あの船ってひょっとして何かまずいもんだったりするのか?」


「まずいものといいますと?」


「えーっと……例えば凶悪な奴が乗ってるとか、後は危険なものを積んでるとか? とにかくこっちに対して被害を被るような存在じゃないのかってことだ」


「そうですねー……私も詳しくは知らないのでどんな人が乗ってるのかとか何を載せているのかは分からないのですが、確か‘海の治安を守るために結成された組織’だということだったと思います」


「ち、治安を守る?」


フラウからそう言われ俺は思わず眉間に皺を寄せてしまった。聞いた話ではあれは世界各地の海域の平和を常に見守るために、そのほとんどを海の上で生活しているような部族たちであるらしい。え? この世界の海賊ってそういう感じなの? まさかの正義側についてる感じなの? いや、それならそれで大いに結構なんだけど…………うん、思い込みは良くないってことでまぁいっか。


「じゃあ悪い奴らじゃないってことなんだな?」


「恐らくそうだと思います。その証拠に周りで見ている人達もそれほど動揺しているようには見えませんし」


あぁ、なるほど。確かに言われてみれば、みんな驚いてはいるけど慌ててるような感じじゃないし、どちらかというと普段見れない珍しいものを見れたときのような反応をしている気がする。例えるなら街中で偶然有名人とかを見つけた時みたいな感じだな。


「ぴぃ!? ぴぃいいいいい!!」


「うおお、どうしたピィタ?」


そう思っていた時、背中に抱きつきながら海の方を見ていたピィタが急に興奮したように羽をばたつかせた。


「主! あれを見ろ!!」


「え? なになになに?」


セルツが慌てて指差した方向には変わらずあの海族船達の姿がある。でもよく見てみれば何か様子がおかしい。なんか妙に揺れてないかあの船。まるで上下にバウンドするかのように不自然な動きをしている船体はとんでもない程の違和感を放ちまくっていた。こんなに穏やかな海であの船をあそこまで揺らすほどの波がたっているとは思えない。もしかして何かトラブルでも起きてるんじゃないだろうな。どんどん近づいてきてるけど本当大丈夫か?


そう思った時だった、突然船体が勢いよく上向きに傾き始め周囲の海面が凄まじい水しぶきをあげていた。それだけでも驚いていた俺だったが、更にそこからゆっくりと現れたとんでもない光景に、もはや空いた口がふさがらない状態になっていた。


「嘘だろ……」


そこで見たのは海面から離れ上空へとあがっていく船体と、その下からそれを持ち上げるように浮上した巨大な亀のような生き物だった。そいつの背中にまるで船が乗せられているような状況に変化し、そのままこちらに向かって進んできている。しかも、他の船も同じように下から巨大な化物生物を出現させ、一番大きな船の後ろに続くような形でこちらの方へと向かってきていた。


「ほう、中々壮大なものだな」


「ぴぃいいいいいいい!!」


あれが壮大レベルで済んじゃうんだなこいつらは。まぁ己の存在がそれと同レベルくらいなんだろうし、別におかしいとは思わないけど……。にしてもあれはやばすぎだろ。何食ったらあんなにでかくなんだよ。っていうかあの船一体どうなってんの? 下の奴が出てきてきからほとんど置物みたいに見えてきたけど、もしかしてそっちは飾りですとかそんなオチじゃないよね。


「あ!! ご主人様見てください! 船が向きを変えましたよ!」


「うおぉ、本当だ。でも、どこに行くんだ?」


進路を俺から見て右側に変更した船達の行く方向を見てみると、ここから少し離れた所にちょっとした建物の集合地帯と船着場のような場所があるのが見えた。どうやらあそこを目指しているみたいだな。


「あれってこの国の港か何かでしょうか?」


「うーん、見た感じだとそうみたいだけどなぁ。そんなに遠くないようだし、せっかくだからちょっと寄ってみるか」


「ぴぃいい!!」


なんだかんだ言ったけど、あんなすごいものが間近で見られるかもしれないという純粋な興味があった俺はとりあえずその場所に行ってみることにした。






そして、海岸沿いに歩いていくこと十数分程して俺達は目的地にたどりついた。どうやらフラウの言っていたことは当たっていたらしく、ここは他国からの輸入や自国からの輸出を取り締まったり、船の管理や保管をしたりするための施設が集まった港のようだ。そして、そんな中には小さいながらも宿泊ができる宿屋があったり趣のある飲食店が並んでいたりしてちょっとした港町……というか港町もどき? になっている場所も存在していた。


「こんな場所もあったんだな」


そんでここにいる多くの人達はやっぱり船乗りの人とか後は漁師とかなのかな? 街中ですれ違う人よりも全体的にガタイがよかったり、個性的な格好をしている人がたくさんいるのはそういう事なんだと思うけど。そう考えながら歩いていくと、途中に矢印とその先に何があるのかが書かれた看板が一つ置かれていることに気がついた。


「船着場はあっちみたいですね」


「先程の距離からしてあの船は既にこの場所に到着していると思うが……さて、あのでかさでどうなるのか見ものだな」


「ぴぃ!!」


「一応言っとくけど見るだけだからな? もういい時間だし、少し遠くから見たらすぐ帰るぞ」


何をしでかすか分からないので念のため俺は釘を刺しておく。その中でも特にピィタは一番心配なので、しっかりと腹の前でホールドしながら俺達は船着場へと向かった。


近づいて行くに連れて周りの空気が徐々にざわついたものへと変わっていく。やっぱりこんなことは滅多にない事態なんだろう。……やばい、ここまで来てなんだけどやっぱり大人しく家に帰っておけば良かった気がする。好奇心ほど慎重に扱えって偉い人も言ってたし、もしかして俺やっちまったかもしれん。しかし、もう時すでに遅し。目の前には海とそこに飛び出すように作られた波止場。そしてそこに集まった人達が見えてきていた。


「あれ? でもあの船の姿が見えないな」


「あれだけ大きければここからでも見える筈ですよね」


どこに行ったのかあの大きな亀のような生き物の姿は今のところ確認できない。もしかしてまた進路を変更でもしたのか? そう思いながら歩いてきた建物の間を抜け、海全体が眺められる場所に出る。すると、その謎はすぐに解けることになった。


「主、あそこを見てみろ」


セルツがいち早くそれに気づき、指をさした方向を見てみるとあの船達がここから少し離れた場所でピタッと停止していた。


「うっわでか!!」


多少の距離はあるものの、海岸で見たときよりも更に近い所でみるそれはまさに圧巻の一言。なんだよあれ、某怪獣映画に出演してても違和感ないんじゃねぇか!? いや、というかあんなのこの船着場のスペースに絶対納まらないって!! もしこっちに来たら確実に色々破壊されるわ!


「ぴぃいい!? ぴぃいいいい!!」


「おぉ、私の体よりも大分大きいな!」


「あ、あはははは……セルツさんは流石ですね」


うん、あれを見て自分の体格と比べてみた感想を言えるのはきっとこの世界でセルツ一人だけだろうな。何も事情を知らない人が今の聞いたら、なにを当たり前の事言ってんだこのバカはとか思われそう。


「でも、あんな所で止まったまんまでこれからどうするんだ?」


あの様子じゃこれ以上近づいてきそうな気配はない。まさか、あそこにこのまま停泊でもするつもりなんだろうか? 


「ん? いやまて主、何かこっちに向かってきているぞ」


「え? マジで?」


セルツに言われ船の方をもう一度よく見ると、その影から何やら小さなボートのようなものがいくつか姿を現した。あれに乗ってるのって多分船員の人達だよな。…………どうしよう。そろそろ離れた方がいいかな。何か変なことになったら嫌だし、このままここにいても別にこれ以上何もすることないしな。


「よし、みんなそろそろ帰ろう!」


「え? もういいんですか?」


「あぁ、これ以上関係ない俺達がここにいても邪魔になるだけかもしれないだろ?」


実際この後のことはこの港の管理者的な人達がやるんだろうし、部外者はさっさと立ち去るのが賢明な判断だろう。


「それもそうだな。私も海風でべたついた鱗を早く綺麗にしたいし」


「ぴぃいいいい……」


「私も毛並みが少しパサパサしてます……」


俺も海で遊んじゃったから早く風呂に入って体をさっぱり洗い流したい。今日はピィタも海水に浸かったからできればちゃんと洗ってやらないとな。


「それじゃあさっさと帰るか」  


そんな訳で俺達は、最後にもう一度船の様子を軽く確認してからその場を後にすることにした。







それからしばらくして、やっと家に帰ってきた頃には既に日が落ち、辺りは真っ暗になっていた。いやぁー疲れた!! あんなことがあったせいで思ってたよりも遅くなっちまったな。


「あ、先に風呂入りたい人は入っちゃっていいぞ。そんでピィタ、お前今日は一緒に風呂入るか?」


「ぴぃいい! ぴぃいいいいい!!」


おぉ、嫌がるかもと思ってたけど意外にも喜んでるみたいだ。


「私は洗浄魔法を使えばいいから大丈夫だ」


「それじゃあ私、先に失礼しますね」


フラウはそう言って風呂場へと向かっていった。一応体を流すのにセルツも一緒に付き添ってもらったのでリビングには俺とピィタの二人が残った。椅子に座り、体をリラックスさせながら今日のあの出来事をイホームに報告しておこうか考える。別に俺が一々言わなくてもいいことなのかもしれないけど、どうしようか。そう思った時だった。突然ポケットに入れておいた疎通石が振動し始めた。慌てて取り出し、俺はテーブルの上で叩くとその呼び出しに応じた。


「はい、荒崎です」


「あ、お兄ちゃん? イホームだけど今大丈夫?」


「うん、大丈夫だけどどうした?」


「いやーそれがさぁ、今日ちょっと面倒なことが起きちゃって明日私のところに来て欲しいんだよね」


「面倒なことってなんだよ……」


すげー行きたくねぇんだけど……。もう早速その要求お断りしたいんですけど。


「うーん実はさっき報告があったんだけど、どうやらうちの国に他国の海賊船が緊急停泊してるみたいでさぁ。それでちょっとお兄ちゃんのお力を貸してほしいなぁなーんて思ったわけで」


「…………」


「ぴ、ぴぃい?」


や、やっぱり……俺の嫌な予感は本当に当たりやすいんだよなぁ。心配そうに見てくるピィタの頭を撫でながら俺はつくづくそう思うのであった。

 

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