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もっと仲良くなれるためにも

さて、まさかの来訪者がやってきた訳ですが……この空間は一体なんなんでしょうか? えーまず美人姉妹の料理人、そしてドラゴンと元人間の不思議生物、それからそれからこの国の王女様。…………うん、最近のおとぎ話でもなかなかない組み合わせなんじゃなかろうか? というか面子がカオスすぎてここだけ見てもどうしてこうなった感が拭えないよな絶対。


「あ、あの荒崎さん。もしかして私お邪魔でしたでしょうか?」


全員が何故か押し黙っていた空気に耐え兼ねたのかファリアは俺にそう聞いてきた。その言葉にベイルとカルラちゃんは微かに体を跳ねさせる。まぁ人が人なだけにそういう反応しちゃうよね。というよりむしろ俺がおかしいんだもんな。


「いや邪魔ではないけど……城から出てきちゃって大丈夫なのか?」


いくら俺達が知り合いで護衛の兵士達なんかも同伴とはいえ、そんな気軽に街中に出て行っていいなんてことは多分ないよな? 仮にも王族なんだしそういうことには厳しいもんだとおもうんだけど。


「はい、お父様からの許可はちゃんと頂いてきました。イホームから事情を聞いてどうしても荒崎さんの様子を直接見に行きたかったので少しだけわがままを言ってしまいましたけど」


そう言って軽く顔を伏せたファリアは少し恥ずかしそうに笑った。心配してくれるのはありがたいけど、自力で家に帰って来れるくらい元気なのにわざわざそうまでして来てもらうのは逆にこっちが悪いことした気分になるな。というかイホームはそのことをきちんとファリアに伝えたんだろうか。


「そっか、なんかごめんな。余計な心配かけたみたいで」


「いえ! こちらこそいきなりお尋ねしてしまって申し訳ありませんでした。それに他のお客様もいらっしゃっていたのに……」


ファリアにそう言われ、俺は改めてベイル達の方へ視線を向ける。……っていうかずっと思ってたんだけど、何でそんな部屋の隅の方に避難してるのこの二人。しかも全然微動だにしないからなんか一種のオブジェみたいになってるし。


「あー……えっとあの二人はだな、今俺がこの家の食事を作ってもらうために来てもらってる調理代行人のベイルとその妹のカルラちゃんだ」


「調理代行人ということは、このお家の専属シェフのような方なんですね」


おぉ、なんともお上品な言い方に替えられたなおい。まぁシェフって言ってもいいくらい料理の腕は確かなんだけどさ。そう思っているとファリアはおもむろに立ち上がり、二人のいる方へと近づいていった。


「あの……お二人共そんなに気を使われなくても大丈夫ですから、よろしければこちらの方にいらっしゃいませんか?」


彼女はニコニコ笑いながら優しい口調でそう話しかけ、二人の緊張を解そうとしてくれた。だがそんなファリアの気遣いも虚しく、ベイルとカルラちゃんは相変わらずガチガチに固まったままの状態で軽いパニック状態のようになっていた。


「か、かしこまりました! そ、それでは失礼いたします!」


うわぁ……たかが数歩移動するだけなのに、二人共めちゃくちゃぎこちない動きしてる。今まで見たことのないそんな姿が新鮮で内心ちょっと面白いなと俺は思った。

まぁそんなことは置いといて、とりあえずなんとか全員テーブルの周りに集合したんですが……さて、ここからどうしたもんですかね。そう考えていると不意にセルツが口を開いた。


「なぁ主よ。何か考え事をしているところ悪いが、早く食べないとせっかくベイル達が作ってくれた料理が冷めてしまうのではないか?」


そう言ってセルツは皿に盛りつけ終わり、キッチン横へ置かれたまだ出来たてであることが証明されるように湯気が立ち上る料理たちを指差した。どうやらファリアが来た丁度のタイミングで全ての作業は終了していたようだ。おう、なんというタイミングの悪さ。でも、せっかく二人が作ってくれた熱々の料理をこのまま冷ましてしまうのは確かによろしくない。というか俺が嫌だ。となってしまえば俺が取るべき選択肢はただ一つ。


「それもそうだな。よし、じゃあとりあえず飯にするか」


俺がそう言うとベイルとカルラちゃんは一斉にこちらに視線を向け、今の発言を疑うかのような険しい表情をしていた。いやなんでそんな顔するの二人共。そもそも今ここにいる目的は朝食を取ることなんだからなんにもおかしいことじゃないだろうに。


「あ、荒崎! お前王女様の前で食事なんて失礼にも程があるぞ!」


「そうですよ荒崎さん! いくらお知り合いだとしてもそれは……」


二人は必死の形相で俺を止めようとしてくる。うーん、なんだろうか。しょうがないことなんだけどだんだん面倒くさくなってきた。このまま俺の行動にいちいち反応されるのはこっちも疲れるしむこうも疲れるだろう。飯を食うだけなのにこれほどの労力を割くのは非常に効率が悪いよなぁ。


「……じゃあさ、ファリアも一緒に飯食ってみるか?」


「え、私もですか?」


「あ、もしかしてもう食べてきちゃってたか?」


「いえ、まだ食べてはいませんが……いいのでしょうか? 皆さんのお食事なのに」


そう言ってファリアはベイル達をおずおずと見つめた。完全に断らないあたり一緒に食べてもいいという意思は少なくとも彼女にはあるみたいだ。


「だってよベイル。どうする?」


何でか固まったままになっているベイルに俺がそう聞くと、我を取り戻したのかハッとなり彼女は視線をさまよわせた。いやほんと挙動不審にも程があるだろ。


「わ、私の料理など王女様が普段から召し上がられる物の足元にも及ばないとは思いますが! そ、それでもよろしければ是非とも!」


半ば上ずった声で頭を下げながらベイルはそう言った。心なしかちょっと嬉しそうな表情をしている気もする。なんだかんだ言いつつ自分の手料理を食べてもらえることにテンション上がってんじゃないだろうか。


まぁ何はともあれ、これでようやく朝食にありつけるようになった俺達は早速料理をテーブルの上に並べ再び卓を囲んだ。ちなみに今日のメニューはふわふわの卵と薄切りのベーコンで出来たスクランブルエッグ。細かくきざまれた玉ねぎや色とりどりの緑黄色野菜をベイル特性の調味料ドレッシングで和え混ぜたサラダ。黄金色に透き通った具は何も入っていないシンプルなスープ。一口サイズの大きさに丸められた肉に少しとろみのある赤いソースをたっぷりかけたミートボールのようなもの。そして、最後はベイルが街で買ってきたこんがりと焼きあがり香ばしい匂いを漂わせるクロワッサン。


うーん、どれもこれも美味しそうだ。まさに朝食と呼ぶにふさわしいラインナップに人知れずテンションが上がる。


「どれも美味しそう! すごいですね荒崎さん!」


「だろう? まぁ、すごいのは見た目だけじゃないんだけどな」


俺が自慢げにそう言うと、横に座っていたベイルは何か物言いたげに俺を睨んでいた。言いたいことは分かるけど、とりあえず今はスルーして俺は料理に手を伸ばし始めた。


「それじゃあ私も……いただきますね」


ファリアも俺につられてフォークを持つと目の前の料理に手をつけた。そんな彼女を固唾を飲みながら皆が見つめる。果たして王女様は庶民の朝食をどう評価するのか……。


ファリアはまずスクランブルエッグを丁寧にすくうとなんとも気品のある動作でそれを口に運ぶ。そして、ゆっくりと目を閉じ何故か楽しそうに唇を歪めた。


「なめらかで柔らかい卵としっかりと塩コショウで味付けされたベーコンが絶妙に絡まってとっても美味しいです!」


目をキラキラさせながらそうファリアが言うと、緊張の面持ちでそれを見ていたベイルとカルラちゃんの表情も一気に明るいものになった。


「あ、ありがとうございます!」


「よかったね姉さん!」


どうやら王女様は庶民の朝食を高く評価されたみたいだ。その後もファリアは一口食べるたびに感想を漏らしながら何とも楽しそうに食事をしていた。そのおかげもあってかベイルとカルラちゃんの緊張も一気に解け、彼女達の距離もいくらか縮まっていったようだった。


「みんな楽しそうで良かったですねご主人様」


そんな様子を見ていた俺にフラウは尻尾をゆらゆらと振りながらそう言ってきた。


「あぁ。まぁ、ファリアならきっと気に入ってくれると思ってたけどな」


「ぴぃいいいいいい!」


そんなこんなで初めの時とは打って変わって和気あいあいとした空気が流れる中、無事本日の朝食会は終了したのであった。










その後、全員が綺麗に食事を終えるとファリアはあまり時間も経たないうちに城へ帰ると席を立った。


「皆さん、本日は本当に美味しいお食事と楽しい時間をありがとうございました」


ペコリとお辞儀をするファリアに対しベイルたちは慌ててこちらこそと深々頭を下げた。


「王女様にお褒め頂いた今日のことは一生の思い出にいたします!」


そうベイルが口にするとファリアはうっすらと微笑みを浮かべた。


「王女様、ではなくファリアとお呼びください」


「え?」


まさかの言葉にベイルは目を丸くした。そんなベイルにニコニコ笑いながらファリアは続けた。


「その方がより親しく感じれると思うんです。皆さんともっと仲良くなれるためにも」


「な、仲良くでございますか?」


「あ、いえもしお嫌でしたら無理にとは言わないのですが……」


そう言うファリアにベイル達は勢いよく首を横に振り、全力で否定の感情を現した。


「この身に余る光栄でございます! え、えっと……ファリア様!」


「はい、これからよろしくお願いしますね。ベイルさん、カルラさん」


なんかさりげなくお友達作っちゃってるし。まぁ親密な関係になってくれるならそれに越したことはないんだけどな。


「それでは荒崎さん。私行きますね」


「おう、分かった」


俺はファリアを玄関まで見送り、改めて一言詫びの言葉を言った。


「本当にわざわざすまなかったな」


「いえ、おかげで新しい出会いもありましたし、とても貴重な時間が過ごせました」 


そう言って笑ったあと彼女は少し俯いて俺にこんなことを聞いてきた。


「荒崎さんは……やっぱりお料理ができる方のほうがいいんですよね?」


「ん? そりゃまぁ自分が下手だから情けないけど作ってもらえる腕がある方がいいかな」


作ってもらうんじゃなく自分のスキルを鍛えろよという話なんだけど、それまでにかかる時間と食材達の犠牲を考えればその方がきっといいんだろうと思っちゃうんだよな。


「そう……ですか。やっぱりそうですよね」


「?」


やっぱりっていうのがどういう意味なのか聞いてみたい気もするけど、なんとなく今はやめておいた方がいい気がするのでこれ以上は聞かないでおこう。


「そ、それでは荒崎さん。また近いうちにお会いすることになると思いますけど、それまでお元気で」


「あぁ、ファリアもな」


そして、彼女は外に待機していた執事の方にエスコートされ馬車に乗り込み城へとまっすぐ帰って行った。


「近いうちにお会いするか……」


恐らくあのベンダーさん達のことだろうとは思うけど。そう考えながら俺はファリアの乗る馬車が見えなくなるまで外で立ち尽くしていた。





ちなみにその日の夜、夕食を作りに来てくれたベイルとカルラちゃんはいつにも増してやる気満々の様子で調理に取り掛かっていた。


「二人共すごいやる気ですね」


「どうやらこれからはもっと旨い飯が食えるようだぞ主」


「ぴぃいいい! ぴぃいいいいいい!」


「ははははは……」


どうやら俺の食に関してはこれからもとりあえず安泰なようです。











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