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期待できるだけの可能性

すいません、火曜日に更新するつもりが水曜日になってしまいました。

こちらに向かってくる黒い人型の霧は幸運にも動きがそこまで素早くなく、攻撃しようとしてきても動きが大振りなので俺でもなんとか避けることが出来ていた。それでも数は複数体いるため油断はできない。あれに当たったらどうなるのか分からないから余計に怖いんだよな。


「はぁぁああああああああ!!!」


ベンダーさんはそんな俺とは対称的であの大鎌を自由自在に振り回しながら近づいてくる霧を瞬時に霧散させている。流石はヒルグラウンドのトップランカーといったところだよな。動きからして一般人とはかけ離れた能力を持っていることがひと目で分かった。そしてそれはこいつらも同じなようで、明らかに俺に向かってくる数とベンダーさんに襲いかかる方の数に差が出ている。もはや俺なんかよりも驚異的な戦力を、一気に集結させ叩き潰したいようだ。


「もうあの人一人でいいんじゃないかな?」


思わずそう呟いたが、それでもこっちにくる霧はまだ数体だけいるのだ。こっちの分までベンダーさんに任せるのはまずいよな。こうなったら俺も反撃しなければ。


「とは言っても当たらなければ意味ないんだけどな」


俺は銃を取り出すと奴らに向かって構え、しっかりと照準を定めるように狙いを付ける。大丈夫だ、さっきだってあの化け物に当てられたんだからきっとできる。そう自分に言い聞かせながら適度に距離をとりつつゆっくりと息を吐く。集中しろ、感覚を研ぎ澄まして引き金を引くだけ。余計なことは考えるな。今はとにかくこいつらをぶっとばすことだけを考えるんだ。そして霧の動きが一瞬鈍くなった瞬間、俺はためらうことなく一気に引き金を引いた。

その瞬間大きな発砲音と共に銃口から衝撃が撃ち放たれる。そして、目の前にいた二体の霧の体をまるで貫通するように吹き飛ばし、その姿を跡形もないものへと変えていた。


「よし、今回もうまくいった!」


なんとなく感覚をつかみ始めていることに喜びつつも、撃つたびに手に残る痺れにはいまだ慣れないため、俺は手を振ってなんとかそれを緩和しようとする。一回撃つたびにこれじゃ数で責められたら終わりだな。さっさと治さないと。俺は自分の手に向かって回復魔法をかけ完全に元の状態に戻した。とりあえずはこれで凌ぐしかないよな。


「下等な種族が抗いおって、このようなことをしても無駄だというのに」


ララちゃんのそばで佇んでいた巨大な霧は不意にそう言うと、彼女の体に向かって自分の体の一部を伸ばしたかと思うとそのままいきなり腹部へと突き刺した。


「いぁああああああ!!」


「ララ!!」


ララちゃんの悲痛な声にベンダーさんは思わずそう叫んでいた。あの野郎何してやがんだ!!


「おい、なにしてんだやめろ!!」


「何故だ? どうせこの小娘は死にゆく運命。いまさら苦痛を与えたところでなんの問題もない。むしろ今その感覚を味わうことで生きていると実感できるのだ。こやつもありがたいことだろう?」


そう彼女を弄ぶような発言をしたあと、再びララちゃんの体に黒い霧を突き刺した。その瞬間、彼女の悲鳴があたりにこだまする。それをこの巨大な霧は楽しんでいるかのように笑い声を上げた。


「やめろぉおおおおおおおお!!」


そんな状況にベンダーさんが耐えられる筈もなく、周りの霧を全て吹き飛ばすほどの衝撃波を放ちながらララちゃんのもとを目指して一気に走り抜ける。そして、宙高くに飛び上がると巨大な霧に向かって斬撃を放った。

しかし、その斬撃が届くことはなく瞬時に作られた壁のようなもやで塞がれてしまった。


「何!?」


「このような粗末な刃で我に傷でもつけられると思ったか?」


そして巨大な霧はベンダーさんめがけて手を掲げるようにすると、そこから勢いよく吹き出た霧が彼の体を貫いた。


「ベンダーさん!!」


彼は口から血を吹き出し、その場に力なく膝から崩れ落ちた。それを煩わしいと言わんばかりにこちらに吹き飛ばすと彼の体は中を舞った。俺はそれを受け止めようと滑り込みなんとかキャッチに成功するもその勢いに負け、そのまま倒れこんでしまった。


「べ、ベンダーさん! しっかりしてください!!」


そう声をかけるも彼はかろうじで呼吸を繰り返すのがやっとのようで、まさに瀕死の状態へとなっていた。くそっ、急いで治さないと。


「身の程を知ったか人間よ。これが所詮貴様らの力だ! 貴様らのような非力な人間は我々の力を蓄え広げるためのただの道具に過ぎないのだよ! 生きる権利? 笑わせるな!! そんなものは……」


そこまで言いかけた時、突然巨大な霧は苦しむようにくぐもった声を出し、自らの頭を押さえ込むようにしていた。なんだ、どうしたんだ突然!?


「ち……がう」


「え?」


俺は思わず自分の目を疑いそうになった。台座の上で眠っていたはずのララちゃんが自分の腕を上げ、自らに突き刺さっている黒い霧を掴んでいたのだ。


「な!? 貴様!!」


「人間は……道具なんかじゃない……。私が……生まれてからお兄ちゃんと生きてきた人生は……あなたのためじゃなく私のものだった……」


弱々しくもそう必死に訴える彼女の声に、明らかに巨大な霧は反応を示している。そして、それがあいつを苦しめているのだけは確かだった。


「私は……生きた……。誰のためでもない……自分のために……。それが本当は許されなかったことでも……」


「うぁああああああ!! がぁぁぁあああああああああああぁぁ!!!」


そして霧が叫び声を上げ暴れだしたかと思うと、突然今度は部屋全体が大きく揺れ始めた。


「うるさいうるさいうるさいうるさい!! そのような戯言、反吐がでるはぁぁあああああああああああああ!!」


奴は頭を抱えながらそう吐き捨てると、ララちゃんを取り囲むように霧を発生させ更に巨大に膨らみだした。


「おいおい、なんだよ!!」


「ラ……ラ……」


このままではまずい。どうにかしないとあの子があいつに取り込まれてしまう。そうなったら本当に終わりだ。でもどうすればいい? ベンダーさんを治したところであいつには歯がたたない。俺の銃だって効くかどうか分かったもんじゃない。でも、試してみる価値はあるか? いやでも……あぁああああくそっ! どうすりゃいい! そう必死に考えている時だった、


「お兄……ちゃん……」


ふとララちゃんがそう呟く声が響き渡った。その声にベンダーさんは顔を歪めながら彼女の方を見た。


「ごめんなさい……。私のせいで今までいっぱい迷惑……かけて……」


そう言う彼女の声は微かに震えていた。それが恐怖からなのか悲しみからなのかは分からないが、そこに想いが込められているのは確かだった。


「お兄ちゃん……今まで一緒に生きてくれて……ありがとう」


その言葉を聞いた瞬間ベンダーさんは目を見開き、ボロボロの体を這いずるようにして彼女に近づこうとした。


「ベンダーさん何してんですか!?」


「うるさい離せ!! ララが……あの子があそこにいるんだ! 行かなくちゃ、俺があいつを助けなくちゃ!!」


その気持ちは分かる。でも今のままじゃたどり着くのもやっとだ。とりあえず治療をしないと……。そこまで考えたとき、俺はふとあることを思い出した。それはこの銃の性質と俺の力についてだ。イホームの話ではこの銃の弾丸の代わりになるのは俺の‘魔力’だと言っていた。ということは俺の魔力が高まればその分撃ちだす威力も高くなるはずだ。そして、俺の力。この力を使っているときに前にイホームが言っていた。この力を使っている時だけは俺が凄まじい魔力を発揮していると。


つまりだ、ここで俺がベンダーさんを治療している時に使うこの力の魔力をこの銃に込めて撃ちだせば相当な威力になるはず。さっきの時も中々の威力はあったのだから、少なくとも期待できるだけの可能性はあるはずだ。


「賭けてみるしかないか」


そう決めた俺はすぐにベンダーさんに近づくと今の作戦を伝えるために彼を落ち着かせようとした。


「ベンダーさん、ベンダーさん!! 聞いてください、俺にいい案があるんです!」


そう言うと彼は俺の話を聞く気になってくれたのか、こちらに顔を向けてくれた。時間がない、手短に伝えないと。


「今から俺があなたの傷を治療します。その時、俺が使う魔法の魔力をこの銃に詰め込んであいつに向かって撃ち込むんです。俺が回復魔法を使っているときはいつもの何十倍も強力な魔力を引き出すことができるからそれであいつを吹き飛ばせるかもしれません」


「……自信は……あるのか?」


その質問に俺は嘘を言ってもしょうがないと思い、本当のことを伝えることにした。


「分かりません。でも、俺だって彼女を救いたい気持ちは同じです。だからどうか賭けてくれませんか? その可能性に」


そう言うと彼は俺をまっすぐ見つめてきた。その視線になんでか試されているような気がして、俺もまっすぐ見つめ返す。するとほんの少し間が空いたあと彼は数回頷き、俺の提案を了承してくれた。


「そうとなれば……すぐにやるぞ」


「はい!」


俺はベンダーさんに肩を貸しながらなんとか立ち上がらせると、そのまま奴に向かって銃を構える。目標は今まで撃ってきたどんなものよりも巨大な物体。しかもその力は未知数だ。なのに不思議と恐れはなかった。そんなことよりもさっさとこいつを消し去ってしまいたい。その思いが俺を奮い立たせるように鼓舞していた。


「いいですか? やりますよ!」


「あぁ、いいぞ」


そう言ってベンダーさんは俺の片腕を支えるようにしっかりと握ってくれた。そのおかげで狙いが固定されより撃ちやすくなった。


「何をするつもりだ? そのような小細工で……」


「お前のお喋りはもう聞き飽きたんだよ! だからそろそろその口閉じやがれ!!」


俺は霧の言葉を遮るようにそう叫んでいた。そして、ベンダーさんに向けて回復魔法をかける。


「レイズ!!」


その瞬間、彼の体が光に包まれていく。そして、俺はその一瞬のうちにありったけの魔力を込めるよう念じながら銃の引き金に指をかけた。するとそれに共鳴するかのように銃も光り輝き、力が溢れ出すようのが分かるほど強烈な感覚が全身を巡っていった。


「一生地獄で眠ってろ! クソ野郎が!!!」


そう吐き捨てたあと俺は引き金をひき、一気に魔力を発射させた。


「なぁぁあああああああああああああ!!」


その瞬間あまりの衝撃に俺達の体は後ろに吹き飛ばされ、軽く数メートルは

宙に浮いていたと思う。


そしてそれほどまでの魔力の弾丸は、予想通り照準がずれてしまい体を狙ったはずが頭部を狙うような感じで上に向けて発射されていた。そんなことでは当たらないと思うかもしれないが、幸いにも奴は今自身の体を動かせない状態になっていたようで避けるという選択肢が取れなかったのだ。更に膨張し巨大化していたおかげで当たる面積が広くなっていたため、見事に的同然のようになってもいた。


「が……あ?」


そして何より奴は今の魔力の弾を受け止めることができなかったらしく、その頭から体の半分ほどまでを吹き飛ばされ、残ったパーツも散り散りになりながら徐々に霧散していっていた。


「やっ……た?」


先程まであんなに巨大だった霧がしぼんでいく姿を見ながら俺はそう呟いた。いや、フラグとかじゃなくて本当にやったのか?


「ララ!!」


そう呆然としていると、ベンダーさんがララちゃんのいる台座に向かって走っていった。どうやら傷は完全に治ったようだ。それを見た俺も慌てて彼のあとを追う。


「ララ! ララ!! しっかりしろ!」


台座の上に横たわる彼女の姿はすでにボロボロで所々の傷口から生々しく血が溢れ出している。ピクリとも動かない彼女に必死に呼びかけるベンダーさんだが、反応は帰ってこない。まさか……手遅れだったのか?

そう思った時、彼女の右手が微かに動き反応を示したのを俺は見逃さなかった。


「う……あ……」


「ララ!」


ベンダーさんの呼びかけに答えるように彼女はうっすらと目を開け、ほんのすこし首を傾けた。


「お兄……ちゃ……ん」


「あぁ、そうだ。お兄ちゃんだ」


彼女の手を握り、そう言う彼の顔には余裕などなく、今までみてきたクールさはどこかへと消え去っていた。今彼はただの妹を心配する兄になっているのだろう。


「私……生き……てる?」


「生きてる、そうだ生きてるぞ! お兄ちゃんと一緒に生きてる」


彼のその言葉にララちゃんは力無くだが微笑むように表情を崩した。


「そうか……生きてるんだね……私」


そう言うと彼女もベンダーさんの手を握り返していた。全く力は入っていないはずなのに、何故かどんなものよりも固く結ばれているような気がするその手にはきっと、今まで彼らがずっと得てきた繋がりの強さが現れていたのだと思う。

だがしかし、俺はその光景をいつまでも眺めている場合ではない。今の状態からこの子を早く治してあげなければいけないからな。


「あー……ベンダーさん? 感動の対面中に悪いんですけど、とりあえず彼女を治療してあげたいんですがいいですか?」


「あ、あぁそうだな。すまないよろしく頼む」


という訳で俺はベンダーさんに一回離れてもらい、ララちゃんの体に手をかざすと力を使うため意識を集中させた。あ、ちなみに先程撃った銃による体の痺れや異常は既に治し済みである。


「レイズ!」


俺はいつも通りその言葉を唱え、彼女を治療した。光に包まれたララちゃんは全身が光ったかと思えばすぐに吸収されるように消え去り、後に残ったのは綺麗な白肌の女の子の姿だけだった。


「よし、治療成功!」


その俺が言った後、彼女は再びゆっくりと目を覚ましたのだった。

次回予告

なんとか脅威を消し去ったと、ひと安心する荒崎達。しかし、彼女の呪いが消えた今、この世界もまた消え去ろうと崩壊を始めていた。何とかして出口を探す彼らだったが、その時予想外の事態が荒崎を襲うことになり……

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